スーパーマーケットのマーケティング Vol.20
20. こだわり商品によるマス・カスタマイゼーションの効用
■こだわり商品論
またまた脱線が長くなり過ぎたが、話をこだわり商品論に戻す。
こだわり商品論はスーパーマーケット産業内でますます激化する競争の中で、自企業が存続発展するための方策についての議論である。誤解のないようにお断りしておくが、競争のための議論と言っても、競争に勝って相手企業を滅ぼして、勝ち残ろうとするための議論ではない。
どんなに競争が厳しさを増しても、存続発展をし続けることが、ここで取り上げる競争論の意味である。
さて、スーパーマーケットの社会の現代化、この産業の成熟期移行に際しての基本戦略のキーワードはマス・カスタマイゼーションである。こだわり商品は、マス・カスタマイゼーションの一つの手法であることは、これまで見てきた通りである。この手法システムの充実をはかって、お客の食生活の向上に貢献して、企業の業績を伸ばすことがマーケティングの狙いである。
スーパーマーケットのお客にとって、コモディティ・アイテムの充実は、必要条件であって、満足条件という輪が広がりつつある。つまり、不満足な点が増えている。この不満足な点を改善して、お客の来店頻度を高めること、つまり固定客づくりの手法として、こだわり商品を活用しようとするものである。
ここで取り上げるこだわりの味とは、食通ではない普通の人間が、いつの間にかこだわるようになった味である。従って、その味にこだわりを持つ人間の数は少数であり、マスセールの対象からは除外されていた。しかし、トーフの中にはこだわるアイテムは無くても、おでん種のいくつかにこだわる人はいる。
日本の伝統的商材にはあまりこだわらないが、ハンバーグ用のひき肉、ないしはその混ぜ方にこだわる人もいる。しかし、どの商品もこだわる人は少数である。
このようなこだわり商品を品揃えのラインアップに加えると、どんな効果が得られるのかを考えてみよう。
■新しく3アイテムをした場合の例
A、B、C 3アイテムをラインアップして、それぞれ10、9、7パック売ったとする。単価はそれぞれ300円だとすれば、300円×26パック=7800円の売上増になる。新アイテムが売れたため、従来アイテムが売れなくなったかもしれない。仮に5パック売れなかったとすれば、1500円減になり、売上増は6300円に止まる。この程度の売上増のために作業をしたり、気を使うより、コモディティ商品の販促の工夫をした方が効果は大きい。しかも新しい企画には商品ロスのリスクが伴う。という考え方が、お客の少数要望に耳を傾けなかった原因であった。
しかし、もう少し掘り下げて分析してみよう。
合計26パックの売上は、従来客が20パック、新規客が5人で6パック買ったとする。5人の新規客は、自分好みのこだわり商品で他店では購入できないので、固定客になる可能性が高い。この新規客は、こだわり商品以外のカテゴリ商品も、来店するたびに買ってくれる。
つまり、毎日の客数アップにつながる。平均客単価を2000円にすれば、さきほどの6300円の売上増を(2000円×5名)+6300円-(300円×6パック)=24500円 と訂正すべきということである。
こだわり商品は従来客の固定客化にもつながり、お客の流出による売上減を削減する。流出による売上減を減らせば、減らしただけ期間売上トータルを増やすことになる。
このように考えると、固定客づくりの効果は固定客づくりのために新しくラインアップ加えたアイテムの売上だけで評価すべきではないことが、誰の目からでも明らかになろう。固定客を何人獲得するかが目標となり、実務的には毎日の来店客数の増加率が判断資料として使われることが多くなろう。
以上がマス・カスタマイゼーションの効果の概説である。
引き続き、マス・カスタマイゼーションのためのこだわり商品以外の手法、手法システムの効果を高めるための関連システムの強化策、手法システムを持続した場合の時間シナジーなどを考えてみよう。
続きます