スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.5
第5回 組織計画は、設計だけでは機能しない
SMの競争力強化には、効率的なプロセスモデルを作成し、各プロセスの処理方法を定め、その担当者を決めること、すなわち、組織計画を設計することが欠かせない。
■組織は常にトラブルを抱えている
とはいえ、組織で仕事をしている人ならだれでも知っている通り、いくら優れた組織計画を作成しても、それだけでは、ほとんど役に立たない。
組織計画書は画餅にすぎない。
生きている組織は、組織計画者の組織の意図とは別の動きを見せるものである。
例をあげればきりがないが、SMチェーンでも、初期には仕入れと販売を分離することにすら抵抗する者がいた。
まして、値入れや品揃えを商品部で行うことに反対する、いわゆる職人気質には、手を焼いた経営者は少なくなかった。
その後も部門間の抗争、非協力、人事をめぐるステータス葛藤、派閥問題等々に起因するトラブルが後を絶たない企業は少なくない。
いや、正確にいえば、完全な人間が実在しないように、万全な組織など、この世にはないのである。組織は、常に何らかのトラブルを抱えている。
■■組織の凝集力を測る3つの指標
一般に、組織の「凝集力の精度」を測る場合、次の3つの指標が用いられる。
①意思統一の度合い
②目標達成の意欲
③協業度
能力が高い組織とは、これらの指標の程度が高く、さらに高まる傾向にある組織である。
その逆も真である。
では、どうすれば、指標の程度を高められるか。
これは医術に万能薬がないように、絶対的な技法はない。
万能薬はないが、組織力強化に役立つ研究は、数多く進められている。
SM企業は、マーチャンダイジング、マーケティングの研究とともに組織力強化の調査、導入に、責任者を置いて、力を入れるべきであろう。
あるべき論はさておき、初歩的シナリオを紹介してみる。
シナリオ紹介に先立ち、意識改革について私見を述べさせていただく。
組織力強化は、結果的に、個々人の意識改革が必要だからである。
■■■意識改革の必要性をだれもが感じているが
私が、企業のお手伝いをしていた頃、夕食を共にしていたときなどの雑談の中で、たびたび、「意識改革の必要性」が話題になった。
トップはもとより、店長、バイヤー、チーフ、入社後2~3年の社員まで、異口同音に意識改革の必要性を唱えた。
始めのころは、これほど意識改革の必要性を感じている人が揃っているのだから、改革はすぐにも進むと錯覚した。
こうした人たちと、業務改革を進めていて気がついたのだが、彼らは、すべて、上司、同僚、部下など、他人の意識改革を求めていたのである。つまり、自分と意を異にする他人に、自分の意見に従うようになって欲しいということであった。
議論しても、分かってもらえない。だから意識を変えて、自分の意見を分かるようになってもらいたいというわけだった。
■■■■自分は正しいと信じている
ここで大事なことは、「議論をしても、分かってもらえない」というくだりである。
ここでいう意識とは、心理学でいう態度、つまり、情報を受け取る姿勢のことである。
人間の態度は、その人の、その時期までの人生経験の中で形成される。
そして人は一度、形成された自身の態度を、他人(親や上司も含む)の説教や理論的説明で変えることは、きわめて稀である。
よく勉強しない人、真面目に働いていない人などは、自らの態度を変えようとしない。
平たく言えば、自分は正しいと信じているからである。
先に職人気質に云々…と述べたが、彼らは自分が正しいと信じていたからこそ、頑固に拒絶したのである。
企業のお手伝いを始めて両3年のうちに、私は、以上のようなことに気づいた。そして、私自身は、と振り返ってみた。自分自身は柔軟であろうと心掛けてきたつもりであったが、他人に説得されて意識を変えたことは、ほとんどなかった。
親しい人たちが、私はよく、「ふらふらしているのに強情な奴」とあきれていたことが、思い当った。
■■■■■意識改革は組織体質の変容と相互作用で進む
他人の意識をコントロールすることは、難しい。不可能に近いともいえよう。しかし、人間の意識は変わらないといっているのではない。
意識は変わるのである。
そして、経営の目標に対し、貢献するように意識を変えるような刺激を与えることはできる。
このような意識改革は、組織体質の変容と、相互作用の関係の中で進むのである。
組織力強化のシナリオとは、個人の意識改革と組織体質の変容の相互作用の関係を土台に、描き出されたものである。
次回は、このシナリオを紹介する予定である。