知識商人登場!當仲寛哲の巻[最終回 コンピュータリテラシー研究会でなにをするのか]
結城:
當仲さんはダイエーに足りないものを学びとって、
そしてLinuxと出会って、
さらにダイエーを出て自由に泳ぎつつ、無印良品、良品計画と出会ったと。
當仲さんの人生、出会いだらけ、出会いばかりですね。
當仲氏:
それしかないですね。
★相手を思いやる心をもった使い手も一人の天才
結城:
その中で少しずつ学んだり、失敗をしたりしていくわけですが、
今の話を聞いていると、天才が何人か出てきますね。
當仲さんもその一人かもしれないけれど、
中内さんという天才だとか、フィンランドの天才だとか。
でも、コンピュータを使ったり、仕事をしたり、
その仕事の改善改革に情報を役立てようとしている人は、天才ばかりではない。
その天才ではない人たちにとっての情報っていうのはどうなんでしょう。
當仲氏:
コンピュータというのは非常に高度な技術の固まりですから、
そういったものを、どう世の中の人に分かりやすく伝えられるか、
使ってもらえるようなものにするか。
それも、また一つの特殊な才能が必要だと思います。
それで、そういった才能だけが天才だとは僕は思っていなくて、
先ほど話したように、情報というのはコンピュータではなくて、
その人の心が純粋に研ぎ澄まされて、想像力豊かであって、
それで相手のことを思いやって、そういうことができる心の持ち主であれば、
誰だっていい使い手になれる。
とりあえず僕はそういう天才もあると思うんですよ。
結城:
うん、そうですね。
しまむらを実質的に作り上げた、現在の会長の藤原秀次郎さんという方に、
ある方が多店展開をしようとするときに、
「どのような仕組みで店舗開発をしたらよろしいですか」と聞いたんですね。
聞いた方はですね、不動産情報だとか立地調査だとか、
そういう専門家を集めて多店展開をするという、
そういうことが藤原さんから教えてもらえるかなと予測していたそうなんです。
でも、藤原さんは、そうじゃないと。
新入社員を集めて、その新入社員にお任せして、
「次々に物件を開発して来い」とやったら、
今のしまむらが全国展開ができたんだと話された。
そういう回答をされてびっくりしたそうです。
仕事というのは、むしろ、そういうピュアに目的を提示して、
そして、使い方を教えて道具を提供したら、
むしろ新入社員の方がどんどんどんどん、開発していってしまうかもしれない。
そういう要素があるんじゃないかというふうに思いますね。
ただ、それでも當仲さんが、6名で、
半年で260の仕組みを良品計画で作っちゃったと、
それは他の会社でできるかなあって、
みんな率直に疑問を持つんじゃないかと思うんですが。
★物事を仕組みで解決する良品計画の企業風土
當仲氏:
良品計画の優れたところはですね、
やっぱり、そういうことができる下地があった。
結城:
なるほど。
當仲氏:
仕組みで物事を解決していきたいといった社風がありました。
また、コンピュータは道具であるというそういう考え方も持ってました。
結城:
既にですね。
當仲氏:
既に。
だから、当時、使いづらいコンピュータ、
あるいは専門家に任せざるをえないコンピュータっていうものを、
なんとか人の知恵でねじ伏せて、道具として使い倒そうかと、
彼らは考えていたんですね。
そういったベースがあった。
業務を考えたり、商品を開発したり、お店を作ったり
ブランディングをしたりとかっていうのは人間の仕事であって、
そういう仕掛けを考えるのは、要は良品計画の本領であると。
ただ、コンピュータの道具が不自由だから、
自分達のやりたいことができない。
かくなるうえは、自分達でその技術を身につけて、
要はのどに刺さっていた骨を自分で取ろうということを、
彼ら自身が考えたんですね。
自社開発といっても、いろんな深いコンピュータの難しい世界の中で
いったいどうやればいいのか分からなかった。
そこに、たまたま、こういう私の話があって、出会いがあったものですから、
上手く噛み合ったということだと思います。
コンピュータは難しいから、システムが分からないから、
情報部門に丸投げをしてしまう。
あるいは丸投げされた情報部門も、メーカーに丸投げして、
