スーパーマーケットのマーケティング Vol.13
13. W転換期の戦略コンセプト
■トータル経営システム
スーパーマーケットが産業として成熟期を迎えた頃、時代背景は脱工業化が進み、現代化がすでに進捗していた。つまり、二つの転換が同時に進行しているわけで、我が国のスーパーマーケットは二重の転換の対策としての戦略課題をたてねばならなくなっている。
成熟期には企業間の競争はより激しくなる。企業はお互いにより多くの収益を追求するため、立地戦略、営業戦略、業務システム、接客、その他のサービスなどのシステムの整合性を高めながら、トータル・システムの成熟をはかるからである。
ところで、各社が力を入れて整備を急いでいる、トータルの経営システムを詳細に列記するのには膨大なエネルギーと時間、それに紙数が必要になる。
そこで、必要最小限の圧縮して要約すると、次の3領域にまとめることができる。
第1に、社会(市場)が当該企業が行っている使命機能のパフォーマンスを評価し、受け入れていること。
第2は、当該企業が期日中に投入する資源(資金、人的能力)が期間中に増大して回収され続けていること。
第3は、当該企業の組織の凝集性が高まり、組織行動についての意見統一。目標達成意欲、行動調整のレベルが高まり続けていること。(したがって、後に解説することになっているイノベーションのための組織的知恵が生まれやすくなっていること)
以上の3つの領域は、循環的で複雑な相互関係をもつシステムであるが、社会背景との関係、すなわち現代化を遂げつつある市場に対する対応策を見るにはまず、使命領域に着目すべきであろう。
■マス・セールの効果と弊害
スーパーマーケットの発生時の合言葉は、大量生産に対する、「大量流通、大量販売」であった。スーパーマーケットは大量販売、すなわち、マス・セールを行う新しい小売業態であった。マス・セールの特徴の一つは、不特定多数客に低価格で大量の商品を売ることである。
スーパーマーケットがマス・セールを行うようになったため、我が国の食生活は大変豊かになった。誰でも、それまでは買えなかった食材を安価で入手することが可能になったからである。牛肉は、戦前は高級食材で、普通の人は特別な日にしか口にできなかった。
しかし、消費者がマス・セールで満足していたかというと、その答えは「ノー」である。
消費者は自分好みの食生活を求めるため、多くのスーパーマーケットに不満をもっている。
私事を例に使って恐縮だが、私は赤いラディッシュをかじるのが好きである。時々、無性に食べたくなる。だが、最寄りのスーパーマーケットに行っても品揃えしていないことが多い。たまたま品揃えしてあっても、食べてみると、シャキッとした歯ざわりに欠ける。鮮度に欠けるからであろう。昔風に言えば、このような不満は贅沢として片づけられてしまう。しかし、これに似た不満は誰もが持っている。そして、スーパーマーケット側はマス・セールの対象商品ではないとして力を入れようとはしない。ここに食生活の実態とのミスマッチがある。
このようなミスマッチを正そうとする動きもある。誰でも欲しがる商品、無くてはならぬ商品を「コモディティ商品」、少数のお客しか欲しがらぬ商品を「ライフスタイル商品」と分け、ライフスタイル商品にも力を入れだしている。ライフスタイル商品の代表は惣菜である。惣菜は調理する時間をもてない、あるいは調理が嫌いなライフスタイルの主婦、ないしは単身者のための商品である。多くの惣菜はマス・セールの対象商品にはならない。
もっとも、こんな話しをテレビのワイド番組で聞いて驚いたこともあった。九州のあるスーパーマーケットでは、お客の要望する商品はすべて品揃えすることにした結果、味噌の品揃アイテムが500を超えたという。こんなことをしたのでは、商売は成り立つまい。
しかしながら、コモディティ商品だけでは満足できない顧客が増えつつあることも事実である。
コモディティ商品にはスーパーマーケットがマス・セールを行った結果、顧客との相互作用の中で選び出された。すなわち、ABC分析のAランクの上位アイテムで占められている。昔風に言えば、売れ筋、儲け筋商品がこれに当たる。また、マス・セールの効果をあげるための“品揃えの絞り込み”を基本方針にした結果でもある。
“絞り込み”に代表されるような企業の戦略コンセプトは現在では時代遅れとなり、消費者は不満を唱えだしている。そこで、戦略コンセプトの見直しが求められる。
続きます