スーパーマーケットのマーケティング Vol.15
15. マス・カスタマイゼーションを進めるためのマーケティング
■スーパーマーケットの転機
スーパーマーケットは、これまで大量仕入、大量販売をスローガンに発展を続けてきた。
つまり、マスを追求し、そのことが消費者の食生活の向上に貢献したので、今日のスーパーマーケット産業が出来上がったのである。
今や我が国の食生活はスーパーマーケット抜きでは成り立たないほど、食品流通の中枢機能を担う存在になっている。
駅前商店街の集客力に依存してせいぜい30坪から70~80坪の小型のセルフサービス店として出現したスーパーマーケットは、半世紀足らずの間に住宅地のはずれ、ないし、畑の中に自力で充分な集客力をもつショッピングセンターを開設できる力を持つまでに成長したのである。
そのスーパーマーケットに今、二つの深刻な転機が訪れている。その一つは、産業のライフサイクルが成長期を終え、成熟期に変わり、競争が一層激しくなったことである。もう一つの転機とは、明治以来の工業の発展と共に進んだ我が国の近代化が終焉し、情報化、グローバル化をはじめとする社会の現代化が進行してきていることである。
社会の現代化が直接スーパーマーケットに及ぼす影響としては、ライフスタイルの多様化に注目すべきことであろう。
二つの転機に加えて、我が国経済のバブル崩壊後の20年以上にわたる不況感、さらにはグローバルな金融システムに対する不信感が暗い影を投げかけている。
この小稿の目的は、産業の成熟期への移行、社会の現代化に当たってスーパーマーケット企業の戦略のあり方を論ずることである。景気問題については、あえてあまり惑わされるべきではないと言うにとどめておく。なぜならば、先進国において景気が食生活に及ぼす影響は、アパレル産業、住宅産業などと比べ、極めて小さいからである。
■倉本長治氏の名警句
さて、二つの転換期の戦略を議論するにあたり、きっかけづくりに、小売業近代化のリーダーとして大活躍され、数々の名警句を残された倉本長治氏の警句の一つに登場を願うことにする。
曰く、
「繁昌とは、たった一人のお客がくり返しお買い物に来ることの累積にほかならない」
繰り返し来店してくれるお客は固定客と呼ばれる。江戸時代から成功した小売店は固定客を増やす工夫をしてきた。しかし、スーパーマーケットは不特定多数客に大量販売をモットーとして今日に及んでいる。そのために、個々のお客の好みや要望を無視するようになった。良い商品を安く売りさえすれば、お客は来てくれるものと思い込むようになった。
しかし、安さだけではお客は躍らなくなった。バブル崩壊後、いくつかのチェーンストアは好機到来とばかりに「激安商法」を展開したが、失敗に終わっている。やはり小売業には固定客づくりは欠かせない課題なのである。
■二つの対立概念
固定客づくりを英語では、カスタマイゼーションという。マスを追求し、かつ固定客づくりもするのが、マス・カスタマイゼーションである。
小売業は近代化にあたり、マス・セールを行うため、カスタマイゼーションを放念してしまった。もともとマス・セールとカスタマイゼーションは相いれない対立概念であった。
しかし、社会全体に現代化が進行する中で、食品小売業が成熟期の競争に対処するためには、異なる概念の融合をはかり、新しい概念を作り上げる工夫が必要になるケースが増えている。
国際政治の世界でも、一国の国益は他国の国益とは相いれないものと考えられていた。しかし、グローバリゼーション、すなわち世界の現代化の進む今日、「戦略的互恵関係」などの新概念が生み出され、実効のための工夫が進められている。経済の面でもそれぞれの異なる文化を認め合いながら、融合化により、新しい文化を生み出す知恵が求められている。
現代社会では、やみくもな排他的二者択一主義は通用しないだけでなく、混乱の元となっていることを改めて認識し直す必要がある。
続きます