「セブン&アイ、近商ストアと資本・業務提携」のニュースと8月の業態別売上高実績
台風15号、首都圏直撃。
それでも、なぜかみな、
落ち着いていた気がする。
日経新聞がスクープ。
「セブン&アイ、近鉄系スーパーと提携」
フライング気味のスクープもないことはないが、
それでも流通産業・食品産業のニュースに関しては、
その早さと正確さにおいて他の追随を許さない。
内容は、セブン&アイ・ホールディングスが、
近商ストア と資本・業務提携するというもの。
近商ストアは近畿日本鉄道の子会社の食品スーパーマーケット。
平成22年度年商613億円、近畿圏に約40店舗を展開。
しかし「昨今、近商ストアの業績は悪化しており、
近鉄グループはセブン&アイに支援を求めた格好」。
セブン&アイが第三者割当増資で、
近商ストアの普通株式約502万株を引き受け、
議決権ベースで30%を取得。
現在72.4%を所有する筆頭株主の近鉄の持ち株比率は、
50.7%に下がる。
セブン&アイの経営権が高まることは確実。
セブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」の供給、
イトーヨーカ堂、ヨークベニマル・ヨークマートなどとの商品共同仕入れ、
物流や情報の効率化支援などが柱になる。
セブン&アイは、
総合スーパー事業としてイトーヨーカ堂、
食品スーパーマーケット事業としてヨークベニマル、ヨークマートを持つ。
ヨーカ堂は174店展開しているが、関西以西は13店舗。
ヨークベニマルは東北、ヨークマートは関東。
日経の記事は、
「店舗網が薄い近畿圏で展開する近商ストアと提携することで、
西日本での業務拡大につなげたい考え」と読む。
ナショナルチェーンとして、
関西の大きなマーケットをターゲットにしていくことは、
分からないでもない。
しかしそれよりも、従来から、
セブン&アイの戦略転換にこそ注目すべきだろう。
同社はこれまで、
食品スーパーマーケットのM&Aに無関心だった。
それが変わったのか。
イオンは全国にマックスバリュを配置する。
関東ではカスミ、ベルク、いなげや、マルエツなども、
グループ企業である。
関西の光洋もグループ企業だし、
四国のマルナカや山陽マルナカとも業務提携をしている。
イオンは全国チェーン網の整備を鮮明にしている。
対してセブン&アイは、
その戦略を採用してこなかった。
セブン‐イレブンはM&Aをせず、
独自の開発によって、
全国チェーンとなってきた。
コンビニだからだろうか。
しかし食品スーパーは、
M&A戦略で行くのだろうか。
ローカルスーパーマーケットチェーンのなかには、
激しい競争にさらされ、苦しい経営を余儀なくされている企業も多い。
後継者難の企業もある。
そのうえ、変な言い方だが、
「イオンはいやだがセブン&アイならいい」といった企業もある。
つまり、この近商ストアの一件によって、
セブン&アイのM&Aが加速するとも考えられる。
アメリカでは、現在まで、
クローガーとセーフウェイの2強が、
全米のローカルチェーンを次々に傘下に収めてきた。
それと同じ現象が、すぐに日本で起こるとは思わないが、
それでも今回のセブン&アイの動きは、
アメリカ的なM&A現象への予感をさせるものではある。
さて業態別の8月の売上げ実績。
各協会から次々に発表されている。
まず第1に日本百貨店協会から「全国百貨店売上高概況」。
百貨店86社のデータ。
8月の全国総売上高は4258億9945万円で、
前年比はマイナス1.7%となった。
8月は暑い時期と涼しい時期の気温の差が大きく、
7月まで売れていたクールビズ関連商品や涼感寝具などが
伸び悩んだため、前年の実績を割り込んだ。
東北地区の復興需要は依然、続いている。
仙台の前年比はプラス8.9%と好調。
4カ月連続でプラスとなっている。
大阪や福岡など、
新店のオープンや増床が目立つ地区では、
今月も好調な数字を維持。
大阪は全店ベースでプラス4.5%、
福岡はなんとプラス14.6%。
一方で、四国地区はマイナスが続き、
8月でとうとう50カ月連続のマイナスを記録。
第2は「コンビニエンスストア統計調査月報」。
日本フランチャイズチェーン協会の発表。
調査対象はコンビニ上位10社。
8月の既存店売上高は7364億0800万円で、
前年同月比プラス7.9%。
これで、昨年11月から、10カ月連続のプラス。
店舗数(全店)は4万3985店でプラス1.7%、
既存店客数は12億1277万人でプラス0.04%と微増、
既存店客単価は607.2円のプラス7.9%と、
プラス・トレンドが続いた。
しかし、コンビニでも8月下旬の低温気候が
アイスクリームやソフトドリンクの売上げに響いた。
加工食品の売上高前年比マイナス2.6%という数字が物語っている。
非食品カテゴリーに関しては、
今月も好調を維持し、23.5%のプラス。
たばこや雑貨類の伸びが顕著である。
第3に、「スーパーマーケット販売統計調査」。
こちらはオール日本スーパーマーケット協会、
日本スーパーマーケット協会、
新日本スーパーマーケット協会、
3協会からの合同発表。
集計企業数281社、総店舗数7552店。
総売上高は8444億7509万円、
既存店の前年同月比マイナス2.5%。
食品合計は7158億3958万円(マイナス2.3%)、
生鮮3部門の合計が2584億7641万円(マイナス3.2%)、
そのうち青果が1077億1866万円(マイナス4.2%)、
水産が727億4870万円(マイナス2.3%)、
畜産が780億0905万円(マイナス2.5%)。
惣菜は762億5578万円(マイナス0.3%)、
日配は1505億0143万円(マイナス2.3%)、
一般食品は2306億0596万円(マイナス2.0%)。
そして最後に、非食品が784億7148万円(マイナス3.6)、
その他が501億6403万円(マイナス1.3%)。
軒並みマイナスを記録。
昨年に比べ、猛暑にならなかったことと、
下旬の気温の低下。
天候による夏物商材への影響が、
ここでも露呈している。
また今年は輪番休業により、
週末に出勤する人が増加したため、
お盆が分散してしまった。
結果、8月は厳しい数字となった。
最後に第4に、「チェーンストア販売統計」。
日本チェーンストア協会会員企業60社、
7992店舗の販売実績。
ほぼ5割が総合スーパー企業9社による。
総販売額は1兆0656億7977万円で
前年同月比(既存店)がマイナス2.2%。
7月の実績と比較すると、5.1%もマイナス。
食料品の販売額は6874億0480万円(マイナス2.7%)、
衣料品は977億0135万円(マイナス3.8%)、
住関品は2115億4712万円(マイナス0.8%)。
8月は特に紳士物の衣料が売れなかった。
クールビスの需要が7月で終わってしまったとみられる。
前月比マイナス32.8%だった。
日用雑貨に関しては、9月1日の防災の日を前に、
水タンクなどの防災関連グッズが売れた。
今年は特に消費者の防災意識が高まっているのだろう。
8月の売上げ動向を前年同月比で整理すると、
百貨店はマイナス1.7%、
総合スーパーはマイナス2.2%、
食品スーパーマーケットもマイナス2.5%、
しかしコンビニだけプラス7.9%。
セブン&アイ・ホールディングスが、
コンビニは独自に全国チェーン網構築を果たしてきて、
スーパーマーケットはM&A戦略をとるかもしれないということの背景に、
この実績数値が影を落としているかもしれない。
<結城義晴>