知識商人登場!當仲寛哲の巻[第4回 LINUXとの出会い②]
當仲氏:
松田さんにあった1993年当時、
松田さんが指導していたコンピュータというのがあったんです。
実は僕は、その頃は不良でして、
みんながコンピュータをやっているのをただ見ているだけで、
実際にはあちこち遊んでいるような人間だった。
結城:
どこでも不良なんですな。
當仲氏:
そうです。不良なんです(笑)。
それで、
「當仲が遊んでばっかりだから何か書類でも書かせよう」という話になった、
当時、私の上司だった中内さんの秘書課長が使っていた
SONYのニューズというコンピュータがあったんですね。
それが自分が使い慣れていていい、ということでお借りしたんです。
そのSONYのニューズという機械は非常に高価なマシンで、
Unixという基本ソフトが入ってる、そういうコンピュータだったんですね。
それを使って「仕事しろ」だとか
「何か報告書でも書け」と言われたんですけど、
僕がやってたのはゲームとかそんなことばかり。
★Unixの「Small is Beautful」がきっかけ
當仲氏:
でも27歳になった時に、もう一回ちょっと勉強し直してみようかと思って、
「入門Unix」という本を買って、それで読み始めたんですね。
学生の時は全然勉強なんかしてなかったんけど、
改めてそれを読んでるうちにですね、
松田さんの言っていることに似てるなと思ったんです。
そのUnixの教科書に書かれていたのはですね、
「Small is beautiful」、「小さいことは美しい」と。
さらに、道具を組み合わせて問題を解決する、ということも書かれている。
大事なことはいかに速く情報を知ろうとするかということではなくて、
情報を柔軟に出せること、あるいは機械が変わっても
自由に移植できること。
別の機械に情報を移していけるかどうかだ、と書いてあったんですね。
まさに、松田さんの考え方に似ている。
じゃあ、考え方が似ているんであれば、
松田さんの考えをUnixという機械の上でソフトに組んでみたらどうか、
そう思って、スタートしたのがきっかけだったんです。
何もかも偶然だったんですね。
コンピュータといっても、
われわれがやっているようなシステムは、
お店で発生した販売のデータや、検収をした仕入れのデータ、
あるいはオーダーの発注データを集計したり、結合したりしてるだけに過ぎない。
まあ、一言で言ってしまえばデータの切り貼りをしてるだけなんですね。
★一晩で情報システムができる恐るべきソフト
當仲氏:
そう言いきってしまうと、気楽になってですね、
じゃあデータを足すとかひっつけるとか、足しこむとか、
そういった道具を作って、その道具を組み合わせてやれば
どんなシステムだって出来るだろうと思った。
もともと人間がやっていたことですから、小売りの仕組みというのは。
だから、人間がやってたことを機械に置き換えて、
そこで正確さやスピードが勝るのであればコンピュータを使えばいいやと。
そういうお気楽なことを考えて、基本的な道具を作ろうと始めたんですね。
それがUnixの考え方とぴったり合ってですね、
Unixでそういった簡単な足すとか引くとかひっつけるという
「コマンド」を使ってそのデータの加工をしたら、
これが実に簡単にできることが分かったんです。
これが、非常にあっというまにできる。
例えば、一つ、情報システム作ってって言われても、
一日あれば全部できちゃうんですね。
と言うか、早い時だと数時間でできてします。
ダイエーでやってたころは、前日の夜7時にバイヤーを集めて、
「新しい発注のシステムについて説明します」って説明会をやった後に
徹夜して一晩で作っってしまったとか、そんな極端なことがあったくらいです。
このUnixという考え方を使って情報システムを作ると簡単にできるんです。
そういうふうな恐るべきソフトがあるんです。
★40年前開発されたUnixがインターネットを生んだ
當仲氏:
それは、実は40年も前に作られたソフトなんだけど、
実はこれは、皆さん、インターネットやメールで今、使ってます。
そういったものも全部Unixから生まれてるんですね。
ところがUnixは、当時としては過激な考え方だったんですね。
だから当時は、システムとかビジネスには使われなかったんです。
主に大学、軍事とか研究といったことに使われていた。
要はあまりに切れ味がいいので、
切れ味が良すぎると逆に商売にならないこともあるんですね。
なので、しばらく放っておかれた。
