スーパーマーケットのマーケティング Vol.18
18. こだわり商品による固定客づくり
■固定客づくりの手法
スーパーマーケットのマス・カスタマイゼーションとは、店舗づくりの中にサービスの特性を打ち出し、これを是とするお客の来店頻度を高めることである。
例えば、高齢徒歩客(絶対数があまり多くないはず)が持ち帰りに苦労するビールや醤油などの重量商品、ティッシュなどのかさばる商品を配達サービスをすれば、高齢徒歩客の人数も来店頻度も高くなる。
ポイントカードも固定客づくりの手段の一つではあろうが、競争相手も同じ手段を使えば、効果は少ない。競争相手が真似をしない、できない手法をつくり出せば効果は高まる。
この観点に立てば、これから述べるこだわり商品は、固定客づくりの一つの有効手法と言えよう。
■私のこだわり商品
多くの普通の人はいくつかのこだわり商品を持っている。私自身の例で言えば、私は食通とはほど遠いが、おいしいものが好きである。日に3食、おいしい食事をしたいと思っている。年をとってから、他の楽しみが減ったせいか、おいしさにこだわるようになってきた。といって、おいしさとは何か、全く分からない。体調が良く、お腹がすいていれば、何を食べてもおいしい。機嫌の悪い時はその逆である。
普通の人は、私に似たりよったりだろうと勝手に思っている。それでも年を重ねるに従い、食い意地が張ってくると、特定の食材、料理をおいしいと思う頻度が増えてくる。そして、もう一度食べたくなる。
・その1:トーフ
私の場合、頻度ナンバーワンは、トーフ(豆腐)である。夏は冷やっこ、冬は湯ドーフ、ほとんど毎夕食、晩酌時につまむ。「よく飽きないわね」と老妻が呆れている。これだけトーフを食べると、私でも、自分の好みの味が分かってくる。「トーフなら何でもいい」という訳にはいかなくなる。文京区に住んでいた時には、坂下の小さなトーフ店のもめんドーフが好みであった。飯能に移ってからは、2年前に閉店した地元の八百屋出身のスーパーの前で営業していた業種店のトーフを愛用してきた。このトーフ店は昨年廃業したので、今は次善のトーフで我慢している。
私のこだわり食材の筆頭はもめんドーフである。誰でもこんな傍目にはたわいないが、本人にとっては大事なこだわり商品を一つや二つは持っているのではないかと思う。
・その2 ミソ
私の場合、トーフに次いで、産地ブランドにこだわる食材、調味料がいくつかあり、その数は年々、一つか二つ増えていた。友人の奥さんが趣味でミソを作っている。数年前、これを土産にもらってから、病みつきになった。毎年、2~3回分けてもらっている。それ以来、スーパーのミソは買っていない。
その奥さんが昨年、体調を崩し、ミソ造りを止めると聞いたので、さきほど、土産を持参し、作業を手伝うからミソ造りを止めないよう、お願いしてきた。
・その3 オリーブオイル
また、イタリアのロザーティ社製のオリーブオイルは私の食生活に彩りを添えてくれている。サラダのドレッシングにも、パスタにも、他のオリーブオイルでは味わえない香りとコクを作り出してくれる。価格は一般のブランドの倍ぐらいするというが、使用量はたかが知れているから、家計をおびやかすことにはならない。
他にも、刺身、野菜、ベーコン、ソーセージなどの中に、もう一回食べたい、あるいは、どうせ食べるならこれを食べたいと思う食材や料理が少しずつ増えている。
以上は、私のこだわり商品の例である。スーパーマーケットでは、品揃えしていないアイテムがほとんどであろう。15年前にもなろうか。親しい付き合いをしていたスーパーマーケットの社長に「もう一格上のヒレのステーキ肉が食べたい」と言ったら、「百貨店か専門店で求めなさい」とつっぱねられた。お前のようなことを言うお客もいるが、スーパーマーケットの役割外の問題だという。つまり、スーパーマーケットはコモディティ・アイテムを取扱うのが役割と決め込んでいたのである。
■ライフスタイル商品の重要性
これに似たエピソードをもう一つ。
業績を伸ばし続けていた中堅どころのあるスーパーマーケットの商品部担当者の一人に、「青首大根はおろしにしてもおいしくない。おろし向きの大根も品揃えに加えたら?」と提案したことがあった。その返事として、「辛味大根を品揃えしたことがある。10本も売れず、ロスが発生した」と言われた。20本も30本も売れたら、定番に加えたのであろう。
当時、スーパーマーケットで新しくラインアップに加える商品は、はじめから良く売れる商品に限られていた。つまり、コモディティ・アイテムに限定されていたのである。
しかし、現実は、少しずつ変わっている。辛味大根を定番として扱う店も増えてきた。
なぜ売れるようになったのか。その前に、なぜ、はじめは売れなかったのか。
売れなかった理由の第一には、辛味大根の存在を知っているお客が少なかったことが挙げられる。第二には、お客はこれまでこだわり商品を店側から勧められたことが無かったことを挙げることができよう。
これが少しずつでも変わり出したのは、お客側は自分好みの食材を無意識のうちに探し出す傾向が強まりだし、店側でもインストア・ベーカリーや惣菜部門によく見られるが、オリジナル・アイテムを作り、売り込む工夫がなされるようになったからといえよう。生鮮品売り場、グロサリー部門にもこんな傾向は少しずつ進捗しはじめている。
続きます