〈第38話〉 いつか全てが、実現に向けて動き出す
第13章 ―――― Dreams will go on (夢は続く)
いつか全てが、実現に向けて動き出す
2010年夏。有機農業を日本全国に普及し定着させ、その延長線上で総合ウエルネスセンターを設立するというビジョンを持つ南埜氏から、日本における統合医療のパイオニアである埼玉県川越市の帯津三敬病院名誉院長、帯津良一医学博士との面会を、博士のブレーンである霜田氏という方を通してセッティングして頂いた。
帯津博士は医療の東西融合という新機軸を基に、専門的な知識の元で西洋医学にも積極的に取り入れてガン患者などの治療に当たられている。川越の病院まで通えない患者の為に池袋メトロポリタンホテル内に設けられたクリニックにて、始めて博士と会った。博士は執筆活動や取材、講演や大学での講義なども行うなど非常に忙しい方なのでお話を聞けたのはほんの30分ほどであったが、70歳を超える高齢でありながら、真摯に、精力的に患者と向き合い、現役で活躍されている先生のお姿は素晴らしかった。当の私は非常に緊張してしまい、限られた時間内で自分の言いたいことの半分も話せなかったのが残念だった。
帯津博士は養生塾という合宿形式のワークショップも開かれ、患者達のために食事療法、ヨガ体操や気功、ホメオパシー(極度に稀釈した成分を投与することによって体の自然治癒力を引き出すという、「毒をもって毒を制す」の考えから生まれた治療法)などを取り入れ、肉体や精神の症状を緩和させる治療も提供されている。患者のQUALITY OF LIFEを重視される博士の病院には日本全国から患者達がやってくる。しかし、たった一人で診れる患者の数には限りがあり、初診を受けるまでに3ヶ月待ちと言うのは常であるそうだ。霜田氏や南埜氏はその待機患者の不安や症状を緩和させるための総合ウエルネスセンターの設立を計画しているそうだ。
次回、帯津博士と会うまでに、私の頭の中にある構想を具体的に書きだしておけば、もっと話しやすいのではと南埜氏から提案されて、次に綴ってみた。
① 統合医療、患者や家族の心のケア、そして患者達の情報ネットワークに関して柔軟で先進的な米国に
視察団を送り、持続的に情報を交換できるような関係を築く。
② 各専門医や病院との連携のもと、早急な対処が必要な患者には、安心して入院できる体制を整える。
③ 遠方からの患者が家族と一緒に滞在しながら、体と心の免疫を上げるためのヨガや気効の
ワークショップクラス、宿便を取り除き腸内をキレイにするデトックス療法、温泉療法が行える設備、
針、マッサージ、食事療法のサービスを提供できる場所を地域活性化が必要な郊外に開設し、
一般にも開放する。
④ 地元の有機農家との契約栽培により、施設で提供される主な食材の殆どをローカルから調達する。
例えばここにローカルの食料品店が関わるのも良い。
⑤ 患者が自宅に戻ってからも持続して行える、実践可能な食生活と調理法の指導を行なう。
⑥ 統合医療を行っているドクターを、日本中そして世界中からゲストとして招き、勉強会を実施する。
⑦ 患者やその家族たちが常に情報を交換するワークショップの開催と、病を克服した体験者達との
座談会を設ける。
⑧ メディカルソーシャルワーカーや心理専門医が出向して行なう個人カウンセリング。
⑨ 副作用による髪の喪失等の外見の変化に悩む女性患者たちに、自然化粧品、鬘や乳癌患者用の
特別パッド付きブラジャーの低価格提供等。
⑩ 医師免許を持たずに、営利目的で違法に行なわれる自由診療や代替栄養食品の販売の取締り強化。
正しい情報を求める患者や家族のための相談センターの開設
これらのビジョンを実現するには行政団体や企業から基金の調達が必須であり、その為には提供側に利益をもたらす事も構想に入れなければ実現化は難しいと考えられる。利益が生まれるシステムが構築できれば、患者達にとって最も深刻な、経済面による負担の軽減にも役立てるのではないかと私は思う。米国では多くのメーカーや小売業が様々な難病患者の為に基金を集める活動を行なっている。
有名なのは各企業が乳癌患者の医療面や経済面支援の為に商品を開発し、その売上利益を役立つ事が商品をピンクカラーのデザインで誰もが理解する方法である。例えば今全米に広がっているiPhoneのプロテクションをピンク色にデザインされたものは、その利益が役立つという倫理的意識で顧客をひき付けるだけでなく、見た目もポップでカワイイので人気がある。
