アリゾナ州セドナへ小旅行-そしてスエットロッジ体験―
5月初めの週末、息子は中学のコーラスクラブ遠征の旅、主人も遠くから訪ねてきた知り合いの世話で忙しいため、私は、友人と2人で、新緑の美しいセドナへと1泊2日の小旅行に行って来ました。
私の住むラスベガスから隣のアリゾナ州に位置するセドナまでは、片道約400キロ、ロスアンゼルスまで行く距離とほぼ同じです。行程の半分以上は、草木もほとんど生えていない荒涼とした砂漠を、ただひたすら東へ走るのですが、おやつを貪りながらおしゃべりしていると、退屈な景色も気にならず、あっという間にセドナへ到着です。
10年前に初めて訪れてから、私はセドナに魅了され続けています。
特にラスベガスに引っ越してからは、たった4時間のドライブで行くことができるので、最低でも年に2度は、ここを訪れることにしています。私にとってセドナは、アメリカの大自然の中で、最も愛すべき場所なのです。
標高1400メートルに位置し、地殻変動と侵食によって生み出された、壮麗で神秘的な赤い断層が彩る、さまざまな形をしたレッドロック。
それらには、ボーテックスと呼ばれる地球の磁力が集まって、外部へ湧き上がるエネルギーが渦巻いていると言われています。セドナは、世界七大スピリチャルスポットの1つともされ、世界中からスピリチャルヒーラーや芸術家などが集まって暮らす場所でもあるのです。
近年、セドナは日本の旅行雑誌や芸能人にも紹介されていて、日本からもたくさんの観光客がここを訪れます。そして特に、女性に人気がある秘境だと聞きます。
オーククリークと呼ばれる谷川にそって南下し、峡谷の樹海を抜けると、息を呑むような絶景が目の前に登場します。
真っ赤なレッドロックと、芽吹いたばかりの緑のコントラストがとても美しく、つい見とれながら運転をしていると、ハンドルを取られて断崖から落ちそうになります。
中でも大聖堂という名称で呼ばれるキャセドラルロックには、女性的なエネルギーがあるとされます。そのレッドロック内部には大きなクリスタルが存在し、そこへ登ることで魂が浄化されると言われます。その姿は愛し合う男女が見つめあい、周りを祝福する人々が取り囲み、まるで聖堂で結婚式を行っているように見えます。あるいは男女がお互いの背をあわせて立ち、それぞれの方向を見つめているようにも見えます。
セドナの中心にあるオールドタウンに着き、いつも壮大な景色を見ながらお茶が飲める、ベストロケーションのコーヒー店が閉店されているのを発見して、ちょっとびっくりしました。
そういえば、今回宿泊するホテルも通常は1泊で150ドル以上するのですが、現在、インターネットで“景気低迷時スペシャル料金”をうち出していたため、なんと89ドルで予約することができました。
米国の不景気は、ここ、セドナにも影響しているようです。そして折からの新型インフルエンザの影響なのか、週末だというのに町全体も空いていました。
実は今回の旅の目的は、以前から興味を持っていたアメリカンインディアンの儀式の1つ“スエットロッジセレモニー”を受けることでした。
これはスピリット(魂)のデトックス(浄化)を行い、さまざまなカルマを取り除くことによって、自分自身を再生させるための儀式だそうです。女性の子宮をイメージした真っ暗なテントの中で、焼け石に水をかけ、その熱い蒸気が立ち込める熱気に身を委ねて、唱を歌い、音楽が奏で、インディアンのリーダーが祈る言葉を聞きながら、各自も自分の思いを吐き出して、火と蒸気によって浄化を行うのです。
これは最近、日本の有名旅行社が企画するセドナ観光リーズに、必ずといっても良いほどオプショナルの1つとして登場する、知る人ぞ知る、儀式なのです。
以前、このスエットロッジを受けた友人の一人から「想像を超えるくらいに暑いよ、それに体中の汗が吹き出る」と聞いていた私は、まるで今からサウナへでも入りに行くように、バスタオル、水と下着までの着替えを用意し、バンドで髪を束ね、水着を着ての挑戦です。
さて、夜の7時半を過ぎたころ、儀式を行うインディアンの男性と、そして他の参加者とナチュラルフード店の前で待ち合わせ、そのインディアンの彼に案内されて、儀式のために設置された屋外のテントへと、内心どきどきしながら向かいました。
テントの真ん中には暖炉のようなものが設置されてあり、そこへ火が炊かれ、石が投入されました。ミントオイルのエッセンスが含まれた水を、焼けた石にかけると、ジュージューという音とともに蒸気が立ち昇ります。しっかりと2重に出入り口を閉ざしたテント内は、暖炉の蓋を開けない限り、相手の顔も見えないほど真っ暗です。ドンドンとインディアンのリーダーが太鼓を叩き、私たちは彼に続いて、各自に渡された”Rattle”と呼ばれるマラカスのようなものを、ドラムの音にあわせてシャカシャカと振りました。ドラム以外にも杉の木でできたフルートや、シンギングボールと呼ばれる、寺でお坊様がならす金リンに似た大きなボールを鳴らし、不思議なインディアンの呪文のような唄を詠ってくれます。
テント内の温度はどんどん上昇。時折、立ち上る蒸気を何かで煽っているようで、熱風が吹きつけて来ます。閉じた目頭に額の汗が流れ込んでくるわずかな痛みに、さらにまぶたをぎゅっと閉じました。汗なのか蒸気なのかわからないほど、体中がびっしょりとなっていくのを感じながら、息を深く吸い込むと熱い空気が喉の奥まで入ってきて焼けるようでした。
一瞬「こんなこと続けてたら、のぼせて、失神するかも?」という不安が頭をよぎりましたが、火に一緒にくべられた白セージと、常時振りかける水に含まれたミントの香りが、なんとか正気を維持させてくれているようです。地面に手をあてると、指先から屋外の冷気が伝わってきます。地面に近い部分は比較的温度が低いので、頭を低く下げると少しだけですが、暑さを凌げます。
途中、この状態の中で、各自が自己紹介や自分の吐き出したい悩みなどについての話を順番にするように言われたのですが、暑さで思考がうまく回らず、自分の番が来る前までに、なんと話せば良いのかを考えることが一番大変でした。
このような30分強のラウンドを3回行いましたが、途中で5分ほどテントの入り口をあけて外気を入れて休憩しました。
約2時間強のセレモニーを終えて外へ出ると、あんなに汗をかいたのに、身体も顔も不思議なほどサラサラです。特にインディアンの彼と別れの挨拶でハグをした時、同じく汗をかいていて、しかも男性なのに、無臭だったのが驚きでした。夜空を見上げると(実はこの日は曇っていて星は見えませんでしたが)頭も心の中もすっきりと洗われたようで、新しいエネルギーが身体の奥底から湧き出してくるような気がしました。あんなに気絶しそうなほど暑かったのに、なぜか近い将来に、またスエットロッジをやってみたいと考えています。
翌日は、セドナで有名なベルロックと呼ばれる鐘の形をした岩山の頂上まで、友人の助けをかりて登りました。もうほとんどロッククライミング状態でした。普通ならその翌日に必ず筋肉痛になるのに、今回はスエットロッジで身体が軽くなり、解毒したせいか、痛みもほとんど感じませんでした。
1つ文句を言わせていただければ、帰る日のランチに、谷川が流れる屋外でフレンチを奮発して食べたのですが、グラスの白ワイン一杯を頼んだら、なんとたった1杯で16ドルもチャージされたのです。一番初めにメニューを見たとき、ボトルワインの一番安いのでも24ドルでしたので、そんなにするはずはないとタカをくくり、メニューを再度確認してから注文しなかった私も悪いのですが、ちょっとこれはぼったくりだなと感じました。
「どこに行っても、たかがグラスワイン1杯にこんな高額な料金を払ったことがない!」とウエイターに文句を言ったら、2ドルだけまけてくれました。でもチップを支払うので、合計で支払う金額はたいして変わりませんでした。
皆様、初めての店でワインを頼む際にはくれぐれもご注意を。
以下は一緒にスエットロッジを体験したお友達のハツエちゃんが、儀式をイメージして書いた絵です。
セレモニーの内容が、とても上手く表現されている絵だと思い、ご本人の承諾を得て載せました。写真が取れなかったので、この絵をみた皆さんに、儀式の雰囲気を想像していただければと思います。
補足ですが、私はあれからせっかく汗をかいて解毒した身体を少しでも維持するため、週に2回、アスレチッククラブのキックボクシングクラスに通っています。クラスは結構ハードなのですが、講師の先生が“ミリオンダラーベイビー”でオスカーを受賞したヒラリー・スワンクばりのナイスなボディなので、私もこのまま頑張れば、夏にはビキニも着られるかも?と勝手に想像しています。
さていつまで続けられるか、乞うご期待です。
五十嵐ゆうこ