知識商人登場!當仲寛哲の巻[最終回 コンピュータリテラシー研究会でなにをするのか]
結城:
當仲さんはダイエーに足りないものを学びとって、
そしてLinuxと出会って、
さらにダイエーを出て自由に泳ぎつつ、無印良品、良品計画と出会ったと。
當仲さんの人生、出会いだらけ、出会いばかりですね。
當仲氏:
それしかないですね。
★相手を思いやる心をもった使い手も一人の天才
結城:
その中で少しずつ学んだり、失敗をしたりしていくわけですが、
今の話を聞いていると、天才が何人か出てきますね。
當仲さんもその一人かもしれないけれど、
中内さんという天才だとか、フィンランドの天才だとか。
でも、コンピュータを使ったり、仕事をしたり、
その仕事の改善改革に情報を役立てようとしている人は、天才ばかりではない。
その天才ではない人たちにとっての情報っていうのはどうなんでしょう。
當仲氏:
コンピュータというのは非常に高度な技術の固まりですから、
そういったものを、どう世の中の人に分かりやすく伝えられるか、
使ってもらえるようなものにするか。
それも、また一つの特殊な才能が必要だと思います。
それで、そういった才能だけが天才だとは僕は思っていなくて、
先ほど話したように、情報というのはコンピュータではなくて、
その人の心が純粋に研ぎ澄まされて、想像力豊かであって、
それで相手のことを思いやって、そういうことができる心の持ち主であれば、
誰だっていい使い手になれる。
とりあえず僕はそういう天才もあると思うんですよ。
結城:
うん、そうですね。
しまむらを実質的に作り上げた、現在の会長の藤原秀次郎さんという方に、
ある方が多店展開をしようとするときに、
「どのような仕組みで店舗開発をしたらよろしいですか」と聞いたんですね。
聞いた方はですね、不動産情報だとか立地調査だとか、
そういう専門家を集めて多店展開をするという、
そういうことが藤原さんから教えてもらえるかなと予測していたそうなんです。
でも、藤原さんは、そうじゃないと。
新入社員を集めて、その新入社員にお任せして、
「次々に物件を開発して来い」とやったら、
今のしまむらが全国展開ができたんだと話された。
そういう回答をされてびっくりしたそうです。
仕事というのは、むしろ、そういうピュアに目的を提示して、
そして、使い方を教えて道具を提供したら、
むしろ新入社員の方がどんどんどんどん、開発していってしまうかもしれない。
そういう要素があるんじゃないかというふうに思いますね。
ただ、それでも當仲さんが、6名で、
半年で260の仕組みを良品計画で作っちゃったと、
それは他の会社でできるかなあって、
みんな率直に疑問を持つんじゃないかと思うんですが。
★物事を仕組みで解決する良品計画の企業風土
當仲氏:
良品計画の優れたところはですね、
やっぱり、そういうことができる下地があった。
結城:
なるほど。
當仲氏:
仕組みで物事を解決していきたいといった社風がありました。
また、コンピュータは道具であるというそういう考え方も持ってました。
結城:
既にですね。
當仲氏:
既に。
だから、当時、使いづらいコンピュータ、
あるいは専門家に任せざるをえないコンピュータっていうものを、
なんとか人の知恵でねじ伏せて、道具として使い倒そうかと、
彼らは考えていたんですね。
そういったベースがあった。
業務を考えたり、商品を開発したり、お店を作ったり
ブランディングをしたりとかっていうのは人間の仕事であって、
そういう仕掛けを考えるのは、要は良品計画の本領であると。
ただ、コンピュータの道具が不自由だから、
自分達のやりたいことができない。
かくなるうえは、自分達でその技術を身につけて、
要はのどに刺さっていた骨を自分で取ろうということを、
彼ら自身が考えたんですね。
自社開発といっても、いろんな深いコンピュータの難しい世界の中で
いったいどうやればいいのか分からなかった。
そこに、たまたま、こういう私の話があって、出会いがあったものですから、
上手く噛み合ったということだと思います。
コンピュータは難しいから、システムが分からないから、
情報部門に丸投げをしてしまう。
あるいは丸投げされた情報部門も、メーカーに丸投げして、
メーカーからの提案を集めて、指をさして選べばいい、
そうした企業風土では、絶対に、これはできない。
結城:
自分でやる、ということですね。
★コンピュータリテラシー研究会座長として何を目指すのか
結城:
當仲さんの仕事は今、
引く手あまたで忙しくてしょうがないんですが、
その中で商人舎と一緒に、
『コンピュータリテラシー研究会』というのをやってます。
リテラシーっていうのは、読み書き算盤というような意味で、
コンピュータを「読み書き算盤」するように使いこなす。
もちろん、その前にコンピュータの知識や意識、
そういったものを解きほぐしていこうという考え方です。
當仲さんはその座長をやってくださってるんですけども、
やっぱり研究会をやっていても、
決して研究会では難しいことの内容を話すのではなくて、
今話されれてたような、情報とは何なのか、
そういう話が中心になってるわけです。
コンピュータリテラシー研究会の展望に関しては、
當仲さんどうお考えでしょうか。
當仲氏:
コンピュータの技術っていうと、
やっぱり専門的で難しいなと思われるかもしれませんが、
先ほどお話しましたUnixの考え方はですね、
いかにコンピュータのソフトを分かりやすくするか、
ということなんですね。
その考え方をよく理解したことで、
もともとダイエーの店員だった私や、店員だった人たちが、
本当にプロの仕事ができるようになったわけです。
良品計画のシステムのスタッフも、
自分達で作ることができるようになるわけです。
だから、できないことではないんですね。
これからの小売業は、もちろん国内の競争も激しいし、
世界へ出て行って競争する会社もあるでしょう。
そういったときに、自らブラックボックスを作ったり、
ここは聖域で、私たちはもうできないとあきらめたりする、
そういった分野が、僕は、あってはならないと思うんですね。
自分達が分かってハンドリングできる上で、
その作業をアウトソースするということはあるかもしれない。
でも、中身が分からないってことは、はっきり言って
システムのコストの根拠すら分からないということです。
なぜ高いのか、なぜ時間かかるのか、分からないけれど、
専門家が言うんだから、そうだろうと。
そうしたことを続けていると、
最終的に高いお金を使ってしまうことがある。
これは小売業じゃないですけど、
例えば、銀行なんかだと、年間に数千億とかいうお金を使うんですね。
銀行は統廃合がかなり起こりましたけど、
あの裏には、高いコンピュータコストがあって、
経営が維持できないといった背景があると思うんです。
システムコストも、お金を使わなければいいという単純なものではなくて、
コンピュータのいい道具がなければ、
いい料理が出来ないことと同じことです。
包丁買うのが嫌だから、もういいやと思ったら
料理そのものができなくなるわけだから、
だからやっぱりいい包丁を見極めなければならない。
そういう目っていういのはどうしてもいるんですね。
それをやるために、コンピュータリテラシー研究会で、
道具としてのコンピュータに果敢に首を突っ込んで、
どんなものなのか、見尽くしてやろうという、
そういう場をまず提供したい。
やってできる人もいるわけだから、
当然、経営者だけではなく、
20代の若手であったり、幹部候補の方であったり、
そういった方に、
ぜひ、なんでも知ってやろうという意気込みで
情報技術を見ていただくというのを、一つの目的にしてます。
★コンピュータと人間の役割を見極められる人材を育てる場
當仲氏:
二つ目はですね、あくまでコンピュータは道具ですから、
道具を使って何をしましょうか、ということが凄く大事です。
