〈第36話〉 より良く正しい情報が、チャンスを増やす
第13章 ―――― Dreams will go on (夢は続く)
より良く正しい情報が、チャンスを増やす
幼い頃から、私は世界地図を見るのが大好きだった。どこかの店で貰ったカレンダー付き世界地図を年が過ぎて色褪せてもずっと部屋の壁に掛けていた。その地図を指でなぞりながら、私は空想の中で日本から太平洋を何度も越えてアメリカ大陸へと渡ったのだ。
そして空想は現実となり、今はアメリカで暮らし、北米のみならずカナダやメキシコ、太平洋を越えて日本まで仕事で往復しているのだから不思議なものだ。けれど、たとえ異国の空の下で暮らしていても、私の原点はあの大阪の小さな街の空の下であると信じている。だからこれほどまでに強く、私の体験から得た情報を日本にいる人々に伝え、成人病患者達やその家族を取り巻く環境において先進国である米国に、より近づける社会や医療システムの構築に貢献したいと願っている。
欧米に比べて情報の量が少なく、癌という病に関して閉鎖的な傾向が強い日本社会では、未だに「癌=死の宣告」と思い込む人が少なくない。著名人が癌にかかろうものなら、週刊誌などのメディアは明日にでもどうにかなってしまうかのような悲劇的な記事を書く。けれど現実的には日本人の3人に1人が癌になっているという現状が存在するのだ。
近年、日本のテレビで『癌難民』と呼ばれる人々について語られていた。彼らは医師の治療方針に納得が行かなかったり、医師に見捨てられて、数々の医療機関や代替医療を渡り歩く患者の事で、現在は日本全国に70万人以上居るという。その多くは何を信じて良いかわからなくなり、見も心もずたずたにされてしまっている。全てに絶望し、時には引きこもり、ただ死を待つだけの日々を送る人々や、仮にやっと受け入れ先を見つけたとしても、余りにも限られたその扉の前で多くの人々は成す術も無く、息絶えてしまう現実が、今この瞬間にも繰り替えされているケースがあるのだ。
昨年のニュースでは、自らも乳癌を病んだ77歳の母親が白血病の長女を刺殺するという、非常に悲しい事件について報道されていた。背景には“グリベッグ”という高額な特効薬治療と自らの抗癌剤治療にかかる金銭的負担と将来への悲観があった。この特効薬の登場で、多くの白血病患者の生存率が上がったそうであるが、その一方で経済的な事情から治療を諦めるという無残な現実がある。 “持たない者は、生きるチャンスまで奪われてしまうのか?”それではあまりにも不公平である。誰にも相談できずに現状の全てを背負い込み、最悪な結末へと向かう人々を照らす光が今すぐ必要なのだ。もうこれ以上の不幸を生み出してはいけない。
米国では提供される情報量は圧倒的に多いと感じる。医師や医科大学、病院等が柔軟な考えを持ち、資本を投じて西洋医学以外の療法に対する研究を重ね、時には東洋医学的な治療法と最先端西洋医学のコラボレーションを厭わず、同時に患者の”QUALITY OF LIFE”を尊重する傾向が増加している。
私の闘病記録で、病を宣告された当初は抗癌剤投与を拒否していたにも関らず、結局は抗癌剤を使用するくだりがある。この中で私が伝えたかった事は、進行型の症状に対しては、化学療法やその他の西洋医学的な療法が必要なケースがあり、そのあたりの決断を間違うと命とりになることがあるという事である。
結局は患者本人と医者との信頼関係を強固に築くことが重要なのである。その為には、医師によって患者の肉体的・精神的な不安を出来るだけ取り除いてから治療に取り掛かることが先決ではないかと思う。抗癌剤の場合、投与に関して患者個々に対する緻密な計算が専門家によって割り出されることで、必要な範囲量の(与えすぎない)の治療が為されれば、病原を叩きながらも体内の免疫機関が傷つくことを最小限に抑えることが可能である。そこへ現在の統合医療的な取り組みによる、漢方や針、マッサージなどの緩和的な療法を加えれば、患者の身体的や精神的な苦痛は明らかに軽減される。
抗癌剤は人の身体を直接滅ぼすのではなく、抗癌剤によって低下する体内の免疫力機能が低下する事で別の症状を起こし、それが原因となって臓器などの不全状態が起こる。精神的にしっかりとしていて、免疫力が十分に備わっている場合、薬の投与は効果的であり、症状を抑え、制覇することも可能であると考えられる。免疫細胞の強い若年層は病気の進行も早い代わりに、薬の効きも早く、完治率も高いのはこのためであると考えられる。それに反して、病気の進行度や高齢が原因で、体力が弱っている患者には手術、放射線、強い薬の投与は実際の効果が出るよりも衰弱の速度の方が高いケースが多い。
私が最終的に出会った医師は、統合医療があくまでも闘病中の患者のライフスタイルをより良く維持出来るという利点に着目し、その利点によって患者や家族が闘病生活を最善の状態で過ごせるという事を理解していた。それは個々の状態に応じて対応出来するライフスタイル的治療法であり、私にとって、免疫力を高めながら病気を叩くことを可能とするチャンスとなったのだ。
告知を受けてから、私は出来る限り多くの情報を集めようと決意した。そして自分のニーズに答えてくれる参加型の勉強会(質疑応答に力をいれた意見交換会)や健康食料品店で行なわれる情報交換、講師によるセミナーなどが豊富にある事を知った。そして私が統合医療と出会い、信頼できる医師とその治療法によって救われたのは、友人の一人が私の代わりに参加した勉強会で情報を得てきてくれたからである。
米国にはCancer Society(ガン患者を支える会)、 Breast Cancer Society(乳癌間者を支える会)、Leukemia& Lymphoma Society(白血病とリンパ癌を支える会)などの協会団体の規模が非常に大きく、活動もアグレッシブである。テレビやラジオなどの公共電波を常時使用した広報、数多くのコンサート、マラソン、ステージ活動など通じて集められた基金で、新しい治療法開発に役立てるだけでなく、患者の財政的負担を軽減するために、治療の続行をサポートする資金の提供も行なっている。
求めれば、与えられるという開放された状況が最も大切なのだ。
豊富な情報の提供と意見を交換出来る場所がより多くあれば、それだけ希望が生まれるチャンスが増えるし、その発信源が信頼のおけるソースであれば、彷徨える人々にとっての道標となる。
五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウエルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター
1 件のコメント
久しぶりに、HPに来ました。この統合医療と西欧医療についての解説は、貴重ですね。ぜひ、体験を含めたお話しを、これからも聞かせて下さい。必要な(私たちを含め)人たちに届くように!