〈第39話〉 エピローグ― At The Mother Of The Earth (母なる大地にて)
エピローグ― At The Mother Of The Earth (母なる大地にて)
砂漠に咲く花
春の日。
長さ400キロの道のりを運転してロサンゼルスからラスベガスへと
走っていた砂漠の途中、名も無い黄色の花が辺り一面に咲き乱れていた。
“凄い!どうしてこんな雨も殆ど降らない砂漠に、あれらの花は咲いているのだろう”
そう思った途端、涙がポロポロとこぼれた。
堅く乾いた砂漠の大地を突き破り、
何百、何千、何億と咲く花は、どんな宝石よりも美しかった。
その奇跡のような光景をもっと近くで見たいと、
車を路肩に停めて咲く花々の傍らにしゃがみ込んだ。
水気のない地面を指で叩くと
“コツコツ”と堅い音がした。
しかし、私はその奥深くに蓄えられている、透明に輝く豊かな泉を想像していた。
かたわらに落ちていた小さな花びらを一つ摘まんで手の平に乗せそっと握り締めると、
気持ちが良いほど沢山の涙が頬を伝って流れた。
“こんなふうに泣いたのは何年振りだろう”
砂漠には暖かな季節が来た事を知らせるような風がそよいで、私の髪を撫でる。
それはまるで、優しい母の指先が触れているかのようだ。
“母はいつもこうして私に奇跡を見せては色々な事を教えてくれている。
だから、どんな時も私は夢を抱き、人生を諦めないで生きていける。
私はずっと母に愛されてきて、これからも愛されていく…”
「あ・り・が・と・う」 一言、一言に心を籠めて母に告げた。
長い時を経て、自分の内部で少しずつ外へ向かって流れていた川が、
ようやくその機会を与て地上へと溢れ出していくかのようだ。
地面に零れ落ちる私の涙は
土に浸み込み
いつか、この場所に新しく咲く花の一部となる
砂漠の大地に咲いてみたいと夢見たのは花なのか?
それとも、乾いた自らの土の上に花を咲かせたいと夢見たのは大地なのか?
ああ、でもそんなことはどちらでも良いのだ。
この花は砂漠に咲くからこそ、こんなにも人の心を打つ
それは、地球の生きとし生けるもの全てが起すことの出来る奇跡なのだ
誰だって、何だって、一生懸命生きて、そして夢を見る
いつかその夢を形にすることは可能なのだ
Yes! Anything is possible
自分を信じて生きていこう、そして夢を形にしていこう
未来へと紡ぐ光の架け橋のように、
数々の言葉が連なる金や銀の輝く糸になって私の中から溢れ出した。
まだ何者でもなく、夢の途中を流れる一滴の水の粒ような私だけれど、
先ず、自分の夢について語ることから始めてみようと思った。
そしていつまでも時が経つのを忘れ、直ぐ傍らに母の温もりを感じながら・・・。
私は砂漠に咲き誇る花を見つめている。
-完-
五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウエルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター