第4弾 サトーカメラ 佐藤勝人の巻[第5回/商圏を絞る]
結城:
佐藤さんの仕事の向き合い方、情熱っていうのはよく分かりましたけど、
話を聞いていて、ドラッガーという先生が、
ゼネラルエレクトリックのジャックウェルチに言った言葉を思い出しました。
ジャックウェルチという人が、GEの社長になったときに
二つのことをやりたいと言ったそうです。
一つは国際戦略を徹底的にやりたい。
もう一つはドラッガー先生に会いたい。
この二つの思いがあって、両方とも実現させたんですが、
初めてドラッガー先生をお呼びして、話を聞いた時に、
ドラッガーはこう言ったそうです。
「ウェルチさん、あなたはドキドキ・ワクワクする仕事をしていますか?
それ以外は他の人に任せなさい。
もしドキドキしない仕事をいくつか抱えているとしたら、それは止めなさい。
自分がドキドキ・ワクワクする仕事だけしなさい。
他のことは他の人に任せなさい」
これが有名なジャックウェルチの「選択と集中」という考え方の大元なんですね。
佐藤さんを見ていると、さっきの栃木に絞った。
そして、自分の生まれ育ったところで、仕事ってこんなに面白いんだってことに
気づくわけですよね。
そこが素晴らしいと思うんですね。
そして栃木でいろんなことをされてるいる。
佐藤氏:
そうですね。
だから絞って見えたことっていっぱいあって、
それまでは栃木で商売してて、地元が大っ嫌いだったんですよ。
早くここから出て行きたかったんです。
お客さんから、あーじゃない、こーじゃないってクレームはくるし、
安くしろだの怒られるわけだし。
もうこんな土地なんかいたくないって思いました。
早く出ていくことを考えたんです。
それで店舗展開も考えたんです。
一つの経営論として
「成功したければ住む場所も変えろ」というのがあるんですが、
そういう意味でも、地元だけで仕事をするのは嫌だったんです。
でも、運が良かったって今、思うのは、
経営コンサルタントという仕事を10年くらい前からし始めて、
本を出したお陰で他業界の人たちを指導したり、全国を回るようになっった。
そうしている間に、気づいてみたら、カメラ屋さんっていいなと。
自分の商売の良さが分かってきて、栃木の良さが分かってきた。
よそに行くことによって。
そうしたことが背景にあっったから、絞り込んだのかもしれないですね。
人に教えておきながら、自分が気がついてみたら拡大志向になっていた。
でも、それは、ちょっと違うかもしれない・・・。
そういう葛藤があって、自分なりに気づいた。
それで、いざエリアを絞って、いろんなことを考えて、
「思い出を一生キレイに残すために」を掲げた。
佐藤:
みんなにも言っているんです。
マーケットだけを見たら、
例えばデジタル一眼レフというものは、
栃木県内で年間でせいぜい2~3万台しか売れない。
そのマーケットを競合店と取り合って、うちは一番だっていっても、
たかだか2万台なんですよ。
栃木の人口は200万人いる。60万世帯ある。
200万人のうちの2万人にしか売ってない。
60万世帯で2万台なんです。市場の100%を売ってもね。
そう考えた時に、われわれは商品を絞り込んで、エリアを絞り込んだわけだから、
2万人だけではなく、エリアにいる人に全員に来店してもらおうよ、と。
カメラなんて興味なくたって来てもらおうと。
そのためにはどうすればいいかって発想なんです。
一つの商品決めたら、ここに住んでる住民全員に買ってもらおう、楽しんでもらおう。
写真を通して、カメラを通して、ワクワクしてもらおう。
考え始めた時に、ただ「カメラはいいよ、写真はいいよ」って言っても、
興味がないんだから誰も寄ってこないわけですね。
興味ある人しか。
だったら興味のない58万世帯を、どうやってこっちに振り向かすかと。
そうすると音楽に興味がある人とか、本に興味がある人、
遠足とか旅行に行った人とか、いろんな人たちがいるわけですよ。
そうだよなカメラというものは、写真というものは、
写真が目的じゃない、カメラが目的じゃなくて、
皆さんは自分の趣味を撮っておきたい、
旅行に行った証を撮っておきたい、
付き合ってる彼女の証を撮っておきたいとか、
何かいろいろあるわけですよね。
思い出を残しておきたいっていうものが。