でも、Unixから生まれたいろんな技術を利用して今のITの世界が華やかになっている。
そういった技術が、40年、ちゃんとずーっと維持され続けているというのは、
これは驚くべきことなんです。
ぼくは、それに着目したんです。
先ほど、話したLinuxというのは、実はUnixの一種と言えるものなんですね。
Unixは40年前、1971年にできたんですが、
これはアメリカのAT&Tという電話会社の研究所で作られたものなんです。
結城:
日本で言うとNTT。
當仲氏:
そうです。NTTです。
そんな巨大な会社がですね、コンピュータの研究をやって、
これでビジネスをやったらですね、コンピュータ業界は潰れてしまう。
だから独占禁止法でもって、Unixというのを作ったけれど、
これで商売してはいけないと法律で禁止されたんです。
AT&Tは、じゃあ何をしたかというと、
せっかくいいもの作ったのに、商売できないんだったら、
これを公開しようと、タダにして世界中にバラまいたんですね。
それがUnixの面白いところです。
実は今、みんなが使ってるインターネットというのは、
Unixのプログラムをバラまくためにできたネットワークなんですよ。
したがってUnixに始まった知恵というのは、今でもインターネット上に全部あります。
當仲氏:
それから1980年ごろになって、
AT&Tも独占禁止法の縛りから解放されて「商売していい」となった。
商売していいとなったらAT&Tは急に態度が変わった。
今まで自由にバラまいていて、そのバラまかれたものを見て
いろんなメーカーが、いわゆるUnixライクな、いろんな基本ソフトを作っていたんですけど、
それに対して「俺たちのものを見て、商売をしてる」という訴えに出たんですね。
それで、世界中が混乱に陥った。
Unixはいいものだったんだけど、ビジネスの領域に入った途端、
みんなが喧嘩をし始めて、いいものが出なくなってきたんですね。
その時に現れたのがWindowsだったんですね。
みんな喧嘩している間にWindowsが大きくなっちゃったんですね。
結城:
なるほど。Windows搭載のパソコンが普及した。
當仲氏:
それで、様子を見ていたフィンランドの学生がいてですね、
「これは悲しいことだ」と。
こんなにいいものなのに、お互いに喧嘩しあっている。
しかも、みんなUnixのソースプログラムを隠し始めたと。
こんなことをやっていたら、せっかくのいいものがダメになると考え、
その彼が始めたのが、LinuxというUnixの一種なんです。
続きます
知識商人登場!當仲寛哲の巻[第3回 LINUXとの出会い①]
対談は、當仲氏がダイエー時代に取り組んだ衣料品部門での帳票整理の話に及びます。
バイヤーや担当者と夜中の1時、2時まで話し合ってつくられたのは
「単品詳細」「アイテムマネジメント」「品番動向」という三つの帳票でした。
初めは、紳士服の水着の部門で使われたこれらの帳票が、
これはなかなか使えると評判を呼んで、
紳士服全体、婦人服、子供服へとダイエーの衣料品全部門で帳票が活用されました。
結城:
コンピュータシステムとか情報システムというと、
まず、トータルなものができあがっていて、
そしてそこからパーツができるというふうに考えられがちです。
でも當仲さんの言う「安い、早い、柔らかい」だったら、
部分から始まり、どんどんどん広がって、
横にアメーバ状にひろがっていくというんでしょうか。
そういう機能みたいなものがあるということですね。
★「システムはコンピュータにない、システムは業務にある」
當仲氏:
そうですね。
僕の基本的な考え方は、「システムはコンピュータにない」という言い方をするんですが、
「システムは業務」にあるんですね。
システムは、仕組みとか仕掛けのことですから、
要するにスイッチを押したら明かりがつくとかですね、
そういったのがシステムであって、別にコンピュータではないんです。
じゃあ、会社としての一番大きなシステムというのは、
要はどうやったら会社を維持できるかとか、
どうやったら売上げが伸びるか、
そういった仕組みが一番、会社にとって大事なシステムです。
そのシステムを細分化していくと、
たとえば、商品を仕入れる仕掛け。
どうやったらいい商品を安く仕入れられるかといった仕掛けです。
あるいは販売のシステム。
売場を良く見せて、お客さんが選びやすいようにする、お買いものが楽しいと感じる、
そういった売場をどうやって作るかという、
そのノウハウそのものがシステムなんですよ。
