〈第35話〉 ハルカちゃんへの手紙
第12章 ―――― Meet Again(再会)
ハルカちゃんへの手紙
鈴木タツヤさん、ハルカちゃん親子と一緒に沼津市にある鈴木美恵さんのお墓参りをした後、再び思い出の喫茶店でお茶を飲んだ。それから少し次の時間があったので、沼津港へと案内して頂いた。
車を降りて岩壁に佇むと、丁度夕陽が沈む頃で、オレンジ色に煌めく波がとても美しかった。私たち3人は暫く黙って海を見つめていた。ハルカちゃんが魚場に積んであるバケツの隙間に子猫が見えたと言うので、私は彼女と一緒にその猫を探した。そして、展望デッキに2人で登り海風に吹かれて涼んだ後、明るく無邪気なハルカちゃんと一緒に駆けっこをして遊んだ。日が暮れた頃、沼津駅まで見送って頂き、私達は笑顔で別れた。
ハルカちゃんと過ごした短い時間の間中、私は彼女を通して幼い頃の自分の姿を見ていた。
私はハルカちゃんに手紙を書いた。
ハルカちゃんへ、
初めて貴方に手紙を書きます
先日は会いに来てくれて、そして沼津の港を案内してくれて本当にありがとう
ハルカちゃんと遊んだひとときはとても楽しかったよ
展望デッキから見た海は、キレイで雄大で
あの景色を毎日見ながら、成長していく貴方がうらやましくなりました
私が癌を患っている時、ハルカちゃんのお母さんである美恵さんと出会い
そして、美恵さんが亡くなるまでの2年間
お互いに励ましあいながらEメールの交換をしていました
私にもハルカちゃんと同じ年頃の男の子が一人いるんだよって
あなたに写真を見せましたね
私と美恵さんは家族の為にも
“絶対に生きるんだ!”
という大きな絆で結ばれていたのです
美恵さんは、「がんばりましょうね、絶対負けません。」
といつも言っていました
その言葉に、何度も何度も私は力づけられたのですよ
おかげで、私は今、生きています
だから、けしてこの命を無駄にしない人生を歩んでいこうと思います
そして、少し形は違っているかもしれませんが
美恵さんが望んでいたような
たくさんの人を元気に出来るような仕事にかかわり
一人でも多くの人の力になりたいという夢もあります
美恵さんは、そして彼女の意思は
私の心の中で今も生き続けています
ハルカちゃん、貴方の中にも生き続けています
私も幼い時に、母を癌で失いました
子供の頃は、寂しい思いをすることもありましたが
ある日、母はずっと私の傍にいてくれるんだと気付きました
降り注ぐ朝陽に、静かな夜の片隅に
咲く花びらに、流れる川の水面に
吹く風の香りに、優しい雨の一粒に
素晴らしい自然を目にする度に
めぐり合う人々の笑顔の中に
差しのべられた手の温もりに
暗闇の中で道が見えない時、私の足元を照らしてくれる一筋の光に
そして、奇跡が起きる一瞬に
私は母の存在を感じてきました
ハルカちゃんも、必ずそんな風に感じる事が出来る日が来ますよ
それとも、もう既に感じていますか?
ハルカちゃんが
貴方のお母さんのような、素敵な女性に成長し
自分の夢を見つけ
素晴らしい人生を歩んでいく事を信じています
いつかアメリカへ遊びに来てください
私が美恵さんに見せたかった大自然の景色を
是非、貴方に見て欲しいと思います
ハルカちゃんの幸せを
心より祈っています
また逢いましょう
See you again
五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウェルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター