〈第30話〉 闇の向こうにある光
第10章 ―――― Rebirth Experience in Sedona, Arizona (セドナでの再生体験)
闇の向こうにある光
再生体験から戻るとすっかり時間が遅くなってしまっため、リーディングは翌朝行われる事になった。
翌日、予約時間前の早朝、キャセドラルロックを反対側から見渡せる丘へ、アシスタントの男性の案内で登った。この丘は地元の人ならよく知っているが、一般の観光客には知られていない特別なスポットらしい。
その丘から見えるキャセドラルロックは、神様の大きな手が5本の指先を立て、その手に何かを受け止めているように見える。朝焼けに輝く指先は神々しくて、思わず、あつ子さんと二人で手を合わせた。
地面に転がっていた石の中に岩山の形をした赤い石を見付けた。それをしゃがんで拾い上げ、持ち帰る事は出来るのかと訊ねると、彼がこう教えてくれた。
「大地にお礼を言って貴方の髪の毛を一本抜き、石の代わりに捧げてください。」
私は言われた通りにして、その石を持ち帰った。それは今も私の部屋に飾ってある。
リーディングは、乾燥させた白セージ(サルビアの葉)を燃やした煙と、クリスタルを使用して行われた。自分の前世である過去生を見る事も出来るらしいのだが、私はこれから先に自分の身に起きる事について訊ねた。スピリチャルヒーラーの女性は、一見、幼い少女の様な容貌をしていた。切れ長の大きな目は眼光が強く、見つめていると吸い込まれそうになって少し緊張したが、セージ特有の甘く、クールな香りを吸い込むと気分が落ちついた。幾つかの色の付いたクリスタルを透明なクリスタルの横に並べてから、彼女は目を閉じて話し始めた。
「今貴方は、これまでの人生を浄化する時に入っています。そしてその浄化を続けるうちに真の目的を発見します。もう少し解り易く例えると、とても大きな山が貴方の前方に控えており、これからそれを登って行きます。今までの人生は、この山登りのための準備練習だったのです。小さな山や中くらいの山を登ったり、途中で諦めたり、引き換えしたり、足を滑らせて落ちてしまったり、そしてまた、別の山を登ったり、或いはどの山に登ってよいのか分からずその入り口で迷ってしまうこと等の繰り返しでした。しかし、もう全ては整いました。貴方は自ら選んでその山を登ります。途中で息が切れて立ち止まる事もあるかもしれませんが、それでも以前のように引き返す事はしないでしょう。そして私には、山のてっぺんでほっとして笑う貴方の顔が見えます。」
「昨日あのような体験をしたのも何かその事と関係ありますか?」
「ええ、もちろんです!浄化とは即ち全てを新しく入れ換える事、再生と同じ意味です。」
「そのう、大きな山を登る事はさぞかし大変なのでしょうね…」
「大変と感じるか否かは全て貴方の考え方次第です。スポーツをするように体は疲れて大変でも、それを楽しんでやっているなら辛いとは思わないでしょう?それでも貴方は必ずこの山へ登ります。例え大変だと思っても、そうでなくてもね。だって、これが貴方に与えられた運命なのですから。」
私の運命?何か他人の話を聞いている気がして、いまいち実感が湧かなかった。
「運命っていうことは、今まで私に起こった事の全ては既に決められていた事なのですか?」
「そうだと言えますね。人は誰しも運命を持つと私は信じています。現に、ホームレスの子として生まれてくる子もいれば、世界一お金持ちの家に生まれてくる子もいますよね。それは、その子供達が持って生まれて与えられた運命です。では、お金持ちに生まれたら永遠の幸せが約束され、ホームレスに生まれたら不幸な運命が待ち受けているのか?という判断は出来ないですよね。人は個々にその運命を通し、人生に様々な事が起こった時にプラスかマイナスの生き方を選び、如何に幸福を実感できるのかは本当に自分次第なのです。それが人が個々に与えられた選択という特権なのですよ。周りの人が羨むほどの生活を与えられていても、毎日が不満だらけで、死んでしまいたくなるほど人生を嘆いている人を私は沢山知っています。本当は試練の数だけ、喜びの機会が準備されているのですがね。もっと単純な言い方をすれば、どんなに豪華なご馳走を目の前にしても、それを毎日食べていれば飽きてくるし、下手をすれば身体を壊してしまいます。逆に真の空腹の後には、一杯の粥でさえ極上の味がして、栄養が肉体の隅々まで行き渡るのを感じるはずです。貴方にとって今までの人生は非凡であり、まるでジェトコースターのようにアップダウンが激しい時期も経験されたのではと想像します。しかし困難な状況から学んだ事が、後になって人生の糧となった事も多々あったのはないでしょうか? 今は気付いていないかもしれませんが、貴方には自らの経験を通して得た事を伝え、そして人々のために働くという役目が与えられているからなのですよ。」
彼女の言葉を聞きながら、心の中には次のような思いが浮かんできた。
“私が運命を信じるか否かは別として、振り返れば母の死に始まり、決して平凡とはいえない人生を歩んで来た。けれど、どんな事も、例え何かに失敗して嫌な思いをした体験さえも後で必ず私のためになり、後に大きな災いから身を守ることが出来た気がする。右の反対側が左のように、闇と光は常に隣りあわせで、私たちの誰もが闇の中を歩く時、たとえ何度も道に迷ったとしても、その場所に立ち止まらずに進んでいけばきっと光の方向へ辿り着く。それは、天が全ての生類に与えた幸せになるための法則なのだ。そして私は夢を持ち、それを決して諦めない思いと、この意思を自ら捨てない限り、明るい光の真ん中へと続く道に向かい、更なる扉を開き続いていくのかもしれない。”と。
数秒の沈黙の後、気になっていた質問が私の口から飛び出した。
「ところで、あの場所に行かれてどんなお告げがあったのですか?」
「いいえ、今回は特にメッセージの言葉は下りて着ませんでした。ただ最近は非常に忙しかったので、あそこへ行き、自らを浄化しなければいけない必要性が私にあったのかもしれません。もしくは・・・。」と、一瞬彼女の言葉が途切れ、私の目を真っ直ぐに見つめて言葉を続けた。
「今回呼ばれたのは私ではなく、貴方の方だったかもしれませんね。」
冗談の様にもとれるその口調に、私も続けて笑ってみせた。しかし内心は、その一言に反射したのか、妙な緊張を感じていた。 私はブルッと小さな身震いを一つした。
五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウエルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター
2 件のコメント
最後のエンディングで、こちらも、浄化された感覚を共有できましたよ。感謝。
こちらこそ
共有していただいて
感謝です。