第2弾/大久保恒夫の巻[第2回 イトーヨーカ堂の業革から学んだこと]
結城
イトーヨーカ堂の業革で学んだことを、最初にお話しください。
大久保社長
一番大きいと言いますか、私が、ずっと基本的に思っていることは、
やっぱり現場が大事だということ。
そしてお客様志向。
お客様にいかに満足していただくかということだけなんです。
これはもう伊藤さんが常におっしゃられてましたので、
身に沁みてますね。
伊藤さんがイトーヨーカ堂を作って、鈴木さんが業革をやられて、
会社を改革されたんですけれども、
私は鈴木さんの考え方の基本的な部分に、
伊藤さんの考え方はあると思っています。
現場志向とか、お客様志向というものの延長線上に、
業革があったと思っています。
結城
僕もそう思いますね。
基本の徹底と変化への対応、これがスローガンですが。
それは、もう伊藤さんと鈴木さんが、
正しく一体となっているということですね。
具体的には施策とかそういったことで、
この業革から学ぶことは、どんなことがあったんでしょうか。
大久保社長
そうですね。
その業革っていうのは、いわゆる経営改革なんですけれども、
実際に中で話し合われていたことは、ものすごく具体的だったんですね。
★業革はお客さまに満足していただくための流通構造改革
大久保社長
例えば、津田沼店の鮮魚売場の刺身の鮮度をいかに良くして、
お客様に満足していただくのかといったテーマで、
その品揃えから生産、売込みまで話し合うわけです。
それぞれどのようにしたら、
お客さんに喜んでいただいて
売上が上がり、ロスが減り、利益が上がるのかをやっていくんですね。
ただ、それをするためには、すごく幅広い改革が必要になります。
どうやって仕入れるかとか、
どうやって解凍するかとか、
どうやってそれを切って盛り付けるかとかですね。
売場で何を売るのかを考えて、どうやって売り込むかとか。
いろんな部署に関係する仕事があるし、
大きな取引先を含む改革をしなくてはいけない問題もある。
そのために現場、部署をどうするのか、
さらには流通プロセス全体も考えて実現するにはどうしていくのかと。
こういうようなことをやっていました。
お客様のために何をどうするのかと言うことを考えて、
それを流通構造全体の中でどうやって実現していくのか。
それからイトーヨーカ堂という組織の中で、
どうやって実現していくか。
広く、長く、深く、そういうようなことを考えて、
実現していったというのが業革なんです。
それはある意味、
お客様に満足をしていただくための流通構造改革だったと思っています。
この業革の経験は非常に役に立っていますし、
これまでもこれからも、私がいろんなことをやったり、
思考したりするときの原点になっている考え方です。
結城
業革の時には、セブンイレブンの考え方が、
かなり中心になっていたという認識が普通ですけれども。
大久保社長
考え方の中心というか、原点は同じです。
セブンと同じような基本的な考え方が、イトーヨーカ堂にもあった。
セブンイレブンの原点を、イトーヨーカ堂っていう会社の中に
どうやって活かしていくかということだったんだと思います。
ただ、イトーヨーカ堂の業績が急激に、
1000億の経常利益が上がるところまで良くなったということです。
けれども、私がかかわった、
ユニクロや無印やドラッグイレブン、成城石井は、
それぞれ業態も違うし、扱っている商品も違いますが、
基本的に考えていることはほとんど同じです。原点は同じなんです。
商品が違って業態が違ったりするけれども、
それにあわせて、同じようにどうしていくのかということだけです。
結城
その意味ではイトーヨーカ堂の業革は、この時代の最先端でしたね。
大久保社長
そうですね。流通構造の改革だったと思いますね。
当時、鈴木さんが需要と供給のバランスみたいなことを
良くおっしゃっていた。
高度成長期は供給を需要が上回っていたから、
とにかく大量生産をして、商品を大量販売する仕組みが必要だったと。
そこそこ品質の商品でよかったし、値段が安ければ、ものすごく支持された。
そうした時代から、供給が需要を上回るようになった時代、
お客さんが本当にほしいものしか買わなくなってきた時代になってきたら、
小売業はどうあるべきかと。
メーカーが作った商品を、ただ売りさばくだけの小売業じゃいけないんだ、
といっていました。
結城
鈴木さんは売り手市場から買い手市場という言葉を使っていた。
大久保社長
お客さんに一番近い立場の小売業が、
お客様のニーズを一番見つけやすいのでだから、どうやって見つけていくのか。
それをメーカーや産地と一体となりながら生産してもらい、
売り込んでいって、売り切っていくのかっていう流通構造に変えて行きましょう。
そういうことだったんですね。
セブンイレブンでもそうでしたし、
イトーヨーカ堂でもそういうことをやった。
その考え方を今でも正しいと思っていますでの、
私はいつも、その考え方で小売りを改革しています。
結城
大久保さんが今、強調されている、
生産を含めた流通構造の改革だという、
この視点はとても重要ですね。
★小売業がリーダシップを持ち、価値を生みだす
大久保社長
そうですね。
むしろ小売業が主導権を持つべきなんだ、小売業が価値を生むんだと。
だから利益も上がるんだという考え方なんですね。
ですから、メーカーがチャネル構造の中の主導権を持って、
メーカーが価値を生んで、
小売業がそれをただ売っているというだけでは
小売業の価値が少ない、だから利益が少ないと。
これを変えなくちゃいけないんだという基本的な考え方は、
私は、あったと思います。
結城
それは、例えば後でまた話題にしますけれども、
現在のようにプライベートブランドのある種のブームが起こったときに、
一方で、メーカーの技術や商品開発の力が強いという意見もある。
一方で、小売業のバイイングパワーが
プライベートブランドを作らせているという意見もある。
けれども、小売業の利益率はいまだ高くない。
したがって、プライベートブランドと称するか、プライベートレーベルと称するか、
成城石井のようにオリジナルブランドと称するかは別にして、
やはり、小売業が商品開発のある種の主導権を持って進めていくのは
重要であるということなんですよね。
大久保社長
そうですね。
小売業はお客様に一番近いので、
リーダーシップは持つべきだと、私はそう思います。
鈴木さんもそう思って大改革をしたと思いますけれども。
じゃあメーカーは単なる小売業の言うがままに、ただ生産するだけなのかというと、
それも違うんじゃないかなと思っているわけですね。
メーカーの技術開発力、生産に対する知識、それはやっぱり勝てないものがある。
ですから、それをいかに、みんなが活かしながら、
お客様のニーズに合ったものをどうやって見つけて、
生産して物流して、在庫して、
最も効率的な流通構造にして販売していくのか、
そういうことが重要なことだと思います。
<続きます>
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