ウイーピング・ロック―涙の岩
「今、貴方が目にしている1粒1粒の水の雫は、
1200年の時間を経て、堅い岩を貫き
光る宝石となってこの場所へ流れ落ちてきているのです。」
大自然の宝庫といわれるアメリカ西部に流れる巨大なコロラド河。
その豊かなる水の流れを取り巻くように広がる台地、カイバブの森。
新世代から白亜紀、そして現代に至る20億年以上の地球の変化によって、
階段状に創られた深い谷や奇怪な岩壁達。
“グランド・ステアケース”と名づけられたユタ州からアリゾナ州へと連なる
壮大なモニュメントの中に、厳かに聳え立つ石の峡谷、ザイオン自然国立公園がある。
今から約150年前、この地へ入植したモルモン教徒らは、その壮麗な美しさに感動し、
この場所を『シオン - 永劫の地』と名づけた。
ザイオンのほぼ中心に位置し、 最も不思議で神秘的とされるウイーピング・ロック(涙の岩)は、
はるか昔に起きた大規模な地殻変動と長い年月の風化現象によって
剥がれ、削られた、大きな一枚岩の断片に、
涙のような水が滴り落ちることからそう呼ばれる。
雨や雪によって浸み込んだ水が、悠久の時を経てその強靭な岩を貫き、
降り注ぐ木漏れ陽や茂る緑に反射してエメラルドやトパーズに輝く雫となって、
途絶えることなく地上に降り注いでいる。
そこを初めて訪れたのは3年ほど前の5月のことだ。
まだ初夏に入ったばかりとはいえ日中は30度を越える暑さの中、
ウイーピング・ロックへと続く約1キロの、
峡谷特有の草花が咲き乱れる上り坂のトレイルを、
流れる汗を拭いながら息を弾ませて歩いた。
ようやく目的地へ辿り着いたかと思うと、
涼しげな水がピチャピチャと滴る音、
そして、マイナスイオンで一杯のひんやりとした湿気が、
瞬く間に体の熱を冷ましてくれる。
ほんの4-5分の事だったと思うが、偶然その場所にいたのは私一人だった。
目前に現れた、煌く水のカーテンの清らかな滴りに両手を差し出し、
ゆっくりと指をひろげると、水の粒が弾けて虹色のプリズムが現れた。
私は手すりに寄りかかり、思い切って体をぐっと前に突き出して、
振りそそぐシャワーを真下から浴びた。
輝く水飛沫が私の顔と体を濡らして、その心地よい冷たさに身を委ねれば、
大自然の涙に口づけをされ、優しく抱かれているような気がした。
“全てが浄化されていく、そして細胞の1つ1つが生まれ変わっていく”
そんな不思議な感覚の中、私は、病む事も老いることも忘れて、
永遠に輝く命を手に入れることも、可能なのかも知れないと思ってしまう。
私には夢がある。
確かなる知識の裏づけの元
病む事や、老いる事にも脅かされず
細胞も血液も
心も体も活性化され
最善の健康と美を手に入れる術を知り
癒しを求める多くの人々を救うこと
エジソンが闇を照らし
ベルが遠く離れた人々を声で繋ぎ
ライト兄弟は、人間が鳥のように羽ばたけることを証明し
リンドバーグは、アメリカからヨーロッパへ向かう渡り鳥になって
そして、人は宇宙までも飛んで行った
乳飲み子を抱え
1杯のコーヒーを買う事が、精一杯のシングルマザーが書いた物語が
世界中の子供たちに魔法をかける
『私には夢がある』と
唱えた黒人牧師の夢は現実となり
その意思をつぐ者が大国を動かす
彼らは何も特別ではない
皆同じ人間で
ただ夢をけして諦めなかっただけなのだ
この岩を貫いて溢れ出す水たちは
もとはただの水で
前に進むことを諦めなかったからこそ
ここまで辿り着き
陽の光を浴びて
煌く結晶となる
水しぶきで濡れた髪を
さっと振り払い顔を上げると
光の粒が舞って、輝いて、私を包む
その瞬間、
夢の楽園に佇む自らの姿を見た
私はその姿を愛おしむかのように抱きしめる
All dreams come true! 夢はきっと叶う
(五十嵐ゆうこ、JAC・浅野スタッフ)