自分の会社に当てはめたときに、
こういう技術を使ってどういう仕組みを作ることが、
会社の将来や維持発展につながるのか。
それを考えられないと、宝の持ち腐れになってしまう。
道具を見極めること、道具で何をするのか、
その両方いるんですね。
ですから、コンピュータリテラシー研究会は、
二つ目の目的として、どう利用していくのかっていう、
そういったことを考えることのできる人材を育てていきたい。
会社によって必要なシステムは違いますから、
何をするのかを一緒に考えましょうというのではしようがない。
つまり、リテラシー研究会のやるべきことというのは、
コンピュータの役割と
人間がやるべきアイデアや感性、行動力、
そういったことをちゃんと磨ける場を提供していく、
そういうことだと思うんですね。
それが二つ目です。
★スーパーマーケットの「システム共同組合」
當仲氏:
三つめはですね、これは私の夢でもあるんですけども、
主に食品商業の、食品スーパーマーケットの分野で
コンピュータリテラシー研究会というのを中心に考えているんです。
「安くて、早くて、柔軟な」技術を、みんなで共有して、
あえて誤解を避けない言い方をすれば、
システムの違いで勝負をしてもらう。
優れた技術を共有して、システムの違いで、
要は経営の仕方とか、販売の仕方とか、商品の選び方とか
接客の違いでもって勝負をしていけるような、
だから本当にUnixの考え方のようにオープンにやる部分と、
自分達でそれを使って磨いて勝負する部分と
うまく使い分けていけるような、
そういったコンピュータ技術みたいなものを共有できるような場に
育っていければなというふうに思ってます。
結城:
雑貨だとか化粧品のEDIの世界でなくてはならない存在になった
プラネットの社長の玉尻さんが言うんですけども、
「インフラは複合と共同で、競争は店頭で」、
それとまったく同じ考え方ですね。
私も大賛成です。
コンピュータはお金のかかるものだとか、難しいものだとか、
そういう偏見を取り払うためにインフラを作るという、
社会にとって無くてならない、
流通業界だとか商業の世界だとか、
食品スーパーマーケットの産業の中で無くてはならない
インフラを作ろうというのが當仲さんの考えですね。
當仲氏:
そうです。
今は、まあ、食品スーパーマーケットの規模ですと、
そんなに大きなシステム部隊は、当然持てるわけもなくですね。
でも、コンピュータは必要だということで、担当者が一人いたり、
総務の方が兼任されていたりとか、そういった状況です。
それは大半の会社はそうだと思います。
でも、そうなってしまうとですね、
すべてのコンピュータの選択や、利用技術の選択というのは
みんな、その人に集中してしまってですね、
しかも会社に理解がない場合は、端っこに置かれていたりするんですね。
けれど、コンピュータというものは難しいものなので、
そういった状態を続けていると、
例えばその人が辞めてしまったら、
もう会社のコンピュータシステムは維持できなくなる。
そういう危険にさらされている会社というのは、多いように思います。
かと言ってそこに若い人をどんどん入れて、
人数を増やせるかっていうと、
こんな厳しい競争の中、そんなこともできやしないと。
そうなったときに、
やっぱりコンピュータリテラシー研究会の目標とするところは、
ぼくは「システム共同組合」あるいは「システム技術共同組合」なんですね。
若い幹部、その候補生が、システム技術について造詣を深めて、
そこでいったん経験をして、
その道具の使い方とか、そういうのを身につけて
各会社へ戻っていく。
そういうコアと言いますか、
そういう場所に発展させることができたらなというのが、私の夢です。
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コンピュータリテラシー研究会座長・當仲寛哲氏と結城義晴の知識商人対談、いかがでしょうか?