そして忘れてはいけないのが、日本マクドナルドの創業者である藤田氏が財団法人ドナルド・マクドナルドハウス・チャリティーズジャパンを設立し、同財団が運営する形で、難病の子供の為の病院とその親が暮らせる施設の第一号を東京都世田谷区にオープンし、氏が没した後も新しい施設をオープンしている。生前はアグレッシブな意見を発し、“勝てば官軍”などの強気の発言で敵も多かった企業家で、晩年は業績不振の責任をとった形の寂しい退任をしたが、その死後も、藤田氏が難病患者達からは神様のようだと崇められ、顧客のマクドナルドに対する信頼の裏づけの一つにもなっている背景には、氏が若き頃米国で学んだ儲けを社会に還元するというスタイルがあったからだ。
慈善事業への出資や活動は、企業が社会や顧客の心にアピールできる大きな広告戦略になると考えられる。アメリカでは米国農務省が認可した最大の自然食スーパーマーケットWHOLE FOODSという食品小売業が今年から創業当時の理念に戻り各店舗の扉の前に“貴方の健康はここから始まる”と掲げた。彼らは、安心で健康な食品を販売するだけではなく、精力的に顧客へその重要性を教育する事への投資が、長期に渡ってロイヤリティーカスタマーを維持する要だと語っている。定期的に行なわれる自然食や健康管理のワークショップや、率先して販売される難病患者をサポートする商品のラインナップに見られるような取り組みを、日本の小売業でも更に見習って実践して頂きたいと願っている。
それから子を持つ母としてもう一つ付け足しておきたいことがある。日本には病で両親を失った子供たちに対するケアはあっても、親が患者として闘病生活と戦う最中に、未成年の子供たちへ対する心のケアやサポートが無い。子を持つ親が癌告知を受けた時、子供達にどう接すれば良いのかと悩み、苦しむ気持は私も体験を通して痛いほど理解できる。
昨年、偶然にも日本で久しぶりに再会した友人が癌宣告を受けた。彼には高校生と中学生の子供が二人いるのだが、迷った末に何も言わなかったと聞かされた。幸い症状は初期であり、簡単な手術と薬で大事には至らなかったそうだ。
しかし誰もが彼のようなケースでは無い。もし自分の親が、ある日突然急に重い病に陥り、姿が変貌して、あげくの果てに他界してしまったら?何も理解できないまま愛する親を失ってしまう子供達の心には深い傷が残らないだろうか?それとも最後まで何も知らない方が、子供にとって幸せなのか?特に幼い子らには、親の病を理解するのは難しい事だと思う。
たった5歳で母を亡くした私も、母の記憶は殆ど無いのが現実である。けれども、小学生に上がってからの記憶は、多くの人が一生覚えているはずであるし、子供は大人が思う以上に利口である。息子が小学校2年生だった時、私も迷ったが、結果的に出した答えは真実を伝える事であった。現実を受け止めた我が子は、幼いながらも私を励まそうと頑張ってくれ、その事が私の勇気となった。
欧米の病院では、ケースワーカーやメディカルソーシャルワーカーによる患者や家族に対する心のケアが充実し、もちろん患者の子供たちに対しても十分なサポートを提供している。先ず、そういうシステムからでも一日も早く日本でスタートすることを望んでいる。家族の協力以上に、子供の理解と励ましが、患者達の心を最も奮い立たせ病と絶ちむかう強力な武器となるのだということを、私は身をもって主張する。
最後に、このストーリーを読んで頂いている読者の皆様へ私は繰り返し伝えたい。
現代の日本で死因のトップは癌であり、三人に一人が癌を発病している。これは癌という病気が特別な病ではなくなったのだということを示している。我々はその事を理解し、癌にかからない身体を維持する事が大切であり、又、たとえ癌になっても、恐れることなく、あなた自身が手を伸ばせば、そこには健康を手に入れる機会(HEALTH OPPORTUNITY)が存在するのだと知ってほしい。私は自らの体験を語る事と、仕事を通じて築いていく人間関係の延長線上で、そのヘルスオポチュニティーの扉が何処にあるのかを照らす灯台のようになりたい。この心の中に芽生えた灯を消さない限り、いつか全てが、実現に向けて動き出すと信じている。私の大好きな、あのディズニー・メロディの一節のように…。
星に願いをかける時
君が何処の誰であろうと
そんな事は関係ない
君の心が望む限り
全ての夢は叶うのだ
五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウエルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター