RMLC2009年6月度報告#1 流通仙人の報告
6月18日に開催されたRMLCでは、
久々に杉山昭次郎先生が、飯能の山から下って参加された。
杉山先生は商業問題研究会の前身「杉山ゼミ」の主宰者。
現在は飯能で隠遁生活を送りつつ、
商人舎サイトの「杉山昭次郎のときどきエッセイ」で、
スーパーマーケットの競争力について、健筆をふるっている。
その中から、企業文化について語っていただいた。
「競争力視点からみた企業文化」 杉山昭次郎氏
“流通仙人”として、実務から離れて11年になった。
10年ひと昔と言うが、5年で一変する業界の動きの速さに驚きつつも、
10年一日、昔も今も変わらないこと、できないこと、看過されたことも多く目につく。
実務から離れた10年間、“魚釣りをしながら”考えたことである。
今どきの情報の氾濫ぶりの中で、
かえってすっきりと考えられるようになったこともあり、
それだけに確信をもって言える。
もともと、この商業問題研究会の前身「杉山ゼミ」のテーマは、
小売業、特にスーパーマーケットに限定し、
かつ「競争力」に視点を当てたものであった。
少しでも実務の世界に資することを考え、まとめも試みた。
(私にとっては頓挫したといえるが)
とはいえ、企業経営全般を見るには役立つ視点には違いない。
ここでいう「競争力」とは何か。
競争相手を打ちのめす(または打ちのめされない)力であり、
生き延びる、存続発展する力
といっていい。
私が、各社の顧問を手がけていた頃、多くが小さい企業であったが、
幹部の関心が「利益確保」(=どうしたら儲かるか)にあまりにも偏っていた。
(利益の確保自体は難しいことであるが)。
つまり、最優先の関心事でもあった。
そして、その会社の多くは現在、残っていない。
また一定の利益は残していても、長続きしていない。
なぜか。
企業の目的は、やはり、世の中に役立つことに置かれねばならない。
そして、スーパーマーケットの場合、国民の食生活の向上に資すること。
このことに徹すれば、利益は出るはずである。
何よりも経営である以上、必要利益なくして、生き延びることはないし、
食生活の向上に資するという使命も果たせない。
ただし、利益を軽んじるわけではなく、利益=食べ物のようなもので、
必要な栄養なくして存続できないことも事実。
逆に3期連続で利益が出ない会社があるとしたら、存続の価値を問い直すべき。
私が、この業界で尊敬してきた人は数多いが、
その中に、西友の上野光平氏がいる。
彼は、利益に対して健啖としていたし、企業を大きくすることを考えていた。
また、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊さん、
ジャスコの岡田卓也さんは生粋の商人なのか、
利益に対してストイックであった。
彼らは、店の改装の要望が上がったとき、
「改装して儲けるのではなく、儲けてから、改装せよ」と一蹴したという。
私は、利益の増大や蓄積とともに、組織や個人も成長するし、
より高次、効率的な仕事をしていくと考えている(=能力開発と組織開発)。
ソシオテクニカルシステム
経営という仕事は、人間という社会とテクニカルなものの組み合わせでもある。
私は、大学を出て最初に勤めた会社のとき、出社が嫌で仕方なかった。
理由を考えると人間関係が嫌だった。
仕事が楽しくもなかったし、張り合いも持てなかったので、
6年で辞めてしまった思い出がある。
ただし、今の時代、組織で働くことは避けられない。
私のような人間は例外と思ってほしい。
そもそも私のような人間をつくらない組織、
そういう会社に変えていく時代であるし、
特にスーパーマーケットにこの考えは必要だ。
どうすれば働く人が張り合いを持てるか。
競争力の大事な視点である。
スーパーマーケットチェーンでは、
業務システムなどの技術面、マーチャンダイジング面で
前進し続けることは必要であり、
イノベーティブな仕事をしないと強くなれない。
イノベーションを起こすには、張り合いも感じなくてはならない。
こうした社員が増えると組織の改善、改革はしやすい。
実は「イノベーションが必要だ」と社長がいうほど、会社はしらける。
社員から進んで口にするようでなくてはいけない。
つまりこうした企業文化、組織文化を作らないと
競争力は育たないと思うようになった。
ワンマン経営者が引っ張る企業は、小さいうちは影響力発揮していけるが、
年商1000億円にもなると難しい。
企業理念、目的を幹部・従業員とともに、共有し、
実現する技術を身につけることが必要になる。
企業文化
このことを意識し、エネルギーを投入しながら経営をした会社は少ない。
企業文化は創ろうと思ってもできない。
醸し出されるものである。
そして、いったん、醸成されるとトップですら、それに逆らえなくなる。
企業文化をつくる要素、きっかけを調べてみると、
創業者、改革の祖など、会社の転機に貢献した人の影響が大きい。
ただし、それも影響しているだけで、その人だけで作れるわけではない。
気風や企業の発展、向上している最中につくられていくものだと思う。
そういう気風、文化が作られる過程を、私がつぶさに観察した例としてサミットがある。
商社を親会社に持ったスーパーマーケットであるが、
荒井伸也氏を中心に関西スーパーに学び、本腰入れて経営改善に取り組んだ。
こんなエピソードがある。
本部による集中値入れへの切り替えの論議になったとき。
店側からの猛烈な反発があったという。
当時、荒井氏は関西スーパーに追いつけ、追い越せとばかり強引にやったのだが、
事実、その翌月から荒利益が改善。
店別の格差も縮まったという。
そして、このことを機に、
荒井氏の発言力も上がったし、その協力者の発言力も上がったという。
荒井氏に反対する人も少なくなり、以降のさまざまな改革も行いやすくなった。
ここに業務システムが完成していく過程の一端が見られる。
つまり、経営のリーダーシップや協力者の増加(アンチの減少)。
こうなると組織は変容し、前進しやすい。
成功例の積み重ねによって好ましい組織文化もできる。
もう一つのエピソードがある。
こだわり商品についてである。
こだわりとは、「あそこの○○以外、食べられない」
というレベルのもの(私の場合、魚であり、豆腐)を指すが、
食品について、安全・安心がいわれるが、
おいしい、楽しいは追求すべき目標。
もちろん、人によって、選択のしかたは異なるが、
それを食べるために足を運ぶぐらいの商品があると、
お客様の固定化が進む。
こだわりとは、そのくらいの水準だと思う。
昭和40年、私が初めて米国に行ったとき、店長の資格要件は、
お客様の顔と名前を覚える、といわれた。
店長は、時間さえあれば、売場に出て、
お客様とコミュニケーションをとったという。
マス“カスタマゼーション”。
大量販売と固定化という相反する概念を両立させる(取り混ぜるのは駄目)ものだが、
こだわりをどう開発し、組み合わせるか、ここに企業特性が出る。
マスカスタマゼーションに各社が力を入れるが、この開発が難儀でもある。
本来は少数派の取り組みであり、販売点数も上がりにくい。
また一味違う商品であるだけに、売り方も売場も変えなくてはならない。
そういう売場をつくり、維持するだけでも大変であり、
効果も未知数であるが、これを積み重ねることができると戦力になる。
そのための組織体制はどうあるべきか。
これはあるべき論でいっても、組織構成員は聞いてくれないもの。
規範論だけでに効果の見込めない仕事など、人が取り入れないのも当たり前である。
したがって、ちょっとやそっとでできないことは全員の協力が必要になる。
大変なことだが、やりきると企業の競争力にとって大きな力になる。(〆)
『食品商業』編集長 山本恭広