実際のCDオーディオセミナーでは、この後、モンゴルとの出会い、モンゴルの若い人たちへのコンピュータリテラシー育成の取り組みなどが話されました。
対談を終えた「結城義晴の述懐」から、次の一文を最後のまとめとして掲載します。
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結城義晴の述懐より
當仲さんと話しながら、鉄腕アトムの話を思い浮かべました。
人間と機械との関係をロマンティックに語っていたわけですが、
その人間と機械、それが今、働く人とコンピュータとの関係の中で、
やはりどちらも愛が必要なんだとそういう印象でしょうか。
そんなものを當仲さんと話ながら感じました。
知識商人登場!當仲寛哲の巻[第6回 良品計画との出会い]
結城:
中内さんに出会って、
松田さんに出会って、
同時にLinuxにも出会った。
昔話の方にずっと行ってしまうと危険なんですけど、
ダイエーを辞めましたよね。
まあ、誰でも辞める時はあるので、
あまり詳しくは聞きたくはないんですが。
そして、フリーになった。
このあたりの経緯を少し語っていただいた方がいいでしょうか。
★中内功さんに「共損強栄」を学ぶ
當仲氏:
そうですね。
ダイエーが、なんか、大企業病みたいになっちゃって。
ただ、一つあるのは、僕は、
中内さんに教えてもらったっていうのはあったと思うです。
世の中の役に立つこととか、お金儲けではないこととか。
お金は後からついてくるかもしれないけれど。
中内さんは「共損強栄」とよく言ってました
「きょうぞんきょうえい」という字は、普通は共存共栄ですが、
彼の場合、共に損して強く栄えると書くんです。
やっぱり、そうやって、みんなでですね、
お互いに磨き合ってですね、
損だ得だと言わないでですね、
ちゃんと正しいことをやると、ということを、ずっと……。
結城:
―ここで今、當仲さんが、思わず嗚咽を漏らしてしまいました。
中内さんのことを思い出してですね。
當仲氏:
なんか涙腺がですね…、弱くなって、いかんですね。
結城:
その中内さんが言っていたことを、
結局は、當仲さんが意思を継ぐということになってるわけですが、
「やろう!」ということで、
このLinuxの考え方をベースに独立するわけですね。
當仲氏:
そうですね。
やはり、世の中で、いいことをちゃんとやりたいという
そういう気持ちが強かったんですね。
結城:
當仲さんが独立したばっかりの時に、僕は会いまして、
當仲さんに「販売革新」(商業界刊)の連載をお願いした。
今のようなお話がとうとうと繰り広げられて、
これは素晴らしいと思って、
その志に打たれたというのを思い出します。
そのあと、結構、なんて言うんでしょうかね、
自転車に乗ってフラフラしながらも(笑)、
着実に仕事を増やしていくということになるわけですね。
最初に上手くいった大きな仕事というのは、良品計画でしょうか。
★磯見精祐先生の「君はもっと仕事せんといかん」
當仲氏:
そうですね。
無印良品ブランドの良品計画でお仕事をいただいたのが、
ステップアップのきっかけになりました。
実は、仕事を始めた当時は何の手掛かりがあったわけでもなく、
気負いだけで独立をして、
半年も一年も、何も仕事の無い時期があったわけなんです。
商業界の勉強会で杉山ゼミに参加させていただいた。
一番初めに、
「ダイエーがダメになったのは、何かを、君、言いなさい」
と言われてですね。
人の悪口をいうのは僕は嫌いなんで、言いたくはなかったんだけど、
「一度は聞きたい」という話になって押されてですね、
「一度だけですよ」ということでダイエーの話をしたことがあった。
それで、私のやってきたこともお話させていただいたら、
「まあ、面白いな」というお話になって、
それで勉強会に通わせていただくことになったんです。
結城:
杉山ゼミは現在、「商業問題研究会」、
通称RMLCといわれる経営勉強会です。
商人舎のサイトでもその活動を報告していますが、
その前身の勉強会に参加したんですね。
當仲氏:
その中で、半年ぐらい過ぎてですね、
「ところで、君、何やって食べてるの」という話になった。
「アルバイトで食べてます」というと、
「君はもっと仕事せんといかん」と、
お亡くなりになられた磯見精祐先生に叱られました。
「君、コンピュータとか難しいことやってるから、
僕はよう説明せんけど、一回あいさつに行け」と
良品計画を紹介くださった。4年ぐらい前の話です。
当時、衣料雑貨をされていた加藤取締役にお話をきいていただくと、
加藤さんも
