スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.19
第19回 マス・カスタマイゼーション―固定客づくりの試み
■“店舗づくり”の特長づくり
業者側が、お客の流出を防ぎ、流入を図り、自店の利用頻度を高めようとすることは、当然の課題となる。
そこで、スタンプを発行したり、ポイントカードを利用することとなった。
お客のストアロイヤリティを獲得するのが狙いである。しかし決定打としては程遠い。
お客はポイントを稼ぐことは楽しむが、ポイントを稼ぐために買い物場所を変える確率は極めて低い。まず、競合相手もポイントカードを導入すれば効果はさらに低くなる。
そこで、差別化のコンセプトが登場する。
荒井伸也氏が著書のなかで述べているように、食事材料の購買客は、何を買うかを決める前に、どの店で買うかを決めるのであるから、お客に選択される頻度の高くなる特長を、より多く“店舗づくり”に盛り込むことが、固定客づくりの着眼点となろう。
この場合“店舗づくり”の特長づくりが差別化ということになる。
マス・カスタマイゼーションの差別化を進めると、必然的に、品揃え、レイアウト、陳熱、販促、人的サービス等々に、新しいサブコンセプトが生まれる。
■コモディティアイテムとノンコモディティアイテム
若干の例を取り上げてみよう。
品揃えは、コモディティアイテムとコモディティアイテムに分け、ノンコモディティアイテムの強化を図る戦略を持っているSMがある。
コモディティアイテムは、昔は売れ筋商品と呼ばれ、ABC分析を行えばAクラスのトップ10に入るような、SMの品揃えには欠くことのできないアイテムである。
マスセールスの中核品グループで、鮮度管理(グロサリーの場合は賞味期限チェック)を行い、きちんと品揃えさえしておけば、よく売れる商品の総称である。
しばしば、特売の大目玉に使われる。
ノンコモディティ商品はライフスタイル商品と総称され、お客のライフスタイルにマッチするように開発されたアイテムである。
調理に手間をかけ過ぎたくないライフスタイルが増えたことに対応する商品は、ソリューションアイテムと呼ばれる。
惣菜部門の商品はすべて、ソリューションアイテムである。
日配商品のカテゴリーの中には、ソリューションアイテムが多い。
また鮮魚部門では刺身、青果部門のサラダ用のカット野菜の詰め合わせ、精肉部門のローストビーフ、生ハム、開ければすぐに食べられるハンバーグなども、ソリューションアイテムの代表例である。
以上は、品ぞろえ強化方針の差別化の例であるが、方針の差別化の結果は、必然的に品ぞろえが差別化され、その中に、他店にはないという意味での差別化商品も多く含まれる。
■広域商圏からの集客力をもつライフスタイルアイテム
その一例。
奥武蔵をドメインとする中堅どころのSM。惣菜を、別会社を設立してまで力を入れている。
このSMでは、「ジャンボチキンカツ」と名付けたアイテムを開発して、98円という大特価で毎週金曜日に販売している。 主原料は岩手産の地養鳥のモモ肉で、味も大変良いとの評判である。食べ盛りの子供を抱えているお母さんたちに、特に人気があるという。
秩父に通ずる国道のバイパス沿いに出店した新店では、この差別化商品の人気も手伝って、秩父市まで他にこれというほどの競争店もないことから、自動車30分以上もかかるような広域から、固定客を集めている。
広域から来店するお客は当然、コモディティアイテムはまとめ買いして、自動車に詰め込んで買える。
以上のように、ライフスタイルアイテムは、広域商圏からの集客力をもち、かつリピートしてもらえる。
これがカスタマイゼーションの役割を果たす。
またライフスタイルアイテムの強化は、ライフスタイルアイテム自体の売上げ、荒利益を増大するとともに、コモディティアイテムの業績向上にも貢献する。
まさに、マス・カスタマイゼーションのモデルプログラムといえよう。
なお、ライフスタイルアイテムのサブコンセプトには、これまた前述の、こだわり商品、安全・安心、故郷の味、等々をあげることができよう。
品揃えの差別化は、このようにして広がりを示すことになる。
■サブコンセプトで企業イメージが決まる
どんなサブコンセプトを選択するかによって、企業イメージ自体が差別化されてくる。
企業の購買客は、企業イメージに合わせて、当日の買い物に行くお店を選択するようになる。
これがマス・カスタマイゼーションの社会的機能である。
自分の好み、当日の都合に合わせて、買い物先、買い物し方の選択幅が広がることが、飽食の時代を迎えて久しい、我が国の食生活をさらに豊かなものに進展させるのである。
マス・カスタマイゼーションは、品揃えの差別化以外の“店舗づくり”の構成要素でも進められるべきである。特に販売促進も差別化して行うべきであろう。
続きます