メーカーからの提案を集めて、指をさして選べばいい、
そうした企業風土では、絶対に、これはできない。
結城:
自分でやる、ということですね。
★コンピュータリテラシー研究会座長として何を目指すのか
結城:
當仲さんの仕事は今、
引く手あまたで忙しくてしょうがないんですが、
その中で商人舎と一緒に、
『コンピュータリテラシー研究会』というのをやってます。
リテラシーっていうのは、読み書き算盤というような意味で、
コンピュータを「読み書き算盤」するように使いこなす。
もちろん、その前にコンピュータの知識や意識、
そういったものを解きほぐしていこうという考え方です。
當仲さんはその座長をやってくださってるんですけども、
やっぱり研究会をやっていても、
決して研究会では難しいことの内容を話すのではなくて、
今話されれてたような、情報とは何なのか、
そういう話が中心になってるわけです。
コンピュータリテラシー研究会の展望に関しては、
當仲さんどうお考えでしょうか。
當仲氏:
コンピュータの技術っていうと、
やっぱり専門的で難しいなと思われるかもしれませんが、
先ほどお話しましたUnixの考え方はですね、
いかにコンピュータのソフトを分かりやすくするか、
ということなんですね。
その考え方をよく理解したことで、
もともとダイエーの店員だった私や、店員だった人たちが、
本当にプロの仕事ができるようになったわけです。
良品計画のシステムのスタッフも、
自分達で作ることができるようになるわけです。
だから、できないことではないんですね。
これからの小売業は、もちろん国内の競争も激しいし、
世界へ出て行って競争する会社もあるでしょう。
そういったときに、自らブラックボックスを作ったり、
ここは聖域で、私たちはもうできないとあきらめたりする、
そういった分野が、僕は、あってはならないと思うんですね。
自分達が分かってハンドリングできる上で、
その作業をアウトソースするということはあるかもしれない。
でも、中身が分からないってことは、はっきり言って
システムのコストの根拠すら分からないということです。
なぜ高いのか、なぜ時間かかるのか、分からないけれど、
専門家が言うんだから、そうだろうと。
そうしたことを続けていると、
最終的に高いお金を使ってしまうことがある。
これは小売業じゃないですけど、
例えば、銀行なんかだと、年間に数千億とかいうお金を使うんですね。
銀行は統廃合がかなり起こりましたけど、
あの裏には、高いコンピュータコストがあって、
経営が維持できないといった背景があると思うんです。
システムコストも、お金を使わなければいいという単純なものではなくて、
コンピュータのいい道具がなければ、
いい料理が出来ないことと同じことです。
包丁買うのが嫌だから、もういいやと思ったら
料理そのものができなくなるわけだから、
だからやっぱりいい包丁を見極めなければならない。
そういう目っていういのはどうしてもいるんですね。
それをやるために、コンピュータリテラシー研究会で、
道具としてのコンピュータに果敢に首を突っ込んで、
どんなものなのか、見尽くしてやろうという、
そういう場をまず提供したい。
やってできる人もいるわけだから、
当然、経営者だけではなく、
20代の若手であったり、幹部候補の方であったり、
そういった方に、
ぜひ、なんでも知ってやろうという意気込みで
情報技術を見ていただくというのを、一つの目的にしてます。
★コンピュータと人間の役割を見極められる人材を育てる場
當仲氏:
二つ目はですね、あくまでコンピュータは道具ですから、
道具を使って何をしましょうか、ということが凄く大事です。
自分の会社に当てはめたときに、
こういう技術を使ってどういう仕組みを作ることが、
会社の将来や維持発展につながるのか。
それを考えられないと、宝の持ち腐れになってしまう。
道具を見極めること、道具で何をするのか、
その両方いるんですね。
ですから、コンピュータリテラシー研究会は、
二つ目の目的として、どう利用していくのかっていう、
そういったことを考えることのできる人材を育てていきたい。
会社によって必要なシステムは違いますから、
