スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.10
第10回 企業文化―効率的な試行錯誤システム
■迷信的タブーと未知なる課題
わが国で、SMが業態を確立したと宣言し、成長期を迎えた昭和40年代に、業界には迷信タブーが数多くあった。SMは惣菜を扱うべきでない。現在では、ソリューション・アイテムとして、競争面で欠かせない差別化のための花形部門となっている。
また、タイやヒラメのような高級魚を扱うべきでない。イワシ、サンマ、アジ、サバなどの大衆魚、それも冷凍魚でよい、という考え方が、業界の主流の考え方であった。現在では、高級魚と大衆魚の区別もあいまいになり、迷信的タブーに悩まされている間に、デパ地下の食品売場に地歩を奪われた。
振り返ってみると、SMも確信を遂げたしものである。
しかし、リスクを覚悟で自ら、積極的に確信を進めた企業は少なく、後追いでしぶしぶ、しかし苦労して改革を行ってきた企業が、今、劣位にある。
劣位企業は、これからの競争に勝ち残るためには、後追い主義から脱して、未知なる課題に取り組まねばならない。
例えば、大根の品揃えは、青首のほかに、何なにを加えれば、客数は増えるのか。大根全体の売り上げ増につながるのか。その場合、青首の売上数量に影響はあるのか、ないのか。
販促面でも、カテゴリー内で、1アイテムだけお勧め品を打ち出すのと、複数のアイテムを同時に打ち出すのでは、どんな違いがあるのか。エブリデー・ロープライスとチラシ特売の違いは、チラシ特売の値引き率はどのくらいか、売り上げ面で最大効果をあげるのか。これらの試みを、日配品と干物で比較すると効果の違いがあるのか、ないのか。このように、営業各分野において未知の課題は山のようにある。
■■試行錯誤的アプローチ
現在の品揃え、販促、サービス、その他のコンセプトに基づき、未知の課題を次々と実施(実験)し、その成果のフィードバックを繰り返すこと自体、売り上げの向上に貢献するが、フィードバックはデータの蓄積の中から、新たな営業ノウハウを開発することになり、営業の各コンセプトを発展的に修正することにつながる。
新たなノウハウの開発と、コンセプトの発展的修正こそが、SM競争力強化の中核的課題といえよう。
結果の予測が難しい(まだわかっていない)問題を、いろいろ試しながら確かめていく方法を、「試行錯誤(トライアンドエラー)的アプローチ」という。
自然科学の分野では、試行錯誤は専任者が実験室で行う。
しかし、小売業には実験室はない。また、特定の施設で行ったのでは実験にならない。
現実にある店舗で、現実の顧客の反応を確かめるためのトライアルでなければならないからだ。
現実の店舗では、日常の業務を行っているので、実験をしている暇などない。
試行錯誤的課題(しばしば、単なる思いつきと軽視されがちである)は、日常業務の中でこなさなければならない。現に、今までも、こなしてきたのである。
これらの課題の大多数は、本部の商品部、販促部、店舗運営部などで計画され、日常の営業会議で、品揃え計画、販促計画などにおりこまれ、各店舗に伝達される。
店舗でも、定番商品、販促商品別にルーティンな処理基準にしたがって、処理される。
一連の処理システムの流れの中で、特に大きなことは、
①当該課題の目的と処理方法が、計画者から店舗側に十分に説明されること。
②店舗では、計画的に処理されること。
③当該計画の商品以外の商品の“売場づくり”も平常通り安定させておくこと。
④当該計画の成果データを(必要ならば時間帯別に)正確に記録すること。
⑤店舗からは、顧客の反応行動を、可能な限り多く報告書にまとめること。
⑥店舗側の意見を報告すること。
⑦計画者は必ず、実施の結果を総括して、そのまま継続、修正して再チャレンジ、あるいは廃止の意見をつけて、報告書をまとめること。
これらの7つのステップを、それぞれの役割を担う全員が遵守すれば、営業ノウハウが改革される。
また、次々に店舗で現れる新しい企画に、顧客は店舗(企業)イメージを変えるであろう。つまり、客数が増えるであろう。
しかし、これらのステップを全員が、すぐ遵守するであろうか?
企業文化が、イノベーティブで、改革に協力するのは当然だ、自らが参画したがる組織であれば、比較的容易に受け入れられよう。
しかし逆に、既存のノウハウをフルに使って予算達成することが最高、というような気風の組織では、一笑に付されてしまうような構想にすぎない。
後者のような企業でも、これからの競争では、新しいノウハウ開発は必要になる。
■■■イノベーティブな企業文化
以上、少し長すぎるほど経緯を述べてきたが、要約すれば、これからの競争では、試行錯誤的にマーチャンダイジング、販促、サービス等に、新しいノウハウ開発が必要になる。
そして、試行錯誤を効率的に行うためには、イノベーティブな企業文化が前提となる。
企業文化は変容する。
これは、操作することはできるが、コントロールすることはできない。
したがって、クリエーティブな組織文化づくりに挑戦することが、試行錯誤を必要とする、最優先すべき最重要課題といえることになる。
そして、挑戦を続けていくと、レイバースケジューリングなどの店内業務システム、データシステム、各種の手続きシステム、役割システム、人事の業務評価システム、教育システム等の改変に影響する大プロジェクトに発展する可能性が大きい。
それだけに、つまずくと、企業内に大混乱を起こしかねないリスクを背負っている。
最終的にまとめの一言。
SM企業も、企業文化について、もっと目を向ける必要がある。