「コンピュータの話なんて、俺よく分からないからやめてくれ」と。
でも、私はコンピュータ屋というよりは
業務改革の方をずっとやっていたので、小売業の人間なんですね。
当時は、仕事もなく、胸の中もグルグルになっていたので、
その思いの丈をぶつけてやろうと思って、
お会いしていろいろと話をしたところ、
「これは、なかなか気持ちのいいやつが来たな」って思ってくださった。
そして、同席されていたのが、今の小森取締役でした。
後から聞いたら、彼も最初は、
なんか、この忙しいのに呼び出されて嫌だったそうです。
ところが、話を聞いて、これはおもしろそうだということになった。
結城:
また、いい出会いがあった。
★「売上げ概算日報」システムを3日で作る
當仲氏:
ちょうどその頃、良品計画は
システムのリニューアルを図ろうとしていた真っ最中だったんです。
大手のSIベンダーにいろいろ見積りを出させているという、
そういう時期だったんですね。
そのときにスーパーの店員上がりの私が、
「自分達でやれば、自分達で開発ができるんだ」という話をした。
彼は「これだ!」と思ったようで、
それから1、2週くらい、
新橋にあった私の小さい事務所にずっと通われて、
根掘り葉掘り、この技術について、聞かれたんですね。
それで、これはできそうだということで、
スタートをしたのが「売上げ概算日報」という、
当時の松井社長が毎日見られる、営業日報ですね。
それと寸分違わぬものを、君が言うように
「安く、早く、柔軟に」
あっという間にできるんだったらやってみろというお題がきたんです。
お店から上がってくるPOS明細の一番細かなデータから
社長が見るような全社の情報を集約したものを一気に作ることが、
もし、できるんであれば、
後の社内の情報システムというものは、
その間にあるんだから、できるだろうと。
だから、実験としては最高だというころで、
そういう課題をいただいたんですね。
私はそれをですね、どれくらいでやったのかな。
後で山崎さんに聞いたら、
2時間くらいで作ってたとか言ってましたが、
僕は3日くいらいかけた記憶があるんで、
話が良くなっているのかもしれませんね(笑)。
いずれにしても、非常に短時間で作ることができた。
結城:
すごいですね。
當仲氏:
しかも秋葉原で買ったパソコンを背中にしょってですね、
一休さんじゃないけど、
ここにデータを入れたら出して見せようみたいな、
そんな感じでやったんですね。
當仲氏:
それの後にですね、松井社長が、
各地域ごとに苦戦をしている店があるんじゃないかと考えられていて、
各地域のそれぞれの店舗の状況を、こういった形で見たいと。
そのシステムが「柔らかい」というのであれば、
おまえに、それができるかという話がでた。
それをまた、1日、2日で作った。
今までスタッフの人が十何人もかかって作ってたものらしいんですけど、
そういうシステムがなかったんですね。
手作業でやっていたものを、
コンピュータでできるということが分かって、
これは、なんか使えそうだなと、そういったことになった。
それから社内の本部の勤怠管理のシステムだとか、
非常にややこしいものをさせられた。
それもまた2カ月くらいでできあがったので、
「これだけできるんだったら、いろいろできそうだ」と。
それで無印良品全体のマーチャンダイジングのシステムを
このやり方に置き換えようという決断を、
松井社長がされたんですね。
それがきっかけになったんです。
結城:
それは、すごい。
★260のMDシステムを6人で半年で作る
當仲氏:
でも当時は、有限会社で、小さな会社で、人がいないわけです。
それがこんな一部上場の大きな会社のマーチャンダイジングのシステム、
当時で、260個ぐらいのシステムがあったんですが、
それをやるっていっても、
どうやってやろうかと困ってしまった。
人もなかなか集められなかったんです。
そのとき、東信電気の役員をされていた
井上さんというNECの出身の方が、
このLinuxのやり方を見て、
「これはおもしろい」ということを言っていただいて、
「誰か人をつけないと君のところは仕事にならないだろう」と、
若手をタダで貸してくれたんですね。
井上さんって方は、NECの「文豪」というワープロを開発をされた天才肌の人です。
結城:
當仲さんの人柄もあるが、みんなに支えられている。
當仲氏:
そうして20代前半の新入社員を5人と私の6人で、
この無印商品のシステムを全部作ろうと始まった。
「安い、早い」という成果をここでちゃんと見せないと、