そして、間を繋ぐ物流。
だから、それをいかに効率よく無駄なく、鮮度を保ちながら運ぶかという、
そういった工夫の一つ一つがシステムです。
結城:
小売業の基本、経営そのものですね。
當仲氏:
コンピュータというのはあくまで道具で、
コンピュータだけでシステムができているわけじゃないんですね。
だから、あるケースは紙でやった方がいい場合もあるし、
あるいは、みんな集めて直接話かけた方がいい場合もある。
當仲氏:
そういうふうにして考えると、
いいシステムを作ろうと思ったら、
逆に、コンピュータでなんでもかんでもやろうと思ってはいけない。
いいシステムというのは、業務や現場の中に眠っているのであって、
それを引き出して、
その中でコンピュータを適用したらいいところに、コンピュータを入れる。
そういう発想なんですね。
だから、何か全体を決めてやるんじゃなくて、
もともと業務がある場所から、
どうやったらその業務が上手くいくかということを、
やっぱり業務をやってる人間と一体になってやるということが大事です。
コンピュータをベースにおいた発想からすると、
全部決めてないと、無駄なコンピュータを入れるんじゃないだろうかとか、
最終的に繋がらないんじゃないかとか、
いろんな心配をするんです。
最終的に繋がらなかったとすると、それは業務ではありえない。
業務をサポートする以外の変なものを作ると、
それは繋がらないかもしれないけど。
でも、もともと業務っていうのはあるわけだから、
つまり小売業の場合、仕入れて、要は売るといった、
そうったこう仕事がある限りにおいて、
システムとしては機能してるんですね。
★「コンピュータ技術は会社の知恵をパワーアップするもの」
當仲氏:
コンピュータを全てを理解してからじゃないと入れられないというのは、
実はコンピュータの技術の問題です。
柔軟でないような、一回入れたら直しが効かないとか、
全部話を聞いてからでないと作れないとか、
それは、道具としてのコンピュータのレベルが低いから、
そういう話になっているだけです。
それをあたかも全部聞かないと作れない、
それがコンピュータなんですよとか、
それがシステムなんですよとかいうのは、
それは多分、問題のすり替えだと思うんですよね。
だから、僕はコンピュータの技術を磨くことによって
本来、その会社の知恵であるようなシステム、
その業務の中にあるようなシステムっていうものを抉り出して、
それをさらにパワーアップしていくようなものを作っていく。
そのための技術っていうのを追い求めていくべきだと考えたんです。
結城:
そこで出会ったコンピュータ技術というか、
情報の世界があったんですよね。
當仲氏:
そうです。
私が使っているコンピュータはちょっと変わったコンピュータを使ってまして、
普通みんなが使っているコンピュータは、Windowsというのを使ってると思うんですが、
私が使っているコンピュータはLinuxというコンピュータです。
続きます
知識商人登場!當仲寛哲の巻[第2回 松田康之氏との出会い]
結城:
當仲さんは、ダイエーである程度の仕事をされた。
どういう改革をしたのか、最初の改革の中身を紹介してください。
★「情報の価値とは人間が見て、その価値化をする」
當仲氏:
スタートは本当に小さな小さなものだったんですね。
はじめに中内さんに言われたのは、
大阪に行って松田康之さんと言う人に会いなさいということでした。
私は、松田さんのことは、当時全然知らなかったんです。
松田さんは、大阪でファルマという薬局のボランタリーチェーンの創業者で、
お会いしてみると、
コンピュータだとか、システムについて一家言ある方でした。
結城:
僕も接点があり、存じ上げています。
當仲氏:
彼が言うには、情報の価値はコンピュータではないと。
コンピュータというのは数字を並べたりするだけであって、
情報の価値というのは、人間がちゃんと見て、その価値化をするものだと言われた。
例えば、コンピュータが無くたって、
落ちてるレシート一枚拾っても、見る奴が見たら、
その落ちてるレシート一つだけでも有益な情報というのは分かる。
ああ、そうか。
コンピュータというものと情報システムというものは違って、
情報システムというものは、
人間の感性であったりとか、想像力であったり、判断であったりとか、
そういう非常に人間臭いものであって、
コンピュータというものは、あくまで道具に過ぎない。
でも、その道具が不自由だと、やっぱりいい判断は出来ない。
