私は、30年間、㈱商業界に在籍してきた。
[結城義晴のBlog 毎日更新宣言]に当たって、思うことがある。
それは2005年の地方ゼミナールのことだ。
㈱商業界には全国に商業界同友会という組織がある。
毎月のように集まって、互いに研鑚し、
勉強する小さな商人の集まりである。
彼ら同友の合言葉は「友情」。
一生の友となる仲間の存在が、
いわゆる「商業界精神」を高めつづけることに大きな勇気をもたらす。
そんな各地の同友会は、地域ごとに連合同友会を形成している。
そして地域ごとの連合同友会が主体となって、毎秋、
7カ所で「商業界地方ゼミナール」が開催される。
九州ゼミナール、
中四国ゼミゼミナール
近畿ゼミナール、
中部ゼミナール、
北陸ゼミナール、
関東山静ゼミナール、
東北ゼミナール。
私は㈱商業界の社長として、
これら地方ゼミナールの応援団長のような役回りを演じる。
すべてに参加し、
基調や訣別の講演、開講式や閉講式のスピーチ、
懇親会の挨拶などをする。
同友会は随分高齢化してしまったが、
それでも若い同友がいる。
彼らを励まし、その悩みの相談に乗るのが私の役目。
商業界の同友会活動は、明らかにひとつの運動体である。
その運動体が選んでいく方向を模索するとき、
ともに悩みながら指針を示すのが、これまでの私の仕事であった。
第40回九州ゼミナールの成果
さて数々の地方ゼミナールの中で、私には、思い出深いものがある。
2005年の第40回九州佐賀ゼミナールである。
福岡生まれの私も少々お手伝いして、
2004年9月に発足したばかりの佐賀同友会が主管したものだ。
なぜか、九州の地で、これまで佐賀には同友会が誕生しなかったのだが、
この生まれたてのグループが、
40年の空白を埋めるような快挙を成し遂げた。
それは参加したメンバー全員の心が一体となって、
終了した閉講式に象徴された。
商業界のゼミナールは、どれをとっても、
通常の経営研究会や経営セミナーとは異なっている。
それはある種の精神的な昇華現象が、参加者の中に湧き上がり、
学んだことを「実行しよう」という強い意思の表明とともに、
次につながっていく点である。
この時の九州ゼミナールは、特に著しい波動のようなものを発した。
その理由は「凡時を徹底する」という考え方が、
すべての講座に貫かれ、
それこそが「有事に活きる」という結論に至ったからである。
第40回九州ゼミナールの講座と講師を順番にご紹介しよう。
①佐賀県知事・古川康「新地方の時代の改革」
②商業界主幹・倉本初夫「21世紀商業への出発」
③アシックス会長・鬼塚喜八郎「転んだら起きればいい」
④[パネルディスカッション]結城義晴、イズミ執行役員・脇坂徳男、イオン九州SC
事業部長・宅島祥夫「激変する流通業界とイズミ、イオンの九州戦略」
⑤イエローハット相談役・鍵山秀三郎「心あるところに宝あり」
⑥熊本県公立菊池養生園名誉園長・竹熊宣孝「もう!そろそろ命一番」
⑦CASジャパンCEO・小林敬「集客の虎 勝ち残りの秘訣」
⑧南蔵院第二十三世住職・林覚乗「心ゆたかに生きる」
⑨ニチイ創業者夫人・西端春枝「縁により縁に生きる」
⑩熊本県立第一高校校長・大畑誠也「21世紀の人づくり」
⑪長崎県立国見高校校長・小嶺忠敏「指導力」
⑫日本旅行西日本営業部課長・平田進也「なにわのカリスマ添乗員、サービスの極
意」
⑬志ネットワーク代表・上甲晃「人間松下幸之助翁に学ぶ」
⑭訣別講演・結城義晴「第三の場所になろう」
14講座15人の講師全員が強調したことがある。
それは、「現場の重要さ」と「当たり前のことの徹底」である。
政治家である知事、教育者、宗教家、経営者・経営幹部、指導家、
そしてジャーナリスト。
全員が全員、「現場重視」「当たり前の徹底」を訴え、
そのための忍耐力と使命感の必要性を唱えたのである。
「凡時徹底」と「悪戦苦闘能力」
イエローハット創業者で、
「日本を美しくする会」の主催者として名高い鍵山秀三郎さんは、
実に淡々と語り続けた。
「大きな努力で小さな成果に耐えることが必要です。
小さな努力で大きな成果を上げようとする人は、
他人の努力を奪っているのです。
最後には何にもならないことに努力する。
だから人間として成長する。
努力は無駄にならない。
必ず報われるようにできている。
ただし、自分が望んだようには報われないけれど」
鍵山さんはさらに続けた。
「幸せは自由の中に存在するのではない。
甘んじて受ける義務の中にこそ幸せは存在する」
鍵山さんは、信条の「凡事徹底」を切々と唱えて、
壇を降りた。
熊本県内のいくつもの荒れた高校を蘇えらせた大畑誠也校長は、
「悪戦苦闘能力」をいかに生み出したかを、
教育現場からの成果として報告した。
何よりもまず、全員に「挨拶を徹底させる」。
「挨拶が徹底されるように、悪戦苦闘する」。
次に「朝飯を食べることを徹底させる」。
仕舞いには、校内でごはんと具沢山の味噌汁を作って、
学校で朝食を食べさせてしまう。
これで100%となる。
さらに「家の手伝いをすることを徹底させる」。
そして「思いをもたせる」。
最後に「本を読ませる」。
この5つの改革の中から次々に高校が蘇えっていった。
これ、現在の若い社員を教育する経営に通ずる。
大畑校長は、偶然にも、鍵山さんと同じく、
「凡事徹底」と大きく書かれた紙を、
高だかと掲げて感動の講義を終了させた。
訣別講演で私は、
イトーヨーカ堂グループの「基本の徹底と変化への対応」を引きながら、
「小さく始め、ゆっくり進め、常に改善せよ」と訴えた。
最後に私は、新潟県中越地震と阪神大震災の時の文章を読んだ―――。
小さな店も、大きな企業も、
皆が、この時こそと、日ごろの仕事の腕を発揮した。
いつもよりも素早く、力強く、黙々と。
店は客のために、
是が非にも開けておかねばならない。
有事の時にこそ、頭を柔らかくし、
冷静に活躍せねばならない。
人びとが立ちあがる礎にならねばならない。
商業人はどんな時にも、
明日を見つめていなければならない―――
私は「凡事徹底」と「有事活躍」を訴えかけたかった。
それが、この第40回九州ゼミナールと現在の日本の商業を、
キーンと貫く主題だったからである。
[結城義晴のBlog 毎日更新宣言]の今日。
私の心の中にあるのは、
「凡時徹底」と「有事活躍」である。
「悪戦苦闘能力」である。
ご愛読のほどを。
<㈱商業界社長 結城義晴>
追伸
今回も長文のご精読、感謝。
明日は、短くて、読みやすくて、楽しい話題を。
乞う、ご期待。