僕たちは、もうダメになってしまうだろうと思って、
自分が持ってる技術の中で、
自分で一番いいと思ってるものをどんどん使って、やったんですよ。
その結果、6人で、半年で、
約260のシステムを作ることができたんです。
★道具屋に徹して、集中して作る
當仲氏:
システムを作る前に、既存で動いていた大きなシステムがあったので、
それをリプレイスをして、
なおかつ新しいものを組み立てるという作業だったんです。
既存のシステムを、いちいちプログラムの中まで調べると大変なので、
業務を全部調べて、プログラムは見なかったんです。
僕はシステムというのは業務にあるという信念を持っています。
要は業務を見て、全部ヒアリングして、
今やっていること、今やろうとしていること、
そういったことを全部聞いて、
それでコンピュータをこういうふうに使おうという感じでやったんです。
普通考えると、既存で動いているものをイコールで作るんだから、
プログラムをコピーしたらとか、そういう発想になるんですけど、
そういうことは一切しなかったんですね。
それで、そのやり方が、
今までのコンピュータの無駄なシステムをコピーしないで済んだという、
いい結果に結びついて、非常にシンプルにできあがった。
20代の前半の、去年まで学生やってたような子達を集めて、
そういう仕組みが、半年でできたんです。
もちろん彼らは小売業のことは分からないんですが、
人に素直だったんですね。
コンピュータを道具として捉えたときに、
自分達は業務は分からないから、一生懸命業務の話を聞こうと。
コンピュータのことは、専門学校とか大学で勉強してきたから、
技術は技術で一生懸命やって、
そして分からないことは全部聞こうという、
そういう姿勢でやったんです。
「われわれはシステム屋だから、こんなシステムいかがですか、
こんな業務のシステムはいかがですか」
というようなことはやらなかったんです。
結城:
道具屋に徹して、集中してやろうということが、いい結果に結びついた。
當仲氏:
もともと、ある大手の会社が2年以上かけて、
数百人の体制でやろうとしていたことなんですよ。
それを、6人で半年で、
外注も一切出さないで、完成させることができた。
それは、良品計画にとっても当然コストダウンにつながりました。
★そして、作っては捨てる、作っては捨てる
當仲氏:
業務システムっていうのは生き物なのです。
会社の方針が変われば、システムが変わるということだから、
コンピュータという道具を使って、
そのシステムをフォローできるようなものを作っていかなきゃならない。
その会社のやりたいことを、
システムでずーっと作り続けていかなければならない。
今でもそれは続いていて、
だいたい1週間に1システムくらい作ってるんですね。
作っては捨てる、作っては捨てる。
要は会社の新陳代謝と同じくらいのスピードで
コンピュータシステムを作って捨てる。
そういうことをやり続けているのが、
この良品計画のシステムなんです。
僕にとっても、これは一つの大きなステップアップになりました。
結城:
その良品計画のシステムを作る、
本当にベーシックなLinuxデモンストレーションを
今回のCDオーディオセミナーでは、DVDビジュアルで提供しますが、
「早い、安い、柔らかい」をみてもらいたいですね。
続きます
知識商人登場!當仲寛哲の巻[第5回 LINUXとの出会い③]
當仲氏:
このLinuxって、面白いんです。
フィンランドの国で発明されたんですが、フィンランドって寒い国じゃないですか。
Linuxを開発したリーナスさんは、コンピュータオタクで、
冬でもコンピュータを触りたいんだけど、休みで学校に行けない。
★リーナス氏「自分はできない、誰か助けて!」
當仲氏:
当時、Linuxの前身になったMINIXという基本ソフトがあって、
彼はそれをヘルシンキ大学で研究していた。
そのMINIXっていうのは、一応コンピュータの基本的な仕組みについてのプログラムは書いてあったんですが、
キーボードを打ったり、画面に映し出したり、
そんなことすらできないソフトだったんです。
それだと、家で操作できないので、
まずリーナスさんは、家からでもアクセスできるように、
電話をかけて大学のMINIXに接続できるソフトを作ったんです。
彼は、コンピュータオタクなので、それがうまくいった。
「やった!これで家から、冬、大学に行かなくてもコンピュータが触れる!」と。
それがスタートです。
うまくいったら、人間、欲が出るものです。
MINIXは、自分で作ったプログラムをディスクにセーブする機能がなかった。
