第2弾/大久保恒夫の巻[最終回]「イチニッパを売り込め」
大久保社長
成城石井の場合は、とにかく売れる商品を売り込もうと。
それが荒利が低い、価格勝負の商品じゃ、しようがない。
私が社長として成城石井に来て2週間ぐらいのときに、
出した指示があります。
各部門ごとに、売上ランクが上位で、荒利率が平均以上の商品を
10個リストアップしろと。
さらに成城石井として自信のある、差別化された商品、
売り込めば、売れそうな商品をリストアップしてくれと指示しました。
こういう商品は、だいたい荒利率が高い。
これが6アイテム。
★1部門16アイテム、8部門128アイテムを売り込め!
大久保社長
10と6で、1部門16アイテム。
8部門あるんで、掛け算すると128なんですね。
「イチニッパ」って社内用語ですけど、
「イチニッパを売り込め」と。
128アイテムを売り込めということです。
2月の中旬に、128アイテムのリストアップがでてきました。
それらの1月の売上構成比を調べてみると、
だいたい6.5%ぐらいだったんですね。
まぁ、売上上位のアイテムばかりではないですから。
じゃ、3月からこれらを売り込む
「イチニッパ売り込み」っていう指示を出しました。
ただし、値段は下げないで売り込めと。
私は内心、きちんと売り込めば、
数量で3倍ぐらいはいくかなと思って指示を出しているわけです。
本部から指示をだして、マネジメントレベルを上げて、
店の徹底度を上げて、全店で売り込みました。
そうしたらね、
3月には売上構成比が10%ぐらいに上がったんですね。
「おぉ、上がるじゃないか」と。
そうすると、荒利率が高い商品ばかりですから、
全体の荒利も上がってくるわけですね。
「あぁ、社長の言うとおりだ」と、どんどん、どんどん、
みんながやる気になっていったわけですよ。
やれば褒められるし、表彰されるし。
結城
表彰もしているんですね。
大久保社長
はい、表彰もやってます。
私はよく売場を見に行くんですが、
最初の頃は「ちょっと並んできたな」といった感じだったのが、
最近では、
「こんなに並べているのか」って驚くぐらいに、
売り込んでいるんです。
値段を下げないで売り込んでいたら、
12月には、売上構成比が25%を超えてきました。
ものすごいことが現場で起こっていると思いますね。
結城
すごいですね。128で売上げ構成比が25%ですか。
大久保社長
そうです。イチニッパで25%ぐらい。
★世界へ行って、当てがなくても歩いてこい
大久保社長
売り込み商品はほかに、「今月の1品」があります。
今月の1品は8アイテムですね。1部門1個。
もう一つは「私の1品」。
これは売場の人が自分で売り込みたい商品を決める。
売場の人も参加しようということです。
だいたい今月の1品8アイテムで3%の売上構成比が目標。
これもすごいですよ、8アイテムだけで3%ですからね。
同時に、成城石井らしい商品、
それもオリジナルの商品を開発していこうよと。
成城石井オリジナルは結構多いのかなと思っっていたら、
そうでもなかったんですね。
聞いたら
「10%ぐらいですかね」という返事でした。
「それじゃダメだよね」と。
成城石井らしい商品を、
やっぱりオリジナルで開発していこうという方針で、
バイヤーの数を増やしました。
バイヤーのいわゆる「行動基準」も、
「座ってたらダメだ」
「世界へ行って、当てがなくても歩いてこい」
「日本全国探し回ってきて、そういう商品を探してこようよ」と。
その結果、今、続々と開発されてきている。
オリジナルの開発商品を「イチニッパ」にすると
エライ売れるんですよ。
売場の人は売る気になっているし、
商品部は良い商品を探してきたから売れるぞって。
必死になってバイヤーが探してきた商品は、
良い商品なんですよね、
それを売場で「売り込む」と、
25%までぐーと上がってくる。
既存店の売上げも2年前に比べて105%ぐらい、いっている。
結果として荒利率が3ポイント上がってきました。
結城
非常にシンプルだけれども、それを着実に実行されたし、
その実感が得られたというのが、とてもいいですね。
大久保社長
そうですね。
これまでの私のいろんな経験を基に、
「成城石井はこうやったらいいんじゃないかな」と
最初から思ったことを、すぐに手を打った。
そして着任した2月から業績が上向いているんですね。
そして、ずっと上がってきています。
コスト削減ていうのは、一回ちょっと上がるんですが、
その後、その効果はすぐに萎んでしまうんですよね。
それに比べて、お客様のニーズに合った売場を作っていくことは、
イトーヨーカ堂の業革のときにも思いましたが、
ずっと売上げは上がるんですよね。
業革でも、250億の経常利益が1000億になるのに
10年ぐらい、ずっと上がっていったんですね。
経費削減では絶対ならないですね。
成城石井も経費削減ではなくて、
お客様のニーズにいかにあった売場にするのか。
値段を下げないでも売り込める商品を開発して、いかに売り込むのか。
それが大切だと思いますね。
★5つの方法を徹底すれば値段を下げずに3倍売れる
大久保社長
値段を下げないで売り込むとということで、
ひとつ面白い話あります。
私は、5つの方法があると言っているんですね。
先ず1つが「優位置陳列」。
お客様は計画購買じゃなくて非計画購買。
お店に来て見て買う比率が80%ぐらいあると言われているように、
ほとんどお客様がそうです。
だからお客様が多く通るところ、
よく目が届くところは、優位置なんですね。
後は目立ちやすいようにフェースを広げる。
フェースを広げてお客さんにこんな商品あるのかと見てもらう。
それから「豊富感」というのが必要なので、在庫を多く持つ。
わっと積み上げる。
そして、商品のよさをアピールする「POP」をつける。
「こんな良さがあるんです」と。
もう一つは、「接客」をする。
声を掛ける。
「お客様これおいしいです。私も好きです」みたい声掛けが、すごく効くんです。
こういうのをすることによって、
値段を下げないでも私の経験で言うと、
3倍売れます。
そうすると荒利の高い商品が3倍売れたら、
当然、荒利は上がってくる。
実際に成城石井で今やっていることは、支持をいただいているんでね。
お客様が満足され、売上げも上がって、荒利も上がる。
私はやっぱり正しいやり方なんじゃないかなと思っていますね。
結城
お客様も喜んでいる。
成城石井という会社には元々そういうもんがあったんですよね。
これは見逃せないことですね。
大久保社長
成城石井はマネジメントレベルも元々高かったし、
商品の開発調達力も、
たとえば他にはない商品を調達する力は
飛びぬけて、ずば抜けて、あったと思います。
ただ、店の人たちが、売り込むっていうのは少し足りなかった。
でもマネジメントレベルが高かったので、
指示を出したら、すぐぱっと動きましたからね。
成果が上がったので、
どんどんどんどんそれをやるようになった。
非常に潜在的な能力は高い会社だったわけですね。
それと、私は、ディスカウントがあまり好きではなかったので、
商品のよさをアピールして売り込むという、
今までの経験が生かせたのかなと思います。
結城
非常にマッチした感じですね。
社長に就任されて、幸せな日々ですね。
大久保社長
物凄い楽しいですね(笑)。
だからね、こんなに楽しい仕事はないなと思いながらやっているんです。
★日本の食文化を代表する成城石井へ
結城
成城石井が80周年を超えて、100周年に向かう。
大久保社長
これだけ今、調子が良いので、
もっともっと飛躍的に発展させたいと思っています。
やっぱり日本の中で、
日本のお客様に本当に喜んでいただけるお店を
作りたいなと思っているわけです。
それは価格ではないと。
日本で今、売上げも大きくて利益も上がっている業態は、
コンビニエンスストアですよね。
売上げの上位10社の中で4社も入る。
こんな国はどこにもない。
コンビニエンスストアが安いのかというと安くはない。
やっぱり便利だし、店内はきれいだし、
新商品もどんどん入って楽しいから、
支持されているということだと思います。
食品スーパーマーケットに対するお客様のニーズは、
ディスカウントだけかというと、そうじゃないと思うんですよね。
美味しさ、こだわり、安心安全といったようなニーズがある。
これから高齢化になってくると、
「おいしいものをちょっとだけ食べたい」。
あるいは若い人でも、
食にこだわりたいという人が増えていると思います。
ですから、とにかくおいしい、安心安全、こだわった商品を、
成城石井ではより多くのお客様に買って食べていただく。
そんな日本を代表するスーパーマーケットになりたいと、
社員にはよく言っています。
もちろん、代表するっていうのは、
「規模が大きいっていうことじゃないよ」、
「日本文化だよ」と。
日本はこだわるっていう文化があるんです。
そのこだわる文化を、
一番表している小売業は成城石井だねといわれたい。
こだわっていけば、その結果として成長できるはずだと思っています。
だからますます商品開発力を強化し、
それを売り込む力をさらに強化し、
成長させていきたいと思っています。
そのため、今一番力を入れているのは人材教育です。
ものすごく力を入れています。
こんなに人材教育に力入れている会社ないんじゃないかなって
驚かれるぐらいやろうと思って、今、やっています。
<中略>
やっぱり、私は会社の成長は人が成長するしかないと。
人の成長で初めて会社は成長する、
店を作って成長するんじゃないと思っていますので、
本気になって人を育成しています。
今は、景気悪いですけれど、うちは調子がいいので、
むしろ差をつけるチャンスかなと思っています。
ですから、今は足元、基盤づくりだと思います。
調子がいいから店舗を出すんじゃなくて、
先ず人を育成する。
そして人が成長する。
それによって、会社を成長させていきたいと思っています。
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