第2弾/大久保恒夫の巻[第4回 小売業ほど面白い仕事はない]
< 中略>二人の対談は、リテイルサイエンス時代のコンサルティングの話で盛り上がっていきます。
大久保社長はユニクロ、良品計画などの経営改革に携わりましたが、
中でも、ユニクロの柳井正社長との出会いに大きな刺激を受けたようです。< 事務局>>>
大久保社長
柳井さんが全社員を前にして、
「大久保さんを副社長だと思って、大久保さんの指示には全部、従ってください」
みたいなことをおっしゃるので「これは、すごい経営者だな」と思いましたね。
私も、何とかしたいという気持ちがあって、一生懸命やったところ、
指示に対するスピード感と徹底力が全然違うんですね、ユニクロは。
もともと、そういう力のある会社なんです。
「こういう問題があるからこうするんだ」と私がお話しして、翌週行くと、
「今、体制作ってますから」とか「こんなことをこうやって体制つくってやります」というのが普通ですが、
ユニクロの場合は、「もうやりました」「こんな結果出てます」
という話がどんどん出てきて、ものすごい勢いで経営改革が進みましたね。
★経営のスピードを変えるウイークリー・マネジメント
結城
いわゆるウィークリーマネジメントですよね。
月曜日の朝8時から開催して火曜日までやって、そして問題解決をして、
そして翌週、また月曜日、火曜日と、
あくなきウィークリー・マネジメントをやっているんですよね。
ユニクロのあれはすごい。
大久保社長
その時に明確に意思決定がされるんですね。
前週までの一週間が勝負なので、こんな結果が出ていると。
じゃあ、今週どういう手を打つのかっていうのが経営会議で決められて、
午後にある営業会議で具体的な指示事項になっていく。
これはものすごいと思いますね。
私が今、成城石井でやっているウィークリーでの営業会議は、
その柳井さんのやり方が非常に参考になっていて、
むしろ、そのままやっている部分も、結構ありますね。
月曜日に営業会議をやって経営として決めたら、
それを営業にすぐブレイクダウンする。
店にどうやって連絡するのか、
主事指示みたいなのを出して、
主事指示を出しただけじゃダメなんで、
スーパーバイザー的な人が店に行って、
店の人と話をして、具体的に誰が、いつやるのかっていうのを決めて、
水木あたりで実行し、土日に勝負がついている。
だから、月曜日にまた経営会議をやって、経営としての経営判断をする。
結城
サム・ウォルトンも、金、土会議をやったんですね。
ウォルマートがかなり大きくなってからも、
ジェット機で飛んで、月火水木と店に行って、
そして木曜日の晩に帰ってきて、金土に同じような会議をして、
そして指示を出して、日曜からまた木曜日までやる。
このサイクルをサムウォルトンが作って、
それが今でもウォルマートの原動力になってます。
柳井さんも同じですね。
サイクルを作って、それを年間52回続けていく。
52回すると、全く次元の違う会社になっている。
その経営のスピード感ですね。
鈴木敏文さんも業革で毎週のようにやっていたわけですね。
大久保社長
毎週、毎週。
ですから、先ほど話した津田沼店の鮮魚売場の
刺身の鮮度をいかに良くするのかっていう課題を毎週、毎週やっていました。
どんどん手を売って、その結果が出てきて、
それに対してどうするかを決めて、またやるっていう。
この繰り返しなんですね。
結城
その週の頭に意思決定をするというころですね。
そして具体策を作って、それを展開する。
やってみて次の週にもう一回意思決定し、検証する。
良ければどんどんやる。
悪ければすぐやめて、変える。
そういうことだったんですね。
★柳井正社長の「失敗したら学べるじゃないか」
大久保社長
そうですね。
もうひとつ、柳井さんを、私、すごいなと思ったのは、
「失敗していい」、むしろ「思い切って失敗しろ」「やれ」という。
とにかく「考えてたってしょうがない」と。
「やったら結果が出るんだから、結果を見て、
すぐまた次の手を打てば、失敗したっていいんだ」と言っていた。
「失敗したら学べるからいいじゃないか」と。
中途半端な失敗をして、学ばないぐらいだったら、
思い切ってやって失敗したら、勉強になるからよい、
次にそれを活かせばいいじゃないかと。
本当に言ってましたからね、経営者が。
あれはすごい。
柳井さんに学んだところがたくさんありますね。
結城
そこは柳井さんのすごさですよね。
ともすると、権威が強くなると、失敗は許さないというような空気になる。
それでは、チャレンジ精神というか、チャレンジする部分をなくしてしまう。
大久保社長