だから、せっかく作ったプログラムも、電源を消すと消えちゃう。
そんなだったんで、リーナスさんは調子に乗って、
今度はハードディスクに自分のプログラムを残すような、
保存するようなプログラムを自分で書いてみようと思ったんです。
ところが、彼は一生懸命やったんですけど、失敗したんですね。
要は、結構難しいんですね。整合させるプログラムが。
彼の天才たるゆえんはですね、
その時、何をしたかというと、
インターネットを通じて「自分はできない」と言ったんですね。
「自分はできないので、だれか助けて!」と。
★オープンに公開し、いいものは自由に取り込む
當仲氏:
これって、バカ素直な話なんですけど、それを言ったら
世界中から、
「なんで君はできないんだ」
「俺が代わりに書いてやる」
というヤツがいっぱい集まってきて、とうとう、
ハードディスクにデータを保存するプログラムができあがったんですね。
こうしてできあがったMINIXのプログラムは、
画面から遠隔でも操作できるし、
データも保存できる。
これは一つの売り物になる立派な基本ソフトじゃないかと話されたんですけど、
リーナスさんは、これはみんながお互いに自由に意見を交換してできたものだから、
フリークスという名前にしようと彼は提案したんですね。
結城:
Free、自由ね。
當仲氏:
そう、自由。freedam。
ところが周りの友達がですね
「いやいや、みんながUnixのソースを隠しあってる中で、
君はよくぞ、その考えに至った。快哉だ。」
「ぜひ、あなたの名前を付けなさい」といった。
そうして、周りに押されて「Linux」という名前になったんですね。
當仲氏:
そういう生まれなので、Linuxは、
オープンにして公開する、
いいものは自由に取り込んでいく、
そういった思想が流れている。
しかも、もともとUnixなので、
小さな道具を組み合わせて、それで問題を解決する
という両方のいいところを備えている。
そして十数年のうちに非常に洗練をされてきた。
実はインターネットの全世界のサーバーの7割以上はLinuxで動いています。
これがタダで動いていて、なおかつ、そこに乗っているソフトは
非常に優秀なソフトなんですけど、全部タダだったりするんですね。
こういうものからITは、実は成り立っていて、
今、このLinuxを使って、Unixの考えでもって、
情報システムを作るのは非常にいいことだと思っています。
結城:
まさしくさっきの「安い、早い、柔らかい」を
出自のところで持っていたということですよね。
言葉の世界というか、概念の世界では
「Wikipedia」という、オープン百科事典がある。
あれはもういろんな人の知恵が集まってきて、
時々、間違ってるよなんて言われるんだけど、
すぐ修正されていて、
有名な大学の教授が作る百科事典よりも
非常に柔らかくて、現代的なものも全部入ってる。
そのWikipediaというものものに似てますよね。
★まねできるものは情報やシステムではない
當仲氏:
そうですね。
考え方のベースになっているUnixの考え方というのは、
オープンにすることなんですね。
そして多くの人の目に触れることによって洗練されていくと。
オープンにしたからといって、
何か、商売上、大事な情報を盗まれちゃうんじゃないかっていうふうに、
そう思ってしまいがちなんですけど、
実際には、そんな簡単に真似できるものは、情報とかノウハウじゃないんですね。
要は、隠して初めて成立するような、
そういったものに依存しないと続かないようでは、
どこかで誰かに追い抜かされてしまう。
コンピュータの世界では、みんなよく分かっていて、
自分が作ったものを進んでオープンにすることによって、
さらにいいものができあがってくる。
だって、コンピュータは道具であって、
道具を使いこなすのは、人間で、それは個々に任されているわけです。
だから道具はみんなでいいものを作って、それを利用して、
その利用の仕方の差でもって競争しようと。
そういうことが正しい競争の姿だと思うんですね。
だから、このLinuxを使ったシステムというのは
技術はオープンでどこでも使えるんですけども、
それをどのように使っていくかということは、
各会社にいる人たちが、自分の会社の特性を考えて、
あるいは戦略を考えて、ふさわしい物を作ればいい。
それができ上がった暁には、そう簡単に真似できない。
だって、会社そのものですから。
結城:
それが當仲さんのUSP研究所のコンセプトでもあるわけですよね。
続きます