スーパーマーケットのマーケティング Vol.26
26.組織の成熟度による「むずかしさ」の差異
■スーパーマーケット業界の「先送り」風潮
またまた記述が長くなり過ぎたが、話を業務システムをボツにしたところに戻す。
企画責任者は、鉄砲を数撃つ慣習に馴らされていたのである。「なすは、なさざるに優る」ということわざを「出来ることからなし、むずかしいことは後でも良い、数多くなせばよい」と解釈していたのであろう。また事実、初期のスーパーマーケットでは、特売、陳列、品揃え、値入れなど、どれでも少し工夫するだけでも、なせば議論するだけで、実践実行をなさざるに勝ったのである。そのため、むずかしさを伴う問題はすべて先送りにする風潮が業界内に広まっていた。
関西スーパーマーケットが鮮度管理システムを創り上げ、本格的スーパーマーケットを標榜するようになって、事態は一変した。なすべきことをなさないと、業績は上がらないどころか、下落しだしたのである。業界が成長期に移行したからである。
今また業界は成長期から成熟期に移行し、企業の施策も改革が求められている。このことを拙稿では、少しずつ視点を変えながら繰り返し論述してきた。
これからは拙稿のまとめとして、「むずかしくても、なすべきことを成し遂げるため、予測される障害となるむずかしさを分類し、それぞれを克服する」ための考え方を概述する。
一口に「むずかしさ」と言っても現実に現れる諸課題は、企業ごとにこれまでの歴史やこれから取り組もうとしている戦略によって、種類も、その数も、レベルも異なることがある。
これらの違いのすべてを詳述する能力は私にはない。そこで歴史の違いを組織の成熟度の高い・低いの2つに分類し、戦略は「おいしさ」に焦点をあてたマス・カスタマイゼーション一本に絞って、概説を進めることとする。
■準備段階のむずかしさ
さて、準備段階のむずかしさを考えてみよう。
新政策を実施するためには、まず計画書をつくらねばならない。計画書は、冒頭に目的をのせ、実施要項は後に続く。実施要項は仕事の流れに従って、何をどのように処理するかを次々に説明していく。従って、複雑な大きなシステム改革の計画書は、目を通したぐらいでは頭に入らない。私は実施要項を数回読み直し、はじめて目的で書かれていることの意味が分かったという気になれることがしばしばであった。目的が分かってから実施要項を読み直して、ようやく納得し、“よし、やろう”という気になれたのである。
成熟度の低い組織では、極言すれば計画書をつくる適任者がいないことすらあり得る。また、計画書は書き上げられても、精度が低く、実施段階でさまざまな不具合が発生する。
成熟度の高い組織では、企画スタッフがさして苦労せずに精度の高い計画書を作成するであろう。
しかし、ここにも問題はある。
計画をまとめるためには、関係者と調整をしなければならないが、関係者の数が増えると、多数の関係者との調整には1人増えるごとに苦労が倍加するといった風のエネルギーが必要である。トップと実施グループとの調整も新しい段階を迎えての新しいむずかしさがあろう。
続きます