その時に写真、カメラを使ってもらえばじゃないですか。
だから目的を、「カメラ買えカメラ買え」「写真を残せ」から、
お客様の「どこへ行きたい、何を楽しみたい」という
本来の目的に視点をおいて、施策を打ち出してみたら、
新しいマーケットが広がってきた。
佐藤氏:
たとえば、栃木県内の若い子たち集めて、
ミュージシャンの育成とかもやってるんですね。
「何でサトカメがそんなことやるんですか?」ってみんな言います。
「思い出を一生キレイに残す」って考えたときに、
やっぱり映像・写真だけじゃダメだ。
実際の音楽も入って、一つの思い出として完成されるって思ったんです。
でも、音楽を使おうとしたら、
著作権がどうのこうので、高くて使わせてもらえない。
使える曲となると、運動会でかかってるような曲とかしかない。
それじゃちょっとダメじゃないかと。何かないかなって思った時に、地元のミュージシャンたちに、
「お前たち、思い出を一生キレイに残すために、それに合う曲を作れ」
って言ったんです。
そしたら皆喜んで作るんですよ。
これが聞いたらいいんです。
彼らで十分、作れるんじゃないかって。
そこで、彼らに「一緒になってやらないか?」って言った。
彼らは彼らで個人商店みたいなものだから、
喜んでミュージシャン同士でくっつき始めた。
だったらサトーカメラがバックになって、キチッとやってあげましょう、
そうして、スタートしたんです。
そうすると彼らのファンもサトカメにやってくる。
今までカメラなんて全然興味がなかったファンが、
サトカメさんで可愛がってもらってるんだから、カメラ買おうよって皆、来るわけです。
写真も面白いねって始まるんです。
ターゲットにしていなかったエリアに住んでる人間たちが、
いろんなとこから来るわけですよ。
サッカーチームを応援すれば、サッカーファンが来てくれる。
バスケットチームを応援すれば、バスケットチームのファンが来てくれる。
そうやっていろんな人が写真を撮ってくれれば、
「思い出を一生キレイに残す」というサトカメのミッションが達成できるわけです。
エリアを絞ったおかげで、より楽しくなってきた。
買ったことが無い人、使ったことが無い人に買ってもらうほど、楽しいことはない。
その時にその人たちが言うんですよ。
「ありがとう」って。
君たちに出会って、すごく楽しくなったよ、
カメラを使うことを覚えたよ、こんなに簡単だったんだね、
面白いねって言ってくれるんです。
彼らミュージシャンを通して来てくれたわけですよね。
やっぱりやり方っていろいろあるなって思います。
それが文化創造、市場創造ってなるわけです。
エリアを絞ることはできる。
大手企業の場合は、これを有名なサッカー選手を使ったり、
世界で、日本で有名なミュージシャンを使ったりするわけですよ。
それは、日本中に広めようとするからですね。
だから何億円とかかるわけです。
自分ができる範囲で考えて、栃木の中でメジャーな人を使えばいいとかね。
そうなってくれば、ある程度われわれでもできるんですよね。
結城:
結局、チェーンストア理論といって、
これは渥美俊一先生がいっている理論ですけども、
商圏は限定して、小商圏にして、客層を広げる。
まさしくそれは、根こそぎですよね。
だから佐藤さんは、こういう言い方は変だけど、
チェーンストア理論を実に忠実にやってると僕は思いますね。
佐藤:
そうですか。
自分の勉強方法って面白いんですけど、
他の会社を指導してるわけですよ。全国回ってね。
そこで教えながら勉強してる。
誰がそういうことを教えてくれたのか分からないし、
自分のやり方も誰に教わっていいのかも分からない。
だから自分で学んだんですね。
教えながら自分で勉強して、それで学んで帰ってくる。
そういう手法を覚えちゃったんですね。
結城:
正しく勉強する人は、人に教えつつ、人に教わりながら学ぶことですからね。
部下との関係もそうだし、自分の息子と娘との関係もそうですよね。
むしろ学ばせてもらうことの方が多いなってね。
<事務局からのお詫びとお知らせ>
第4回から第5回にかけて、半年ほど時間が過ぎてしまいました。
佐藤勝人様ならびに楽しみにご購読いただいていた読者の皆様にお詫びいたします。
これから毎日連続で、最終回まで一挙に掲載いたします。