スーパーマーケットのマーケティング Vol.21
21. マス・カスタマイゼーションの進め方
■食生活の豊かさ
こだわり商品の手法は、スーパーマーケットがマス・カスタマイゼーション戦略を実現するための一つの手法システムである。
これは、スーパーマーケットのマーケティング、すなわち、お客の食生活の向上に貢献すること、という概念の上でどんな位置を占めるのであろうか。
食生活には、次のような側面がある。
1.腹を満たすこと … 充分なカロリーを摂ること。
2.栄養を摂ること … 健康を維持するための栄養をバランスよく摂ること。
3.味覚 … おいしさ
4.便利性 … 買物、調理の手間(労力)、時間、気分(心理)、出費
5.選択肢 … メニュー、食材の種類
6.作法 … マナー、食器
7.社交(楽しさ) … 家族・親族との絆、友人・知人との交流、ビジネス上の接待
8.経済性
食生活の豊かさに対する感覚は、歴史的に変化し、また民族によっても異なる。
昨年末よりNHKで続けて放映されているイタリア文化のシリーズ番組で紹介されるイタリアの食文化は、アメリカのそれとはまったく対照的と言えよう。
食文化民族学が理論体系を創り上げてくれれば、スーパーマーケットのマーケティングの絶大なサポートとなろう。(近い将来、専門研究者が多数現れることを期待したい)
イタリアでは中世から地域の特産食材を使って、その地域の料理を家庭食として日常から楽しんできたという。
日本には、婚礼の祝いごと、夏祭りなどのご馳走は楽しんでも、日常は粗食で済ますことを美徳としてきた。この風習は、明治以降も続き、戦後の経済の急成期にようやく変わりだした。早い話、正月のご馳走にお金と時間をかけるよりは、毎日の夕食においしいものを食べるようになったのである。
これは、食の豊かさの重点が、満腹、栄養などの生理的欲求に基づくものから、味覚、便利性、選択肢など、生活感覚に基づく心理、つまり楽しさに移ったことを物語っている。
粗食を美徳とし、かつては贅沢の一言で退けられ、戒められた、おいしさを楽しむことが今日では普通なこと、健全なことに変わったのである。
この変化に対応するためのスーパーマーケットの戦略の試案の一つがこだわり商品である。前にも述べた通り、こだわり商品は、マス・カスタマイゼーションの一手法システムである。
■ライフスタイル商品を強化せよ
こだわり商品とは、例えば、「すき焼きには松阪牛の霜降りが一番」というように、少数の人が、少数の人がこだわる味をもった商品である。こだわり商品は、特定のライフスタイルをもつ人達が要望する商品をライフスタイル商品と呼ぶ企業があるが、ライフスタイル商品の一つである。
ライフスタイル商品は愛用者が小数なため、従来スーパーマーケットの品揃えからははずされていた。スーパーマーケットの品揃えのモットーは絞り込みであった。
品揃えから除外されていたライフスタイル商品で、愛用者の比較的多いもの、あるいは増えているアイテムを品揃えに加え、充実させれば、愛用者たちの来店頻度が高まる。お客の来店頻度を高めること、これが固定客づくりである。
新規のお客を増やすこと、従来客の流出を防ぐことも、固定客づくり現象の一つであろう。固定客はライフスタイル商品を求めるために来店するが、同時にコモディティ商品も購入してくれる。
続きます