スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.33
第33回スーパーマーケットのマーケティング…連載再開の前にひとこと
■書き出しに先立ち、お詫びと言い訳。
昨年は「競争力の視点」と題して、商人舎のブログに、雑文を何回か掲載してもらった。
80才を越える老齢をかえりみず、雑文を書いたのは、一見単純そうに思える。しかし、チェーンストアのマネジメントシステムは、各サブシステムが極めて複雑かつ微妙にからみ合い、相互に影響し合って変容する。1つのサブシステムが整合性を失うと、トータルの機能にガタが来る。そのメカニズムを理論的に整理する枠組みを提示したかったのだ。
そのきっかけは、私が10年ほど前、仕事からの引退を決意しかかっていた頃、友人から、「お前は業界に何も残していなかったから、せめて、身につけた知識だけでも、後輩に伝えておけ。そのための勉強会を開くから。」ということで、月一回の勉強会に参加したことであった。
勉強会では参加者が真剣と発言したので、お互いの勉強にはなった。私の狙いは、トータルシステムの変容のダイナミックモデルをまとめることであった。しかし、これは失敗に終わった。とはいえ、一般的規範モデルはまとめられなかったが、実態は規範論通りには進まない記述的モデルを数多く手に入れることができた。
規範モデルづくりが出来なかった理由は、一口にまとめれば、参加者のほとんど全員が実務家で、与えられた問題状況の中での問題解決思考には優れていても、抽象論的な一般化思考には不馴れなため…ということであろう。
数年前に、私は体調を崩したことがあって、勉強会からは離脱したが、多くの議論を交わしたおかげで、なんとなく今なら、前述のダイナミックモデルもまとめられそうな気になっていた。
そんな矢先、商人舎の結城さんから書かせてやるという声がかかったので、執筆を始めた。
チェーンストアシステムの精緻なダイナミックモデルを書き上げるのは、大仕事である。大変なエネルギーと、大量のローデータが必要であり、老化した私一人では手に負えない。
もう少し若ければ、仲間を集めて共作をしたであろうが、今となっては、せめて、大枠だけでも示して、これからの人の参考になればと思い、執筆を始めた。随筆風の文体でよいということであったので、気楽に始めたが、書き出してすぐに当惑したことは、ブログという媒体を知らなかったことである。日頃、携帯電話すら使わない私は、全く情報革命から取り残されていた。ブログの読み方と紙上の活字の読み方に違いのあることは私でも分かる。しかし、ブログの読み方は私にはわからない。それでもかまわないという商人舎側の話で、雑文を綴ったが、読者がどのような評価をしているのか、冬の今でも思い起こすと、冷汗が流れる。
それでも、どうにか前半に書こうとしていた、使命→利益→能力開発の循環目的をモデルとするマネジメントシステムの枠組みのダイナミックモデルは、昨年の秋の始めまでに書き上げた。
後半にはマーケティングの領域を取り上げる予定でいたのだが、机に向かって気がついたことは、私が食生活について、全く無知というか、理論的知識をもっていないことであった。
洋風化が進んだとか、魚離れ、飽食化などの言葉は自分でも使っていたが、内容はよく分からないまま、ごく大ざっぱな傾向を述べたに過ぎなかった。
品揃改革のコンセプトを整理しようとし出して、ハッとした。私には、酒飲みの老人好みの和食メニューしか頭に浮かばないのである。それもそのはず、何10年かに渡って休日、それも月に1~2回以外、夕食を家族と共にすることがほとんどなかったのである。
したがって、子供達がどんな食事をしていたかもよく知らなかった。子供達は私の知らない食事をしながら、今では50才以上に育っていた。
こんな私に、家庭食を論ずる資格はない。
また、私と親しい付き合いをしてくれたチェーンストアの経営者、幹部従業員、そして意欲的に活躍している商品部のバイヤー達も、夕食を自宅で家族と楽しむことは少ないのではないか推察する。少なくとも、ほとんど毎日、定時に仕事を終え、帰宅を待っている家族と食卓を囲む普通の人達と比べると、かなり少ないと思われる。
スーパーマーケットのマーケティングの基本は、後でもう少し詳しく述べるが、普通の家庭の食生活に自社の政策をマッチさせることである。
スーパーマーケットの政策計画者のほぼ全員は、私同様、普通の家族の食生活の詳細はおろか、全体像を理論的に整理して認識するための枠組すらもっていないのではあるまいか。
こんなことを考えだした私の頭はパニックになってしまった。「グローバル化」の中で書こうと思っていた課題の土台が崩れたからである。
時間をかけ、気を取り直し、再びこの問題に向かう気になるためには数ヶ月を要した。
これから書こうとする問題は、あえて題をつければ、「社会科学的な研究がほとんど行われていない中でも、『食生活の向上』に貢献するためのスーパーマーケットの政策」とでもいうことになろう。
年寄りの冷水にならないよう、気をつけて筆を進めるが、不備の多い雑文に終わるであろう。
20~30代のこの業界に関心の深い人達の中から、何らかのヒントをつかんで、スーパーマーケット産業の発展に役立たせてくれる人が出れば、望外の幸せである。
続きます