コンピュータとシステムは違うということを教えてもらいました。
結城:
それは凄いことですよね。ある意味、発見ですよね。
★「情報は情けに報いる、情けは青い心と書く」
當仲氏:
はじめ、僕はコンピュータと情報システムはイコールだと思ってたんですね。
情報技術者とかいって、そんな言葉もあるぐらいですから。
でも、フタを開ければコンピュータの試験なんですね。
現在でも、世の中的には多分、コンピュータと情報というのはイコールだと思われてる。
情報というのは考えてみれば、「情けに報いる」という字を書くんですね。
「情けに報いる」とは、まさに義理人情、浪花節な非常にべたべたした言葉を当てている。
その情けというのは青い心と書きますから、
人間の純真とか本心ということですよね。
それで報いるというのは、響くということです。
ですから、情報というのはその人の心に響く、そうした言葉が情報であって、
その言葉の大事さを感じる感受性の強さが大事なんです。
片方でそうした感性を磨き、一方でコンピュータの技術を磨く。
その両方が大事なんだということを教えてもらったような気がします。
結城:
コンピュータとはいったい何か、ということも
當仲さんは明快に回答を出してらっしゃいますよね。
當仲氏:
そうですね。恐らく松田さんといろいろ話をしていった中から、
自分なりに確信に至ったのが、
コンピュータというのは道具であって、
その道具の良さを追い求めることによって、
情報システムというものは良いものになる、と思えるようになったんです。
ではコンピュータを道具と考えた時に、
「いい道具とは何だろう?」となるわけです。
料理に例えると、包丁や鍋、フライパンが道具になるわけですが、
じゃあ、いい料理を作るためのいい道具とは何か。
包丁なら、どんな包丁がいい包丁ですかとなったら、
これは単純明快で、よく切れる包丁です。切れない包丁は、しようがない。
値段が高い包丁というだけじゃダメです。
「なんとか正宗」とか入っている、名前が立派な包丁も、切れなければ最低です。
★道具としてのコンピュータは「早い、安い、柔らかい」が条件
當仲氏:
じゃあ、コンピュータを道具として考えた時に、
一番その道具として求められることは何だろうかと思ったんですね。
僕はやっぱり、値段が安いということ、早いということ、柔軟であるという、
「早い、安い、柔らかい」という、
牛丼のキャッチコピーみたいなんですけど、
僕はその三つに尽きるなと思うんですね。
その「安い、早い、柔らかい」というものを追い続けて、
そういったいい道具を使っていれば、
いい情報システムが作れると思ったんですね。
まさに料理のアナロジーです。
いい料理を作ろうと思ったら、さらに腕のいいシェフとか、コックがいるわけですよね。
さらにその腕のいいシェフを育てようと思うと、
舌の肥えた食する人、あるいはお店やレストランといったものも全部必要になりますね。
情報システムも、単に道具としてのコンピュータだけではなくて、
その情報システムで何を作るのか。
あるいは作ったものをどう使うのか。
それによってお客様や会社の組織がどう変わっていくのか。
そういったものを含めて考えて、初めて、いいものができるんですね。
ところが、コンピュータと情報システムというものを
大半の会社は、混同してしまっている。
特に最近は「IT、IT」と言って、なんか、かっこいいんだけど、
中身を開けると難しそうにみえる。
まぁ、実際難しいんですけど(笑)。
そのITが難しいと、要はシステムも難しいということになってしまいます。
システムと名の付くものは、みんな難しいだろうと考えてしまう。
當仲氏:
会社の中では、システムというのは非常に拒絶感と言いますか、
浮いた存在というか、そういう位置づけになっている。
そういった会社が多い。それは非常にもったいないことだと思ってます。
なぜなら、情報システムというものは、
働く人の感性そのものであったりとか、
その会社でそれを使う人の使い方であったり、
さらにはお客様とか会社をどう変えるかという話なんです。
これって実は、会社の経営そのものの話なんですね。
ところがコンピュータと情報システムを同じだというふうに勘違いしてしまって、
会社にとって本当に一番大事な情報に対して、疎くなってしまう。
これは非常にもったいないことだなと思っております。
結城:
松田さんにお会いになって、そして、
そういう情報とコンピュータの本質みたいなものを学んだわけですね。
続きます