スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.11
第11回 マーケティング―鳥の目、虫の目
競争が激化するに伴い、試行錯誤による実験でしか、その効果を確かめられない品揃え、販促などの新しい課題がふえてくる。
各企業は、これらの課題をスピーディにこなせる業務システムを整えるとともに、多忙なルーティン業務の中でも、新課題における自分の役割を楽しむような企業文化を育てなければならなくなっている。
■黒田節子氏のマーケティング定義
さて、このようなイノベーティブな企業文化の目は、どこに向けられるべきであるか。
いうまでもなく、お客様である。
黒田節子さんは、数冊の著書の中で、「SMのマーケティングとは、改革を、お客の食生活にマッチさせること」と定義し、食生活を買物行動、調理行動、食べ方の3つの領域に分類し、ミスマッチの事例、およびマッチングの仕方を解説している。
これらの著書が出版された当時と現在では、食生活も、SMの経営化のあり方も、また変化している。食生活とSM経営活動は相互作用の関係にあり、ともに変化し続けるので、SMの政策が、食生活と完全にマッチする瞬間はあり得ない。
EUに根拠をおくカルフールは、アジアにも進出し、日本にも上陸した。結局、日本人の食生活とのマッチングには失敗し、撤退したが、その置き土産には、興味深いものがある。
カルフールのあった店まで、車で20~30分のところに住んでいる友人の話であるが、その後、日本企業の経営に変わった店では、ワインの品揃えが良く、買物もしやすいので、たびたび行くようになった。
また、ワインに適した食材も、他のSMとは少し違って、気の利いた商品が揃っていて(例えばチーズ)、よく利用する、という。
カルフールのスタッフが聞けば、なんと思うであろうか。
■■食生活を見つめる2つの目
企業文化の目は、食生活に向けるべきと述べたが、まさに、その目は、ここで述べた友人のようなお客の食生活も捉えるべきなのだ。
食生活は、中長期的にみれば、確かにトレンドを示している。
モータリゼーションによるショッピング行動、西欧化に始まりグローバル化の真っただ中にある調理法、食材の調達システム、健康志向を中核とする安心安全の傾向、主婦の有職化に伴う買い方、調理法、ならびに外食を含む食べ方の変化、等等は、一定のトレンドを示しながら、変化を続けている。
しかし、反面では、上述の友人のように、気まぐれとしか捉えられない変化もある。気まぐれ的変化も見過ごしてはならない。
トレンドが明確化しだすと、あたかも川の流れのように、澱みの部分が発生し、そこには渦巻きや反流が生じるような現象が現れる。
例えば、モータリゼーションの反応として、住宅密集地区における、惣菜部門主体のスーパーレット、コンビニストアの利用、グローバリゼーションの反流として、地元物産の見直し、おふくろの味などが挙げられよう。
トレンドをじっと見据えるためには、鳥のように高いところから全体を見渡す目が必要である。気まぐれ的変化は、同じ目線に立って、細かなところまで見逃すことのないような、いわば虫の目でなければならない。
反流、渦巻きの現象を見る目は、上記2つをあわせもつ機能が求められる。
■■■小売業者が得意な目、不得手な目
鳥の目は、政治、経済に携わるものすべてがもっている目で、学者、研究者が特に優れ、理論化も進められてきた。
流通業者、特に小売業者は、この点で少し遅れていた。これからは巻き返しが求められている。
虫の目は、流通業者、特に小売業者が得意とする分野で、他者にはこの目で、この目で現象を見る機会が与えられない。
ただし、小売業者たちは一般化、理論化はしてこなかった。この点が、たびたび触れてきた「効率的な試行錯誤システム」の開発を遅れさせてきた主要な原因となっている。
両社をあわせもつ目のつけどころは、再び川を例えにとれば、魚類が集まりやすく、市場機会に恵まれた分野である。
続きます