さて、皆さん、いよいよ店舗視察も終わりました。
これからホテルまで、皆様のご質問、疑問に思ったこと、苦情、何でも聞いてください。
何かありますか?

―しばらく沈黙が流れる―

「本当に何を聞いてもいいですか?
それなら、ジョージさんの奥さんは、何人ですか?
あなたはどこの出身ですか?」
「え、流通関係の質問ではないのですか?
実は、いつも必ず同じ質問が出ますね。
きっと皆様は、私がどんな家に住んでいるのかとか、収入も知りたい?」
「はーい、そうです」

では話しましょう。
まず、ワイフは美人です
家はサンフランシスコに来た方だけに見せましょう。後で、内緒で聞きたい方だけに収入も教えましょう。
それはともかく、時間のあるかぎり、私の個人的なストーリーをホテルまで話しましょうか。

~プロローグ~

私は会社を辞めてアメリカに来たのですが、留学生仲間から、当時人気があった東海林さだおのマンガ、間の抜けたサラリーマン、ショージ君そっくりだと言われていました。
彼より2枚目だと思っていたので反発したのですが、内心くだらないことに心を奪われたり、妙に恰好をつけたり、ドン・キホーテみたいな男でしたから、そうかもしれないとも思っていました。
そこで私の過去の話ですから、3人称で呼びたいと思います。

ショージ君物語としたいのですが、それは著作権の問題がありますので、濁点をつけて私のアメリカ名、『ジョージ(George)君物語』にしたいと思います。
本名は秀二、シュージです。
経営コンサルタントのドラッカーは、経営(人生)において目標設定が一番重要とか、京セラの創業者、稲盛和夫氏は、人生の成功=考え方×努力×情熱だと言っているようですが、その時に、その言葉を聞いても、きっと耳に入らなかったと思います。
それほど、当時の私は目の前の慾望、夢に振り回されていました。

エネルギーに満ちた、多くの才能あふれる若者が、正しい考え方を学ばず、人生の航海に出る。
才能があるかどうかはともかく、私もその一人だった。
金髪に近づきたい。そのためには商社に入ろうか。だったら英語が必要だ。
でも英語は苦手で大嫌い。それでもやってみたい。

もう、めちゃくちゃです。

あれ、もうホテルが近いですね。
物語はまだ始まっていないのに、これは困りました。
また、皆様に再度来ていただくしかないですね。その時に話しましょう。

「浅野さん、本を書いてください。10冊ぐらいは買ってあげます!」

「たったそれだけ?このバスで何冊売れますか?それ次第では書きますよ」
「浅野さん、私がスポンサーになります。一年以内に書いてください。社員に配ります」
あれから9カ月。残り時間はあと3カ月。もう後に引けない。

こうして世間に恥をさらすことになった。残念ながらこれは人様のような人生の成功物語りではありません。あくまでエンターテイメントとして読んでいただけたらと思います。