スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.17
第17回 マス・カスタマイゼーション―対立概念の両立
■マス・カスタマイゼーションとグローバリゼーション
スーパーマーケット(SM)の競争力の視点から、2つの戦略コンセプトを取り上げてみたい。
その1つは「マス・カスタマイゼーション」であり、第2は「グローバリゼーション」である。
以上の2つ以外にも、競争力強化という点では、より効果の大きい、また、時間的に優先させるべきコンセプトはいくつもあろう。
それにもかかわらず、この2つを取り上げるのは、ともに、SMチェーンの現代化に深い関係があるからである。
■「ハイ・マス・コンサンプション」近代の終焉
まず、マス・カスタマイゼーションから。
マスとは、マス・プロダクション、マスセールスのマスで、不特定多数の顧客を対象とした概念である。
イギリスの産業革命を皮切りに、ヨーロッパでは、工業化の進展に伴い、近代的産業システムが形成され、アメリカにも渡った。
フォードのベルトコンベアーシステムの開発により、マス・プロダクションのコンセプトは、一般的にも浸透した。
マスは、近代産業の立役者であった。
工業化が進展したため、一般大衆の所得が増大し、欧米においては、ハイ・マス・コンサンプション(consumption)、(高度、大量消費)が行われるようになり、生産と消費を結ぶ機能としてマス・セールが行われるようになった。
チェーンストアはマス・セールの花形である。
ハイ・マス・コンサンプションを続けた消費者は、安さだけの日用品、実用品だけでは、満足できなくなった。
特にアメリカでは、第二次世界大戦後、それまでは一世を風靡してきたバラエティストアやディスカウントハウスは、急激に業績を落とした。
生産者側も、消費者のライフスタイルに合わせて、商品を製造するように変わった。
マーケティングでは、セグメンテーションが大流行りとなり、小売業にも及んだ。
セグメンテーションでは、所得別、性別、職業別、年齢別、学歴別、人種別、TPO別等々、さまざまな区分法を使い、産業ごとに多くの試みがなされ、成功を収めたものあり、失敗に終わったものもあった。
ともあれ、近代は、工業化に始まり、マスの追求の時代であった。
とすれば、近代は終焉したのである。
■伝統的な小売業の戦略路線復活
昭和40年ごろ、アメリカでも、SMの店長の役割で、一番重要なものの1つに、「顧客の名前を正確に覚え、時間をつくって、店頭に立ち、『グッドモーニング、ミセス○○』と挨拶すること」と説明するチェーンストアがあった。
人的つながりをつくって、顧客を固定化しようとする試みであったのであろう。
サービス業、小売業では、セグメンテーションに加えて、固定客づくりが
求められている。
わが国では、昔は(私の子供のころの思い出であるが)、酒屋、クリーニング屋などが御用聞きに来た。
お屋敷には、魚屋や肉屋までが御用聞きに来たようであった。固定客で、商売を成立させていたのであろう。
つけ売りなどは、固定客づくりのもっとも有効なサービスであったと思われる。
その頃、固定化されたお客の側は、多少の不満はあっても、いわゆる浮気がいはしないのが常識であった。義理が立たない、というのが、その理由であった。
小売業の上述のような文化は、近代化とともに一時、消滅したかに見えた。業者側はマスを追求し、顧客側も、経済性を最優先するようになったからである。
思い起こせば、昭和30年代の我が国のチェーンストアの創設期、商業指導者が、チェーンストアは商業の工業化であると説いていた。
近代化イコール工業化ということであった。
標準化、コスト削減など、工業で開発された技術も、小売業のマネジメントにも多く導入された。
これまで見てきたように、マスとカスタマイゼーションとは、相互に、相いれない対立した概念であった。
その2つの概念を今後は、両立させようという狙いが、マス・カスタマイゼーションのコンセプトということである。
続きます