RMLC2009年6月度報告―#2 質疑応答
杉山昭次郎氏の「競争力視点からみた企業文化」報告、その後の質疑応答
杉山昭次郎氏の報告を受けて、
その後、活発な質疑応答がなされました。
<品川昭さん>
ソシオ(人のシステム)とテクニカル(技術的な問題)でいえば、
90年代は、それぞれが日本型経営として噛み合っていたと思う。
90年代後半からバブル崩壊、市場原理主義の中で、
人に関わるシステムが崩壊していった。
トップの関心も市場主義(株価)に陥ったように思う。
今、良いといわれる会社は、人を大事にしている。
成長も持続的である。
われわれがよいスーパーマーケットと考える企業(例えばヤオコー)に、それは出ている。
<杉山仙人>
企業は、つまづくとすぐ前例否定か、考え方を変えてしまう。
しかし、これは多くが失敗する。
企業の長い歴史や文化の中で育った、培われた考えを否定すると、
組織は混乱する。
なかには良いものまでなくす、というやり方もとってしまうが、
これはもっとだめ。
古いもの、新しいもの、良し悪しを見極め、改革の仕方も考えなくてはならない。
経営ジャーナリズムも戒めなくてはならない。
誌上でサクセスストリーを安易につくりすぎる。
<杉田幸夫さん>
競争力の視点は、小売りに限らず、一般企業の競争力の面でもみられると思う。
スーパーマーケットに特定しても、
イノベーティブな仕事の中に張り合いは生まれるというが、
現状のスーパーマーケットの中で、
特に現場で、どこまでイノベーティブな仕事の環境をつくれるか。
アメリカの自動車産業も、そこに遅れをとって衰退してきた。
スーパーマーケットも、成熟産業となった今、
個店レベルでは、店長の張り切りだけでは、難しい。
その中で、今、西友の変貌ぶりには驚く。
米国での研修機会、「KY戦略」の明確化など
ウォルマート流が鮮明になっていることもあるが、
新しいビジネスモデルとしての自信がついたように、西友からは聞く。
OBとしては残念な面もあるが、
企業のイノベーションとモラルを高め、
挑戦し続けられる環境が整えられる、いいタイミングだろう。
しかし、これは西友・ウォルマートという特殊な組み合わせによると思う。
多くの日本スーパーマーケットの利益構造で実現できるのか?
<杉山仙人>
消費のパイが大きかった時代。
食生活も変わった。商売もしやすかった。
現在の環境では本格的な競争。これを続けることが大事。
これができる組織が、イノベーティブといえる。
大きなものでなくても、小さなイノベーティブを積み重ねること。
今までやってきたことを変えていく。
しかも、いわれるのではなく、自分から取り組む姿勢、そして環境が大事。
<井口征昭さん>
こだわり、とあるが、独自の企業文化のような側面だけでなく、
価格、簡便性といった生活の多様化に対応し続けることも
“こだわり”の対象になるのではないか。
価格訴求する場合、自社内での企業文化づくりにこだわらず、
アウトソーシングすることで、価格を実現しようとこだわる経営者もいるだろう。
これも一つの生き方。
また都市部の企業の中には、簡便性を打ち出す例もある。
こういった多様性もある。
杉山先生の考える“こだわり”だけでなく、
さまざまな経営者がいて、それぞれの考えに賛同した従業員が
イノベーティブの中心になっていくと思う。
<杉山仙人>
競争力の点では、価格が一番競争力を際立たせやすい。
安さは常に消費者からは支持される。
しかし、原価がある以上、限界もある。
だから、価格による競争力を主力にすると行き詰まる。
<井口さん>
総合スーパーでも売り切れないグレードの商品を、
売りこなすスーパーマーケットが見られる(あおきの例)。
売ろうとする経営者の生き様が見られる。
<杉田さん>
非上場の企業は、自分たちが食える分があればいい。
上場企業は投資家、アナリストはじめ
さまざまな目にさらされ、比較される。
本当に作りたい店、売りたい商品を扱う、
納得した商売をしたいのであれば、非上場しかないのでは。
<村上篤三郎さん>
その意味では継続性、その結果の面で、
ヨークベニマル、ヤオコーがそれに近い経営といえる。
オーナー経営でも利益が出なければ難しい。
投資も利益のあってこそ行われる。
ハローデイはその改革の過程にある。
自社(たいらや)でもそうだが、まず利益を残すことが前提。
利益を出しながら、成功事例を積み重ねていく。
しかも全員参加型でしかできない。
商品のレベルを、我慢しながら維持し続けてきた。
新店もこの3年間でやっとつくることができてきた。
というのも、自分がやとわれ社長で
利益に対してストイックにやってきたからこそだ。
<結城座長>
小売業にこそイノベーションの芽がある。
例えば、ハローデイの加治社長は「寝てもさめても新しい試み」を考えているという。
そして、その場と答えは、店頭(現場)に無数にある。
新しい試みが成功すると、よい企業風土の形成につながる。
ヤオコーが20期、ハローデイが17期連続で増収増益となっている要因も店頭に出ているはず。
あおきの場合、会長自身が食べることに対しての貪欲さがあり、
それが企業風土につながっている。
P.F.ドラッカーが1000のイノベーションの事例を集めて、
その要因を整理したところ、「予期せぬこと」が筆頭。
「発明・発見」は一番少ない。
「予期せぬこと」は店頭に無数にある。
<杉田さん>
企業規模によって、イノベーションの質も違う。
100~200億円が1000億円を目指すとなるとイノベーションが必要。
しかし、大手は別の課題を持っている。
成長のためのイノベーション。
営業面でのイノベーション。
分けて考える必要がある。
店舗の規模、企業の規模に応じて必要とされるイノベーションの中身は異なる。
以上、さまざまな意見が飛び交いました。
『食品商業』編集長 山本恭広