スーパーマーケットのマーケティング Vol.14
14. W転換期の戦略コンセプトの見直し
■産業と社会のW転換
成長期から成熟期へという産業のライフサイクルの転換、近代化(工業化)から現代化(脱工業化)へという社会(市場)の歴史的転換というダブル転換の進む中で、スーパーマーケット企業が基本的戦略コンセプトの見直しを迫られていることを、かいつまんで解説した。
しかし、多くの多忙な実務家にとっては、冗長な前置きの理屈はやめて、早く何をすべきか、結論を聞かせろという印象を与えていることを恐れている。
同時に、日頃多忙を極めて、結論・結果を早く求めざるを得ない実務家には、大きな転換期には、深い思考が必要だという気持ちも強い。そのためには解説が中途半端だという思いも強い。なぜならば、転換期はこれまで成功をもたらした施策の踏襲だけでは乗り越えられないからである。
転換期を乗り越えるためには、新しい施策をつくり出す知恵が必要である。有効な知恵を生み出すためには、広範な知識と深い考察が必要なのである。このような知恵を出せる実務家を結城さんは「知識商人」と呼んでいる。
■マス・カスタマイゼーションという概念
さて、W転換期の戦略コンセプトの見直しは、マス・セール一辺倒から発展的に脱却することである。マス・セールは、度々述べてきたように、不特定多数客をターゲットとしている。そのために自分好みの食生活にこだわる人達の不満が増大することになった。
また、自分好みの食生活にこだわる消費者が増えている。
そもそも、人間は自分を“One of them”(多数の中の一人)として扱われると反感を感じるものである。反対に自分を個性ある人間として、そしてその個性を尊重してくれる行為に親近感をもつものである。
小売業は昔から店のお得意さんを大切にして商売をし、店を繁栄させてきた。上得意の多い店ほど繁盛していた。お得意さんとは、固定客の別の呼び方である。お得意さんは店側が自分のためのサービス(世辞、へつらいも含めて)をしてくれるので、その店を贔屓するようになり、リピートの回数を増すものである。
近代化を目指してきた小売業は、古くから培われてきた以上の原則を等閑視していた。現代化に移行している今日、この原則を復活させねばなるまい。
流通の先進国アメリカでは、すでに数10年も前から、不特定多数客から固定客づくりに戦略コンセプトが変わりつつある。アメリカでは、この動きをマス・カスタマイゼーションと呼んでいる。日本語に直せば、「大量仕入れ、大量販売時代の固定客づくり」ということであろう。元来、大量販売とは、不特定多数客をターゲットとするという概念であった。
つまり、「マス」と「カスタマイゼーション」は相反する概念であるものを二つ合わせて一つの新しい概念にしたものである。
続きます