第2弾/大久保恒夫の巻[第3回 子供のころからの夢は会社の社長]
結城
ヨーカ堂で学ばれたことは、やっぱり、
その後ずっと繋がってきていると言うのは、
当然のことでしょうけれども、
すごい価値の高い事だったんですね。
大久保社長
そうですね。その時、私は非常に若かったですし、
店に2年いて、いきなり経営戦略を担当する部署で、
経営改革の経験をするということは、
普通はありえないことじゃないかなと思っていますので、
非常に恵まれた、幸運なことであったと思っています。
結城
最初は必ず、誰でも現場を経験しなければならないわけですが、
比較的若いときに、意思決定の中枢のところに入るっていうのは、
非常にラッキーなことなんですね。
★小売業には、若い人が活かされるチャンスがある
結城
例えば、この対談にも登場していただいた
小浜裕正さんという今のカスミの社長は、
ダイエーに入られて、現場を少し経験して、
当時はダイエーにも、人材があまりいなかったので、
いきなり中枢に入って、商品管理のある種のルールを作るということをされた。
若い頃にかなり重要な仕事をいきなりさせられる
という経験を積まれているわけですが、
それは非常に小浜さんによかったようで、
それから何十年も経つ今でも、その話をされる。
大久保さんにとっては、この業革のスタッフになったというのは
同じような意味合いがありますね。
大久保社長
そうですね。幸運もあるんですけれども、
やっぱり小売業というのは、
そういうチャンスが多い業界なんじゃないかなと思います。
ですから、ものすごく大企業で、人材が豊富で、
組織がきちんとできてる会社ではありえないようなことが、
小売業では、若い人にどんどんチャンスが与えられる。
そういう機会の多い会社だと思いますね。
結城
その意味では、
規模の小さいローカルチェーンといわれるような企業でも
若い人たちには、大きなチャンスがあるということになりますね。
大久保社長
そうですね。ぜひ、それを活かしてほしいと思いますね。
結城
その後、コンサルティングの会社のリテイルサイエンスを設立されるわけですが、
その経緯をお聞かせください。
大久保社長
もともと私は、社長をやりたかったんですね。
子供の頃から、ずっと社長をやりたいという夢がありまして、
非常に幼稚な夢ですけれども(笑)、
ヨーカ堂で十年経った時点で、
やっぱり自分の会社を作りたいなと思ったんですね。
結城
なるほど。
★自分に実力があればリスクは低い
大久保社長
それともう一つ、ちょっと違う話なんですけれども。
会社で非常に認められていましたから、そこを辞めるって言った時にですね、
いろんな人から、親からも「お前頭おかしいんじゃないのか」と。
「こんなに認められて何を考えてるんだと」言われたんです。
けれども、その時、私が思っていたのは、
やっぱり、リスクが高いのは自分に実力が無いからだと。
たまたま今、認められているだけなんじゃないかと。
だから、たまたまある会社の、たまたまある部署に認められているだけで、
それは何かの拍子で変わるかもしれないと。
それはリスクが高い。
じゃあリスクが一番低いのは何かっていうと、
自分に実力があることだと考えたわけです。
実力さえあれば、どんな時代が来て、どんな会社でも、
仕事はちゃんとできるだろうと思ったんですね。
ヨーカ堂しか知らない、それから業革しか知らない。
これでは、まだまだ不十分だなと思って、もっといろんな勉強もしたい、
そのようにも思いました。
結城
すごい考えですね。
大久保社長
それを伊藤さんに言いましたら「そうか」と、
「それなら勉強して来い」と言っていただいたんです。
だったら自分の会社を作ろう。
会社を作れば、いろんな経験もするだろうし、苦労もするかもしれない。
けれども、自分自身が成長できると。
そしていざ、会社を作ろうと思ったんですが、何もないんですね、私ね(笑)。
お金もないし、親が何かやっているわけでもないので。
じゃあ、何ができるかっていえば、
紙と鉛筆で、コンサルティングはできるんじゃないかと。
経営戦略はやってましたし、
ヨーカ堂というのは、ある程度、進んだ会社だと思っていましたし、
その経験を活かして、
他の会社をコンサルティングできるんじゃないかと思ったわけです。
だけど、お客さんもいないし、コンサルティングのやり方も知らない。
じゃあ先に、外資系のコンサルティング会社に行って、
コンサルティングの勉強をしましょうと。
そして、入ってみると、ああいう会社には、もの凄い優秀な方がいっぱいいる。
MBAとってきてみたいな、もの凄く勉強されてきた人たちです。
けれども、私は経営戦略をやっていましたので、
実感として、彼らにはあんまり負けないなという気持りはあったんですね。
経営戦略は、ある程度知識もあるから、これはいけそうかなと思いました。
大久保社長
一方で、お客さんをどうやって見つけたらいいのか、わからない。
そのとき、流通経済研究所っていう、
学習院の田島義博さんがつくられた非常に優秀な研究所ですが、
そこから研究員やらないかというお声をかけていただいた。
メーカーが結構入られていて、小売企業も入っていた。
そこでコンサルティングをやってもいいし、原稿書いてもいいし、講演してもいい。
それを全部、自分の収入にしてもいいというような話をいただきました。
良いチャンスだからと行ったら、
いきなり、いろんな会社から、
コンサルティングしてほしいという話をいただいた。
夜とか、土日使ってやっていたんですけれども、
とてもやりきれないので、それなら独立しようかということで、
リテイルサイエンスを設立しました。
★売場の人が元気に働くだけで、売上げは上がる
結城
リテイルサイエンスという名前は、どう考えたんでしょうか。
大久保社長
その当時、小売業は、勘と経験と度胸だといわれていた。
そうじゃなくて、例えばデータもそうですが、
もうちょっと、科学的に問題点をきちんと分析していって、
そういう視点から流通業、小売業を見て、
それを改善していく、会社を直していくということが大事だと思ったわけです。
そういう風にしたいなという思いから、会社の名前もそうしました。
結城
ユニクロから出た澤田貴司さんが「キアコン」という会社を作った。
大久保社長
はい、はい。「気合と根性」ですね。
結城
その正反対の考え方ということでしょうか。
大久保社長
そうですね。
ただ私は、気合と根性、それも正しいと思っています。
だからそういうものと、科学的な考え方を
いかに組み合わせていくのかということだと思いますね。
どっちかじゃないと思うんですよ。
結城
気合と根性はなければね。
大久保社長
やっぱり、売場の人が元気で働くだけで、売上げっていうのは変わるものです。
それは、非常に重要なことだと思いますね。
続きます