vol. 08-3 大量の貨物を長距離運ぶ鉄道輸送業界
★鉄道輸送の多くを占めるのはJR貨物
各輸送機関にはそれぞれ特徴があり、その特徴に応じた役割を果たしている。
同じ陸運でも、自動車と鉄道では次のような特徴の違いがある。
自動車輸送は、そこに道路がある限りドア・ツー・ドアで、
積替えなしに素早く運ぶことができる。
そのため、積荷に間違いが生じにくく、荷傷みが少ないこと、
そして、発着時間を指定する自由度が高いなどが利点。
ただし、運べる重量が1台で15トン程度と限られており、
比較的少量の貨物を近距離運ぶのに利用される。
また、道路の混雑具合によって輸送時間に差が出ること、
CO2(二炭化酸素)の排出量が多く、振動や交通渋滞の原因になるなど、
環境への負荷が大きいという欠点もある。
一方、鉄道による貨物輸送は、主流のコンテナ輸送の場合、
貨物列車一編成で大型トラックの50~65台分がカバーできるなど、
大量の貨物を一度に長距離運ぶことが可能だ。
また、道路のような渋滞はないため、輸送時間が正確に予測でき、
CO2排出量も少なく環境に優しい輸送機関だといえる。
反面で、発着地でトラックとの積替えが必要なことや、
専用線が少なく旅客線を借用するため、運行本数が少ないなどの問題がある。
鉄道輸送は、第二次大戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、
わが国の国内貨物輸送の主役の座を占めていた。
だが、1970年前後をピークに輸送量を減少させるとともに、
輸送機関ごとの分担率もどんどん下げてきた。
2007年度では、5085万トン、233億3400万トンキロを運ぶが、
国内貨物輸送量のそれぞれ0.9%と4.0%の分担率になっている。
ただし、環境負荷の少ない輸送機関を使おうという
「モーダルシフト」の動きが追い風になって、復権の兆しが指摘されている。
鉄道輸送の形態には、
「コンテナ扱い」と「車扱い(しゃあつかい)」の2種類がある。
「車扱い」とは、通常の貨車や石油などを運ぶタンク車などを
1車単位で貸し切って輸送する形態。
「コンテナ扱い」は、貨物をコンテナという容器に混載して、
容器ごと貨車に載せて輸送する形態のこと。
以前は車扱いが鉄道輸送の主力として、
「4セ」と呼ばれる石油、セメント、石灰石、石炭を中心に
素材型の貨物を大量に運んでいた。
ところが、産業構造が変化して素材型の産業が海外へ移転し、
対象となる貨物量が激減してしまったうえに、
残った分も自動車輸送に取って代わられた面がある。
それに対して1959年から始まったコンテナ扱いは、
貨物の小ロット化に対応できることと、
自動車と共同して発荷主と着荷主の間を一貫輸送することが可能で、
自動車輸送と共存しながらその地歩を築いてきた。
その結果、定時制が重視される各種工業品の調達や出荷、
比較的大ロットの貨物輸送、宅配便貨物の幹線・長距離輸送、
農産品や引越し荷物などに多用されるようになった。
コンテナ自体も大型化される一方で、換気のできるもの、
低温輸送のできるもの、あるいは液体用、粉粒体用のコンテナなど、
さまざまな用途に応じられるように多様化している。
その鉄道輸送を支えるのが、
1987年の分割民営化によって旧国鉄の貨物輸送部門を引き継ぎ、
営業路線の大半をJR旅客会社各社から借り受けて全国展開する
日本貨物鉄道(JR貨物)である。
同社は鉄道輸送全体の輸送量のうちの71%
(トンキロでは同社の平均輸送距離が長いために99%)を占める。
JR貨物以外の事業者には、
同社の関連会社である臨海鉄道会社が10社と、
民間の鉄道会社(貨物専門、旅客事業との兼営の双方がある)が加わる。
ただし、いずれも地方での短距離運行のため、
業界全体の営業収入である1345億円のうち94%、1270億円は、
唯一全国展開しているJR貨物による(2006年3月期)。
(続きます)
〈by 二宮 護〉