スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.34
第34回スーパーマーケットのマーケティング-スーパーマーケットのマーケティングの定義①
■マーケティングの定義の難しさ
「マーケティング」という言葉は、我が国では昭和30年頃から一般に使われだしたと思われる。昭和30年代のなかばには、一般消費者も、技術革新、マス媒体による広告の影響を体で感じとれるようになっていた。産業界はマネジメント・ブームに包まれていた。
その頃、経営教育(企業内教育)をする団体に転職した私は、経営に関する理論・技法などについての“にわか勉強”をした。IE、QC(少し後になって、TQCと呼ばれるようになり、日本的経営の特徴の一つのシンボル的概念をつくり上げた)、システムOJT、等々、学生時代には学校で聞いたこともない言葉。その多くは英語、英語の頭文字で表わされていた。
マーケティングもその中の1つであった。
いくつかの論文を読み、いくつかのセミナーにも参加した。しかし、今から思えば当然のことながら、執筆者、講師ともに、マーケティングという言葉のコンセプトを的確には掴んでいなかったせいか、本を読んでも、講演を聞いても、納得できなかった。
一例をあげてみよう。ある著名な商業の先生は、
「技術革新の結果、大量生産が可能になり、安く売れるようにはなったが、量が多くなりすぎて、従来の販売法では捌ききれなくなった。そこで、宣伝・販促などを行い、お客を買う気にしておいて、販売をする。宣伝・販促などは、いわば空軍の空襲、販売は歩兵の仕上げに相当する。これらの活動の総合した呼び名がマーケティングだ」と述べた。
また、別の所では、
「テレビや洗濯機のように発明があったからこそ、需要が生まれた。今までは、必要は発明の母と言われてきたが、これからは発明が必要の母となり、マーケティングは商品開発から始まる」という説明を聞いた。
IT産業の発展振りを思うと、この説明もうなずけるであろう…が。
ともあれ、当時、私を本当に「分かった」と思わせる解説はなかった。ただ、漠然とではあるが、広い領域の多くの問題の深い関わり合い方についての概念というようなイメージはもてるようになっていた。
■納得できるマーケティングの定義
その後、初めてのアメリカ視察旅行で、当時、カリフォルニア大学のダンカン教授が講義の中で、
「製造業で使うマーチャンダイジングと小売業のマーチャンダイジングでは意味が違う。小売業のマーチャンダイジングは、製造業のマーケティングに近く、バイング・アンド・セリング全体が含まれる。」と述べた。なぜかこの時、“マーケティングとは、このことか”と分かった気がしたことを今でも強烈に覚えている。
その頃、「小売業にはマーケティングは不要」と言いだす指導者もいて、チェーンストア業界では、マーケティングが議論されることも少なく、それほど気にしないで、仕事をしてきた。しかし、心の底には、市場調査はマーケティングではないのかという反発はひそんでいた。
昭和50年代の後半になると、チェーンストア産業も成長期から成熟期に移行しはじめ、各業界、業態に関する研究も進んできた。食品主体のスーパーも、本格的スーパーマーケットなどと呼ばれ、業態が確立したと言われるようになっていた。「SM」とは、本格的スーパーマーケットの略称で、「内食(家庭食)材料をワンストップ・ショッピングで調達できる、セルフ・サービス店」と定義する人もいた。この頃、スーパーマーケットのマーケティングの研究者は増え、著作も多く発刊された。
その中の一冊、『食卓革命』の著者、黒田節子さんは、「スーパーマーケットのマーケティングとは、食生活の実態とスーパーマーケットの施策のミスマッチを正し、マッチングをはかること」と定義した。筆者は食生活を買い物の仕方、調理の仕方、テーブルの囲み方(食べ方)に分類して、ミスマッチを指摘し、正し方を論述している。
この定義は、長年にわたり持ち続けていた私のマーケティングについて、もやもやを吹き払ってくれた。マーケティング全体の定義にはならないが、逆にスーパーマーケットに限定しているからこそ、より一層ピッタリとくる定義であった。つまり、何をすべきか、という活動計画をつくりやすくする定義ということである。一般にこのような定義などのまとめ方を「分かりやすい」というのであろう。
続きます