コミュニティーとの一体感を目指した「サインタワー」
アメリカのショッピングセンターデザインが、新しい価値の方向性を示し始めた。
この数年、アメリカ視察で一番強く感じるのは、大型ショッピングセンター開発が
進んで出店地域の町並みを造り上げている点である。
国土が大きいアメリカでは、商業施設の出店は
地域のディベロッパーが土地を確保し、流通業を誘致する。
ショッピングセンターの外観デザインコード(建物の高さや材質、カラー等)を用意し、
ディベロッパー側が出店者の様々な要望を受け入れながら建てていくケースが多い。
ディベロッパーの手腕は、良質な街並みを作り、
そこに相応しい人々にたくさん住んでもらって、地域の価値を上げていくこと。
言ってみれば流通業にとって一番大切なお客様を、購買力を、
間接的にではあるが流通業に提供していくのだ。
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[進化したサインタワー]
TARGETやLowe’sのデザインは単なるサインのベースという
従来のやり方自体から脱して、ショッピングセンター建築と
サインタワーのイメージを合わせて、
ショッピングセンターとしての一体感を強く表現し、
使われている素材感等でこのショッピングセンターのグレードを表している。
今まではあまりみられなかった新しい手法である。
特にLowe’sサインタワーの背景をみると、
ショッピングセンターの家並とデザインモチーフが同一であることが分かる。
従来のローコスト型サインタワーデザインはこのようなものがある。
H・E・B
アルディ(ALDI)
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日本ではナショナルチェーンといわれる大手流通業は、
自前のスタッフによる情報網で土地情報を得て、自ら開発を行い、
ショッピングセンターを建てる。
中小流通業でも土地開発部隊を持ち、
土地情報を自前であげられる組織力を持つ企業もあるが、割合は少ない。
そのため、大手ゼネコンやハウスメーカー系が物件を持ち込んで、
建物(店舗)を入札ではなく半ば「特命」で受注している現状がある。
いわゆる、持ちつ持たれつの関係である。
しかしこれからは、小売業側が自分達にとって都合の良い施設(店)を
作ればそれで良いという時代はそろそろ終わりにしたい。
それでないと地域住民からの支持が得られなくなるし、
競合で意識の高い相手に負けてしまうことになる。
ただでさえ狭い国土の中、成熟し、あらゆる「物」が飽和に近い今の日本社会で、
今もこれからも「物」を継続販売していこうという流通業は、
ますます進む成熟化社会を担ってゆく地域住民から、
新しい価値観を持つ施設(ショッピングセンター)が求められてくる。
今回取り上げたサインタワーは、これからの日本の商業施設が
取り組んでいくべき方向性を示していて、その象徴といえる。
新しい価値観は、流通業の出店は「街造りの重要な拠点を担う」という視点、
言い換えれば「コミュニティー形成への積極的な参加視点」である。
しかし日本では、街は国や地方自治体がつくるものという意識が濃い。
流通業側もゼネコン側も「街造り」という意識がほとんどない。
言い換えれば、考えもしないと言えるかもしれない。
出店地域のポピュレーションがあまり変化しない、出来上がった市場へ
オーバーストアであっても店を出し、競合に打ち勝つことが命題だから、
多くを望めないことも理解している。
しかし、このTARGETやLowe’sといった、アンカーテナントの
サインタワーデザインをもつショッピングセンターから、
流通業が町並み造り市場の形成に向かって、
積極的に参加している姿勢を強く感じた。
<By 小林清泰>