何をするのかを一緒に考えましょうというのではしようがない。
つまり、リテラシー研究会のやるべきことというのは、
コンピュータの役割と
人間がやるべきアイデアや感性、行動力、
そういったことをちゃんと磨ける場を提供していく、
そういうことだと思うんですね。
それが二つ目です。
★スーパーマーケットの「システム共同組合」
當仲氏:
三つめはですね、これは私の夢でもあるんですけども、
主に食品商業の、食品スーパーマーケットの分野で
コンピュータリテラシー研究会というのを中心に考えているんです。
「安くて、早くて、柔軟な」技術を、みんなで共有して、
あえて誤解を避けない言い方をすれば、
システムの違いで勝負をしてもらう。
優れた技術を共有して、システムの違いで、
要は経営の仕方とか、販売の仕方とか、商品の選び方とか
接客の違いでもって勝負をしていけるような、
だから本当にUnixの考え方のようにオープンにやる部分と、
自分達でそれを使って磨いて勝負する部分と
うまく使い分けていけるような、
そういったコンピュータ技術みたいなものを共有できるような場に
育っていければなというふうに思ってます。
結城:
雑貨だとか化粧品のEDIの世界でなくてはならない存在になった
プラネットの社長の玉尻さんが言うんですけども、
「インフラは複合と共同で、競争は店頭で」、
それとまったく同じ考え方ですね。
私も大賛成です。
コンピュータはお金のかかるものだとか、難しいものだとか、
そういう偏見を取り払うためにインフラを作るという、
社会にとって無くてならない、
流通業界だとか商業の世界だとか、
食品スーパーマーケットの産業の中で無くてはならない
インフラを作ろうというのが當仲さんの考えですね。
當仲氏:
そうです。
今は、まあ、食品スーパーマーケットの規模ですと、
そんなに大きなシステム部隊は、当然持てるわけもなくですね。
でも、コンピュータは必要だということで、担当者が一人いたり、
総務の方が兼任されていたりとか、そういった状況です。
それは大半の会社はそうだと思います。
でも、そうなってしまうとですね、
すべてのコンピュータの選択や、利用技術の選択というのは
みんな、その人に集中してしまってですね、
しかも会社に理解がない場合は、端っこに置かれていたりするんですね。
けれど、コンピュータというものは難しいものなので、
そういった状態を続けていると、
例えばその人が辞めてしまったら、
もう会社のコンピュータシステムは維持できなくなる。
そういう危険にさらされている会社というのは、多いように思います。
かと言ってそこに若い人をどんどん入れて、
人数を増やせるかっていうと、
こんな厳しい競争の中、そんなこともできやしないと。
そうなったときに、
やっぱりコンピュータリテラシー研究会の目標とするところは、
ぼくは「システム共同組合」あるいは「システム技術共同組合」なんですね。
若い幹部、その候補生が、システム技術について造詣を深めて、
そこでいったん経験をして、
その道具の使い方とか、そういうのを身につけて
各会社へ戻っていく。
そういうコアと言いますか、
そういう場所に発展させることができたらなというのが、私の夢です。
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コンピュータリテラシー研究会座長・當仲寛哲氏と結城義晴の知識商人対談、いかがでしょうか?
実際のCDオーディオセミナーでは、この後、モンゴルとの出会い、モンゴルの若い人たちへのコンピュータリテラシー育成の取り組みなどが話されました。
対談を終えた「結城義晴の述懐」から、次の一文を最後のまとめとして掲載します。
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結城義晴の述懐より
當仲さんと話しながら、鉄腕アトムの話を思い浮かべました。
人間と機械との関係をロマンティックに語っていたわけですが、
その人間と機械、それが今、働く人とコンピュータとの関係の中で、
やはりどちらも愛が必要なんだとそういう印象でしょうか。
そんなものを當仲さんと話ながら感じました。