〈第28話〉 再生の洞窟
第10章 ―――― Rebirth Experience in Sedona, Arizona (セドナでの再生体験)
再生の洞窟
セドナ在住のスピリチャルヒーラーである女性とそのアシスタントの男性、そして私と、あつ子さんの合計4人が彼女の車に乗り込んだ。くねくねとした道を上がり、そして下がり、大蛇が渦を巻いているような岩山の横を通り過ぎて行った。
丁度その大蛇岩の横を通り過ぎる時、誰かに喉のあたりを手で軽く押されているような感覚を覚え、思わずその事を口に出して言った。そう感じたのは4人中、私だけだったようだ。
「ここは、大蛇の首と呼ばれるところですから、そういう風に感じる人もいるようです。もう少し先へ進めば、すぐに治まりますよ。」
と、そのヒーラーの女性が答えた。彼女の言うとおり、そこを通り過ぎたらピタと何も感じなくなった。不思議だった。
大蛇の首を過ぎ、更に4~5分ほど走り車を停めた。そこからは徒歩だった。
平坦なトレイル(小道)を少し歩いたところで立ち止った。人の気配が無くなるのを待って、獣道へ入る。私の腰の高さや、時には背の高さ以上に伸びている草を掻き分けつつ、大小の石がゴロゴロ転がっている道なき道を歩いた。この道は古代からここに住むインディアン達の聖なる道だそうで、特別な理由が無い限り他の人に教えないで欲しいと、道中幾度も念を押されたが、かなり酷い方向音痴である私に道を覚える気も無ければ能力も無いと自覚しながらも、神妙に頷いて見せた。
10分ほどグネグネと歩き、今度は直線方向の登り道を先頭について更に10分ほど進んだ。岩山を登り、縦4メートル、長さ10メートル前後の平たい台座状の岩盤によじ登り顔を上げた。すると、目の前に岩の洞窟が現れた。側面がすり鉢状に大きくえぐれ、そのほぼ中央に人間が一人だけすっぽり入れるようなへそのように丸い穴が開いていた。それはまるで、女性の胎内を内側から見ているような巨大洞窟だった。
不思議なのは、ほぼ真っ直ぐ歩いて来た筈なのに、こんなに傍に来るまでその姿を見る事が出来なかった事である。
「ここはインディアンたちが再生(生まれ変わり)の洞窟と崇める神聖な場所であり、何かしら縁のある者、もしくは選ばれた者しか来られないのですが、今日の午後貴方達をお待ちしている時に急にこの場所へ来るようにとのお告げが降り、その時何故か一緒にお連れしようと閃いたのです。しかし、その真意は私にも解らないのです。あそこに見えるへそのような部分は宇宙へと繋がるへその緒で、古代よりインディアン達はあの穴まで登り、この参道のような斜面を滑り降りて再生の儀式を行いました。」
ヒーラーの女性はそう言い、前方の穴を指した。彼女の示すへその穴までは見る限りざっと7~8メートルの斜面を登らなければならないようであった。目を凝らすと、人が一人岩壁に面し片足づつ横歩きに進めば歩いて行けるような出っ張りが穴まで続いており、斜面はなだらかに見えた。
突然、普段の私では考えられない要求を口に出してしまった。
「あのおへその穴まで行ってみたい!」
子供の頃から高い所が苦手で落下型の絶叫マシン系も大嫌いである。スキーへ行ってもリフトに乗る時は緊張のあまりポールを握り締めて、なるべく足元は見ないようにするほどの臆病者である私の口から飛び出した言葉だとは、自分自身でも信じがたかった。本当に今思い出しても何故あんな言動に出たのか全く理解出来ないのだが、その時の私は途中の困難を全く考えず、ただあの穴に入ってみたいという気持ちで一杯になった。これもセドナパワーの影響だったのだろうか。
アシスタントの男性が幾度か登った事があるというので、先頭に立ってサポートしましょうと申し出てくれた。岩肌の一番右端まで行き、滑らないように靴とソックスを脱ぎ素足になって、足場の岩を2~3段登った。ふと右の肩越しに下を覗くと、断崖絶壁の景色が斜め右下方向に見えてちょっと慄いた。しかし、その時は未だ引き返すことなど考えなかった。出来る限り前方だけを見ながら進むように心掛け、しっかりと両手で岩の壁の窪みに掴まりながら慎重に足を進めた。足場には十分なスペースがあったので、下さえ見なければそれほど怖くは無かった。
“これが私にとって、初めてのロック・クライミング体験だわ”などと、最初は悠長なことを考えながら登っていた。
けれども、右から左へ、左から右へジグザグに登って行き、目的のへその穴が約3メートル上方に見えた所で急に足元の出っ張りが狭くなった。手探りで崩れ落ちない岩の窪みを探しながらかかとを浮かし、どうにか指4本が引っ掛けられる箇所を見付けては進んだ。
いきなり、掴んだ窪みがボロッと崩れバランスを失いかけ“落ちる!”と思った。崩れ落ちた砂岩から砂煙が立ち上った。とっさに硬めの窪みを掴みなんとか体制を取り戻したが、先ほどの恐怖で両足がぶるぶると震え出し一歩も進めなくなった。
“ここで落ちれば、下の丘に立っている人に激突し大怪我になるか?それとも勢い余って更に下の崖まで落ちて即死か?私は何故こんな無謀なことに挑戦しようと思ったのだろうか?これじゃあ自殺行為ではないか”
冷や汗がこめかみを伝い、血管がドクンドクンと波打つ音が聞えた。後悔が頭を過ぎる。でも私は引き返すことも出来ない状況に立たされていると分かっていた。
「もうあかん、これ以上は前に進めません。どうしよう!」
背中越しに大きな声で、あつ子さんに向かってそう呼びかけた。
“今すぐ警察に電話をし、ヘリコプターを呼んで救出して欲しい”
心の底からそう思った。
五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウェルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター
4 件のコメント
う~ん、手に汗握る、緊張のシーンですね~。
これから、どうなってしまうのでしょうか??
Apple Townさん
あえて話さずにおきましょう。
この事も含め、最後の最後にはちゃんと話は本流に
戻りますよ、
とだけお伝えしておきますね
うーーん!これからどうなるのでしょうか??
明日から青森ねぶた祭りの添乗に行ってきますので見るのは9日(月)が楽しみです。
・・・もうわかっちゃったかなぁ!?
限界様
もしかして東北新幹線沿線でお仕事されていますね?
青森のねぶた祭り、一度は行ってみたいです。
次回は昨日アップされていますので
楽しんで読まれてください。