スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.41
第41回スーパーマーケットのマーケティング-“マス”の追求
■ マスの時代
そもそもスーパーマーケットは当初から“マス”をキーワードに、“店舗づくり”の開発を続けてきた。
マス・プロダクションとハイ・マス・コンサンプションを結ぶためには、大量流通システムの開発が必要ということが、我が国のチェーンストアが本格的に増え出した頃のうたい文句であった。
大量仕入で商品原価を安くするため、スケール・メリットを合言葉に、やみくもに出店を急ぐ企業も少なくなかった。
マスの追及によるロー・プライス戦略。これは誰にとっても解りやすい議論である。
私は、東京オリンピックが開催された年に初めてアメリカの視察チームに参加した。その時の強い印象の1つが、広い清潔なフロアのゴンドラエンドの大量陳列である。これこそ、マス・セールの象徴だと思った。
また、量販店以外の小売店にも見られたことだが、POPはもとより、ウィンドウに貼られた、ビラにも書かれている“off”の文字がやたらに多かったこともはっきり覚えている。
その頃、親交のあった業界ジャーナリストの1人は、「これからは、工業的商業の時代」を口癖のように唱えていた。
チェーンストア、特にスーパーマーケットは、“店舗づくり”のハードウェアの設計にも、ソフトウェアの業務システムにも、製造業のノウハウの導入をはかった。また、商品調達の面でも、バックワード・バーティカル・インテグレーションならびに共同仕入れを行うなど、マス・メリットの追求に勢力を注いできた。
ところで、小売業の“マス”とは、不特定多数の客を増やして、売上増をはかることを意味する。製造業のマス・プロダクションも、フォード社のT型フォードに代表されるように、低価格商品を開発して、不特定多数のユーザーをつくり、業績を伸ばしてきた。
■ マスの時代の終焉
しかし、日本のチェーンストアがマスの追求を始めた頃、アメリカの製造業は、マス一辺倒の時代を終え、顧客をセグメントする時代に移行していた。
再び自動車産業を例にとれば、ステータス・シンボルとしてのキャデラック、キャリアウーマン用のコンパクトカーなどの車種が脚光を浴びていた。
イギリスの産業革命に端を発した素朴な工業化が近代化の始まりであるとすれば、近代化は、日本の小売業のマス追求の始まった頃には、すでにポスト近代化の時代に移行していたのである。
ポスト近代化、即ち、ポスト工業化の時代は現代化と呼ばれる。産業としては情報産業などが中核となって急成長を遂げつつあることは説明の要もあるまい。
我が国の流通産業も、遅ればせながら、マス追求不辺到の時代が終焉し、ポスト・マス追求の時代に入っている。
続きます