「紙が網に乗っ取られる」ボーダーズ倒産劇とコーネル・ジャパン「パネルディスカッション」の盛り上がり
日経新聞の国際欄は面白い。
ニューヨーク特派員・杉本晶子さんの報告を、
私、いつも楽しみにしている。
まず米国出版社協会(AAP)発表、
2010年の主要出版社87社の売上高。
「電子書籍が前年比2.6倍の4億4130万ドル(約370億円)」
「一般書籍の売上高合計に占める割合」が
1年で「3.2%から8.3%へと急上昇」
続いて、「ボーダーズが破産法申請」の記事。
全米第2位の書店チェーンボーダーズ・グループが、
米国連邦破産法11条の適用を申請。
これは日本の民事再生法に当たる。
「ボーダーズの負債総額は12億9000万ドル(約1080億円)」
「米国内店舗の約3割に相当する200店を4月末までに閉鎖」
米書店チェーン首位のバーンズ・アンド・ノーブルも、
2010年8~10月期の最終損益が1200万ドルの赤字。
アメリカ書店業界は、
まず、バーンズ&ノーブルとボーダーズによって、
「複占」の状態となっていた。
複占とは「ある市場のほとんどが二者によって占められてしまう状態」
しかし、その二強の一方が崩れた。
誰によって?
もちろんアマゾン・ドット・コム。
同社もこの1月末、発表した。
「電子書籍のコンテンツ販売がペーパーバックの販売数を超えた」
複占の次は、新しいカテゴリーとの融和、
あるいは新しいカテゴリーによる席巻が起こる。
マクネア先生は、「小売りの輪」を言った。
さらに私は以前から言っている。
「カミからアミへ」
つまり「紙メディア」が「網メディア」に乗っ取られる。
新聞・雑誌・書籍が、ネットにシェアを食われる。
それが表面化してきた。
もちろん紙がなくなることはない。
紙側は、従って、
紙でなければならないことは何かを考えねばいけない。
同時に「紙と網の融合」を試みねばならない。
古い頭や目先の視点では、
到底解決できない課題ではあるが。
一方、アバクロンビー・アンド・フィッチも復活してきた。
アメリカのカジュアル・ファッション・チェーン。
2010年11月~11年1月期の四半期決算。
売上高は前年同期比23%増の11億4939万ドル。
このうち既存店売上高は13%増。
なによりも純利益が95%増の9259万ドル(約77億円)。
アバクロでも、「ネット通販は米国内外の合計で43%伸びた」。
不調から蘇ろうとする企業は、
まず利益面が改善される。
そのあとで売上高がついてくる。
どん底で売上高から回復させようとすると、
失敗することが多い。
店や商品が顧客に支持されないという状況は、大抵の場合、
店に良い商品がなくなってしまったから起こるのではない。
良い商品が埋没してしまったからである。
あるいは売り手が顧客の望む商品を自覚できなくなったからである。
昨日16日はコーネルRMPジャパンの2月講座2日目。
場所はお堀端に立つ三井物産㈱本社12階の会議室。
朝8時過ぎの皇居前広場。
2日前に東京が大雪(とはいえ、5センチだったが)だったとは思えない、
澄み渡った春の一日のスタート。
会議室にも朝の光がまぶしく降り注ぐ。
この日の授業は、マーチャンダイジングに関する講義の後で、
パネルディスカッションや質疑応答。
二本立てで進行する。
午前の部は、まず「生鮮食品のMDホットトレンド」がテーマ。
まず食肉市場の最新動向を大西徹男講師に語っていただいた。
大西さんは㈱伊藤ハムマーケティング研究所で長年、
所長を務められてきた食肉マーチャンダイジングのプロ。
昨年末に退社・独立されたが、
今は、講演・コンサルティングに全国を飛び回る毎日。
コーネル・ジャパン第一期からの講師でもある。
世界の食肉事情、TPPの影響、加工肉情報などを、
豊富なスライド資料で解説してくださった。
大西さんの今年の講義、とても良かった。
続いて、藤井俊雄講師の「青果物市場の世界需給トレンドと課題」。
藤井さんは、ダイエーご出身で、
その後、スーパーマーケットを中心に青果部門の指導をしてきた。
「ダイエー20年、コンサル20年」のベテラン。
人口増加に比して、農産物生産は伸び悩む。
世界的な食料危機。