私は、小売業はやっぱり「柔らかい」と思うんですね。
いろいろなことをやって失敗しても、怪我が浅い。
すぐ修正できる。
だから、思い切って売ってみて、売れなかったら、
それを半額にして、売り切ろうとすれば、売り切れちゃう。
そして、また次の商品を売ればいいじゃないかというような、
そういう柔らかさが小売業だと思います。
小売業のそういう良いところが、私は好きなんです。
どんどんやったらすぐ結果が出て、結果がだめだったらすぐ変えればいい。
その柔らかさ、身軽さというか、スピード感がある。
小売業のその良さを、うまく生かしたほうがいいと思いますね。
結城
その通りですね。
大久保社長
どんどんやって、結果が出たほうが、
考えているよりはるかに早く、正確にわかります。
考えて、分析しても、わからないものはわかんない。
躊躇して、いろいろと判断に迷っているぐらいだったら、
思い切ってこっちだと思ったことをやってみて、結果を見て
それでよかったのか、悪かったかを判断する方が、
ずっと正確にわかると思いますね。
結城
メーカーのように、新製品を出して失敗したら取り返しつかないっていうのと、違いますよね。
非常に野放図だけど、それがフレキシブルだという、
そういう要素はありますね。
★小売業は頭脳労働だからこそ面白い
大久保社長
私は小売業のそういうところって、すごい好きなんですね。
だからいろいろとアイデアを出せるし、そのアイデアも実行しやすい。
ダメだったらやめればいいと。
いろんなことを考えて、いろいろと手を打って、
しかも結果がすぐ出ます。
結果がでて、そうしたら、また次の施策もどんどんできる。
小売業は、本当に仕事としては
こんなに面白いものはないと思うんですよ。
それを考えもしないで、ただ作業だけをしていたら、
こんなに辛いものはないと思いますね。
労働環境は辛いし、肉体労働だしみたいなね。
本当は、小売業は頭脳労働というか、
その楽しさがすごくある職場だと思っています。
ぜひそれを皆さん、活かしてほしいと思いますね。
結城
この対談のタイトルは「知識商人」。
僕は、「ナレッジマーチャント」ともいっているんですが、
小売業で働く人たちは、頭脳労働者であると。
ドラッカーは「ブレインズとハンズ」という。
つまり「脳と手」の両方を使うのが知識労働者で、
21世紀の働く人たちのあるべき姿だっていうんです。
それを最も体験しているのは、僕は小売業や商人だと思うんですね。
ブレインズとハンズを使って。
手で商品を並べたり、商品を使ったりしながら、同時に頭を使う。
セブン-イレブンのパートタイマーやアルバイトさんの「分散発注」だって、
並べつつ、自分で売場を作って、
そこで発注という意思を込めて商売しているわけです。
それを見ても、知識商人、ナレッジマーチャントであるという認識を、
僕は持っているんです。
大久保社長
それから、小売業はものすごく自由になるところがあると思いますね。
メーカーだったら自社の商品だけを売り込めになってしまいますが、
小売業だったらいろんなところから商品を集めて、並べて売れますし、
場合によっては、並んでない商品を自分で仕入れてもいい。
そして、何を売るのか、どう売るのかっていう自由がありますよね。
私、お店にいたとき、ものすごく楽しかったです。
今でも本当は店長やりたいんです(笑)。
店長ほど面白いものはないと思うんです。
もっといえば、売場はすごい
「緩い(ゆるい)」んですよね、きっちり決まってないので。
特にエンドとか、平台とか、あんなスペースだったら
ちょっと寄せれば隙間がいくらでも空きますので、
そこに自分がこれなら売れるかなと思った商品を思い切って発注して積んで、
例えば、お客さんに「この商品はこんないいところあるんですよ」っていって
売ったときの面白さはないわけです。
小売業は、そういう意味では、いろいろ考えることが自由にできるし、
行動もすぐできる。自分自身でいくらでもできますよね。
裁量権がものすごく大きいわけですね。
自分で発注して、自分でスペース空けて並べれば、
自分のやろうとしたことが実現できる。
その結果がまたすぐ出てきて、それに対して、また次の手が打てる。
そういう意味では、こんな楽しいものはないんじゃないかと思っている。
だけど売場に行くと、本当につまんない顔して働いている人が、
結構多いんですね。
これは残念だと思っているので、
ぜひ面白いと思う人が一杯いる小売業をつくりたいと思っています。
結城
さっきの柳井さんにしろ、伊藤さんにしろ、
やっぱり自分の仕事を楽しんでいて、自分の仕事が大好きなんですね。
続きます