第2回 メーカーと卸をつなぐEDIネットワーク
當仲寛哲(USP研究所)VS玉生弘昌(プラネット)対談
當仲: さて、本日は、株式会社プラネットの玉生弘昌社長にお話を伺います。
日本の流通小売業界においては、
伝票や、商品マスタのレイアウトを統一しようという動きが何度も出てきました。
ところが、今までそれがうまくいったことはほとんどありません。
日本の小売業はディテールにこだわります。
そのため、自社の強みを出すために、情報分析の項目ひとつとっても、
他社といかに違うことをするかということを考えます。
それが、わが国の小売業における、情報システムの標準化を阻んできました。
一方、コンピュータの世界に目を転じてみましょう。
メールやインターネットという、インフラの根本的な仕組みは、
数十年前からあるものですが、そのときからほとんど変化せず、
しっかりと世界中に定着しています。
表面に現れない底辺の技術の統一は、さほど難しくは無いのです。
私たちはこのようなコンピュータの特質というものを知った上で、
コンピュータを業務のどの範囲に適用すべきなのかということを、
考えなければなりません。
そして、小売業の各企業が共通して使うことができるシステムを、
作っていく必要があるのではないでしょうか。
その上で、他社と共通な部分とはまた違ったところで、それぞれの企業ごとの、
商売のディティールを出していけばいいのです。
日用品雑貨分野で、いち早くEDIネットワークを立ち上げられたプラネット。
その玉生社長の話をうかがいながら、
「標準化」とは何かを、この勉強会の場で、議論して、
突き詰めていきたいと考えております。
■日本の流通業におけるネットワーク化の歴史■
玉生:ただいま紹介いただいた、玉生です。
私が代表取締役社長を勤めます株式会社プラネットは、
日用品雑貨メーカーと卸企業をつなぐEDIネットワークを提供しております。
加盟企業は2008年9月末現在で、メーカーが341社、卸店が590社。
月間1億レコードの発注や仕入れ等の取引データの通信をしています。
EDIとは、受注側(メーカー)、発注側(卸店)のコンピュータが、
ネットワークでお互いにつながっていて、
発注データ、出荷案内データ、物品受領データ、請求データ等々を、
やりとりするというものです。
いわば、伝票による取引の「マシン to マシン」による自動化です。
今、流通小売業界には、さまざまなIT化の波が押し寄せています。
EOSは皆さんご存知かと思いますが、EDI、ECR、CRP、CPFR…
さまざまな技術が存在しています。
CRP(連続自動補充)など次世代の取り組みは、
いずれもEDIが稼動していることが前提となっています。
日本の流通におけるネットワーク化は、1980年に、
日本チェーンストア協会(JCA)が、
J手順というEOS用の通信手順を制定したところから始まりました。
これを機に、EOSが盛んになり、現在でも大規模に行われています。
しかしながら、EOSは発注データの片方向通信に過ぎず、
早くEDIを始める必要があります。
そして、1985年、電気通信事業法が施行されました。
それ以前まで、通信は電電公社以外は行ってはいけないとされていましたが、
この法律によって、民間が通信を行ってもよいことになりました。
そして1000社以上のVAN会社が誕生したのです。
VAN(付加価値通信網)とは、
通信の際にコード変換・スピード変換など付加的サービスを行うもので、
広く使われるものと期待されました。
民間の通信事業者が乱立する中で、
花王、ライオン、ユニチャーム、資生堂、P&G等々のメーカーや、
パルタック、あらた、中央物産などの卸店、
それぞれが独自にネットワークを作り、受注や発注を行おうと考えたのです。
しかし、これでは卸店もメーカーも端末だらけになってしまいます。
そこで先手を打って、大手メーカー8社が共同して設立したのが、プラネットです。
幸い、卸店とメーカー間の交通整理役としてのプラネットの役割が、
多くの企業に受け入れられ、業界統一的なネットワークインフラとなりました。
それから徐々に加盟企業を拡大し、現在の規模のネットワークができています。
最近はペットフードや大衆薬メーカーが増えています。
■インフォメーションオーガナイザーとしてのプラネット■
玉生: 現在、プラネットでは、加盟企業のうち200社近くが自動発注を行っています。
それまでは卸店の発注係が、丸1日かけて、
いろいろなメーカーにFAXや電話で発注をかけていたのを、
プラネット仕様を使って、データを一発どんと送ると、
1日あたり10分程度で、全ての発注が終了するようになります。
これは、当然、伝票レスです。
発注情報は、データとしてネットワーク上でやりとりするだけでなく、
FAXのような形にして送信することもできます。
ですから卸店は、プラネットに加盟していないメーカーさんに対しても、
何の気兼ねなく普段どおりの手順で発注することができます。
EDIは、もはや流通業にとって、
欠かすことができない重要な社会的基盤ということができるでしょう。
私たちの仕事は、その一端を担っています。
プラネットは、インフォメーションオーガナイザーという立場を取っています。
確かに、ネットワークや端末機を共同利用すれば、便利は便利なのですが、
考えてみれば同じ端末を、同業者が使っていますので、
競争会社同士が相乗りしている状態です。
私たちは、通信の部分については、
第三者であるインテックという通信会社に、全てアウトソーシングをしています。
プラネット自身はその運営をしているだけで、通信そのものはしていません。
ですから、プラネットがデータの中身を覗いてみようと思っても、
見ることはできません。
そういう構造にしたことで、各社の理解を得て、ユーザーが増えたわけです。
通信というのは、技術が進歩しており、複雑です。
それを理解して使いこなさねばならなりません。
大手メーカー各社とも、優秀なSEがいたとしても、
ネットワークの専門家を抱えているわけではありません。
そこで、プラネットが彼らになりかわって最適な選択をしていこうと考えています。
そういう意味では、ハードウェアでもなく、ソフトウェアでもなく、
私どもはユースウェアの会社だと考えています。
第3回へ続きます