その中で、国内の農産物の生産・流通、販売はいかにあるべきか。
藤井先生の主張は、「徹底した現場主義」。
「バイヤーは内外の生産地や産地市場を歩き回れ」
その産地の写真をもとに、丁寧に講義してくれた。
講義の後は、お二人の先生と結城義晴のパネルディスカッション、
及び質疑応答。
真っ先に手をあげて発言したのが、
㈱シジシージャパン商品本部取締役副本部長の辻信之さん。
そして㈱平和堂店舗運営本部SM第2店舗部部長の福嶋繁さん。
お二人の先生方は真摯に質問に答え、意見を交わしてくださった。
コーネル・ジャパン「実行の第3期生」ともなると、
講師に肩を並べるほどの見識を持っている。
だから受講生から質問を出してもらい、
講師に答えてもらった後で、
私は聞く。
「あなたはどう考えるか?」
1時間のパネルディスカッションのあと、、
最後列で議論を聞いていた荒井伸也首席講師から、
まとめの言葉。
昼食休憩をはさみ、いよいよ午後の部へ。
日も昇り、皇居の先の渋谷、新宿の摩天楼も霞んできた。
午後は「商品開発」がテーマ。
当然ながらプライベートブランド開発にも論述が及ぶ。
はじめは「日本小売業の商品(PB)開発」。
講師は、食品流通研究会会長の井口征昭さん。
井口さんは西友ご出身で、「無印商品」の立ち上げにかかわった。
日本の小売業のPBに対しての歴史観と分析力は、
他に比する者なし。
「店舗開発力を上回る商品開発力はない」
「企業の理念が商品開発に反映される」
鋭い分析と指摘、
そして「無印良品開発」当時のエピソードで笑いを誘いながら、
60分の講義をしてくれた。
続いての講師は、ピーター・トーマス氏。
デイモンワールドワイドジャパンインク上席副社長。
テーマは「商品開発の理論と実践-消費者洞察から商品化まで」
90枚にも及ぶスライドを駆使しながら、
世界のPB開発のトレンドを詳細に解説。
デイモンはPB専門の世界的なコンサルティングカンパニー。
イギリスのテスコ、アメリカのウェグマンズ、HEバット。
次々に先進企業の最新の考え方と開発の実態を紹介。
実に、興味深い内容だった。
その後、午前同様、3人によるパネルディスカッションと質疑応答。
日本市場における商品開発力、調達力について、
国分㈱東京支社SM・生協営業部副部長兼第三支店長の千木良治さんが発言。
次々に質問や、意見が飛び交い、
トーマス氏も時間ぎりぎりまで、
ディスカッションに応じてくれた。
コーネル・ジャパンならではの充実した内容だった。
パネラーお二人と一緒に満足の記念撮影。
もちろん、パネルディスカッションの総括は、
荒井伸也首席講師。
イギリスやアメリカのスーパーマーケットと日本のスーパーマーケットの違い。
それを踏まえた上で、PBについて論じる必要があるとしたうえで、
「市場における企業占拠率以上にPBのシェアは拡大しない」と指摘。
朝9時からスタートした2月の講義も、17時には終了。
受講生が立ち去ったあと、西日の射す会議室は片づけを終えた事務局だけ。
西に傾いた春の光は、黄金色に染まり美しかった。
今日は一日、私が仕切った。
もっともっと深めたい論議もあったし、
私自身の主張もあった。
荒井先生と議論しなければならない課題もたくさんある。
大西、藤井、井口、トーマス、
各講師陣とも、議論を続けたいし、
それを深化させたい。
もちろん第3期生とも、議論を尽くしたい。
一方的に教える。
それを、習う。
一方的に言い負かす。
それを盲信する。
これは20世紀的態度だ。
私たちは、議論を尽くして、
それでも足りないことを知った上で、
自分の考え方を確立していく。
これぞ「ポジショニング」である。
そのポジショニング競争をする。
これが大塚明講師いうところの「コンテスト型競争」の本質である。
コーネル・ジャパン、
ほんとうに充実。
この2月講義が、ど真ん中の折り返し点。
3月はロジスティックス、
4月はオペレーション、
5月は上田惇生先生の「ドラッカー論」
6月は「シミュレーションゲーム」
そして7月は「長期計画づくり」
この間あっという間に、過ぎてゆく。
もちろん議論の深まりを見せつつ。
しかし、いつも私は思う。
「時間よ、止まれ!」
< 結城義晴>