第2弾/大久保恒夫の巻[第6回]1%の売り込み商品
大久保社長の巻が事務局の都合で、一時中断しておりました。読者の皆様にお詫びいたします。
再び再開です。
対談は九州のドラッグイレブンの再建へと続き、同社で改革の肝は、マネジメントレベルを上げるためのコミュニケーション改革だったという話が、大久保社長から具体的に語られました。
そして、いよいよメインテーマ、成城石井での現在進行形の取り組みが語られます。<事務局>
大久保社長
成城石井の社長のお話をいただいたとき、
前から良い会社、可能性のある会社と思っていましたので、
ぜひ、やらせてもらおうと思いました。
結城
本当に、売場や商品がもともと、良い会社ですよね。
それで成城石井にやってきたと。
★価格でとったお客は、価格で取られる
大久保社長
成城石井は経営危機ということではなかったんですが、
やっぱりちょっと業績は翳っていましたね。
それから、成城石井らしさというのがなくなってきているのかなと。
他にはない良い商品がどんどん仕入れられていて、
店頭で売り込まれているというのが、
成城石井の良さだったと思うんですが、
何だかみていると停滞している感じだったんですね。
他がどんどん成城石井をベンチマークして追いかけてきて、
成城石井みたいな店がどんどん作られて、
差別化が少なくなってきていたんじゃないかなと思いますね。
結城
そうですね。典型がクイーンズ伊勢丹だとかね。
キャッチアップする側が、どんどん追いついてきたという感じですかね。
最初に成城石井ではどのようなことをやったのでしょうか。
大久保社長
まず最初に私が思ったことは、「価格勝負じゃないですね」と。
私は、日本は価格以外のニーズが非常に強い国だと思っています。
食品ですから、こだわった安心安全の商品で差別化していけば、
売上げを上げられるだろうと思いました。
今までディスカウントで売上げが上がったという経験が、私自身あんまりない。
だから方法論でいうとディスカウントというのは、非常に難しいと思っているんですね。
確かに価格訴求は、短期的に売上げが上がります。
短期的、表面的には、価格を下げるという手はあるんですが、
価格を下げて取ったお客様は、価格で取られてしまう。
値段を下げても、ずっと同じ値段であれば、
インパクトが少なくなって、だんだんお客様が買わなくなってしまう。
そうすると客単価が下がってしまう。
安いからといって2倍食べたりしないでしょ。
そうすると長期的には売上げが落ちてしまいます。
結城
競争相手も黙っていない。価格には価格で対抗してきますね。
★定番商品で固定客を増やす
大久保社長
売上げを上げる方法というのは、固定客を増やす。
値段じゃない魅力で、定番商品を買ってもらう。
これしかないだろうというのが私の結論なんですね。
例えば醤油の濃い口を1L158円でディスカウントしたとする。
固定客の方が、安いから買いましたという場合、
どういう購買行動が起こっているかを考えてみると、
まだ買わなくても良かったけど、安かったから買いましたという、
いわば先買いが起こっているだけです。
あるいは、本当は丸大豆のおいしい醤油の方が良かったけれど、
安かったから、今回はこっちでいいやと思って買いましたという、
商品スイッチが起こっているだけです。
安く買った醤油だから2倍かけようという人はいないので、
単価が落ちている分、消費量は変わらないので売上げは落ちます。
マーケット自体が、今後、どんどん縮小していくと思っているので、
ディスカウントは非常に厳しいと思いますね。
ただし、ディスカウントニーズが強いのは確かです。
その体力消耗戦に打ち勝てば、
巨大な企業が何社か、生き残るかもしれません。
しかし、成城石井は違います。
固定客に定番商品を買ってもらう、
だから成城石井のファンを増やしたいと。
ファンを増やすにはどうしたらいいかといえば、
私が今までずっとやってきて、至っている結論が、
基本の徹底です。
挨拶をしっかりすること。
クリンリネスを徹底すること。
品切れを削減すること。
これらを地道にきっちりやれば、ファンは増える、固定客は増える。
これが私の信念なんです。
科学的根拠はあんまりないんですけれども(笑)。
★挨拶を徹底したら接客に対する苦情が減った
大久保社長
面白いのは、挨拶を徹底すると、苦情が減ります。
これはドラッグイレブンのときもそうだったんです。
挨拶を徹底したら、総務部長が私のところにきて
「社長、最近苦情が減っているんです。半端じゃないんです。半分になりました」
やっぱりお客さんはちゃんと見ているんだと思いましたね。
今、経営判断する上で、成城石井では
苦情やお褒めを物すごく気にしているんです。
挨拶を徹底してて、毎月モニター調査やっていて、
点数をつけているんですが、
かなり飛躍的に点数が上がってきているわけですね。
点数上がってきているから良くなってきているな。
で、苦情が減ってきているかなと。
残念ながら、今、食品の安心安全に対するお客様の関心が高くて、
クレーム自体は、実は増えているわけですよね。
食品に対して、ちょっと味がおかしいんじゃないかとか、
これ大丈夫みたいなのがあるんです。
そこで苦情を、商品苦情と、接客苦情、
つまり商品クレームと接客クレームに分けて調べてみようって分けたら、
接客クレームは減っていたんです。
それと、もう一つはお褒め。お褒めが増えているんです。
1.5倍ぐらいになりましたね。
来店客100万人当たりを指数にしているんです。
こうした基本をきちんと徹底することが、
お客様の支持をいただくこと、固定客化に絶対繋がっていると思ってやっています。
結城
その通りですね。
僕も客数主義というのを掲げています。
客数、レジを通過する客数がバロメーターだと。
売上げではなくてね。
その客数を増やす方向性は、固定客の来店頻度を、買上頻度を増やすという、
これが一番原点だと考えているんですね。
それと同じでしょうかね。
★★1%のSランク商品を徹底して売り込む
大久保社長
そうです。
それともう一つは、やっぱり価格が安いからで買うのではなくて
本当にこの商品いいわねと思って買ってもらう、
そういう売場にしようと思っているんですね。
さっき、固定客に定番商品を提供するという話をしましたけれども、
売り込み商品というのを明確に決めて、それをきっちり売り込もうと。
これも今までの経験ですが、ABC分析ってありますよね。
売上上位3分の1の商品で75%ぐらいの売上げを上げるという。
あの分析だと、なかなか手にならないんですね。具体的な手に。
私はAをさらに3分の1に設定しまして、
つまり3分の1の3分の1だから、大体、上位10%でしょうね。
10%の商品で、40%から50%の売上構成比があります。
だからそれらをSランク商品として、Sランク商品を売り込めといっているんです。
Sランク商品は品切れさせるなと。
こういう手を打っているんですが、
それでもまだ、商品の固有名詞にならないですね。
「売り込み商品」にするにはまだ遠いんですよ。
その10%の中を、さらに10%、これは1%ですよね。
全体の1%の商品でどのぐらい売れるかというと、
大体15から20%の売上げがあります。
ドラッグイレブンもそうでしたが、
お店に1万5000ぐらい商品が並んでいるんですね。
成城石井も大体1万5000ぐらいなんです。
1%というと150ですから、150は覚えられます。
ドラッグイレブンのときに私、
全部覚えろと社員に言って、全部書かせたんですよ。
それぐらいなら、覚えられる範囲なんです。
それを売り込んで、売上げが上がれば、数字が簡単に弾ける。
例えば20%の売上構成比があって、これがもし10%売上が伸びたら
2ポイント上がりますから、既存店の100が102になると言うことなんですね。
結城
すごいことですね。
続きます。