スーパーマーケットのマーケティング Vol.29
29.関西スーパーの「試行錯誤的問題解決」
■天才のひらめき
ここで試行錯誤の行為を分析してみよう。
生鮮売場の画期的改革時の行為の分析である。
関西スーパーでは、ダイエーなどGMSの出店など、相次ぐ競合店の出現により、業績が伸び悩みだした頃、当時の北野社長は打開策を模索するため、アメリカのスーパーマーケットの視察に出かけた。その際、青果売場の良い香りをかいで「これだ」とひらめいたものがあったという。私は後にこの経緯を聞いた時、「天才のひらめき」だと思った。
「これだ」は「生鮮強化、そのための鮮度管理」というコンセプトとなり、社員達に伝えられた。社員達は恐らく、「では何をしろと言うのか」と訝ったであろう。北野社長は言葉で説明するばかりでなく、幹部社員を研修のためにハワイのスーパーマーケットへ派遣した。研修は1回だけではなく、数回繰り返された。北野社長自身も研修に参加して、夜間はその日の研修内容を話し合った。研修とは言っても、講師がいたわけではない。毎日の仕事ぶりを一日中観察し、時には作業の実習を体験させてもらい、分からないことは質問して答えてもらい、自分主体の研修をしたのである。
自分の目で活動の実態から学ぶことにより「生鮮強化」とは何をすることかがはっきりしだした。研修を繰り返すことにより、イメージは広がり、かつ深められた。話し合ったことにより、活動のプロセスはより明確になり、プロセスごとのキーポイントもはっきりするようになった。
北野社長自身も自らが学んだ。話し合いの中で学んだことも多かったはずである。そして何より大事なことはトップと幹部社員の間でこれからやるべきことについてのトータルイメージが共有化できたことである。共有イメージの有無はシステムの設計・実施・修正すべての段階で精度に決定的な影響をもたらす。
■鮮度管理のトータルイメージ
関西スーパーマーケットはプロセスモデルの最終プロセス陳列状態のあるべき姿についてイメージがほぼ一致していた。順次このイメージを言葉で表現していったのであるが、その1つ。
「陳列してある商品の鮮度は、すべて一定水準以上でなくてはならない。」
この表現1つで売場イメージは客観化される。同時に一定水準とは何か、という疑問が浮かぶ。肉なら変色度、魚ならドリップの有無、青果ではみずみずしさ(乾燥度と変色度)で水準を決めることができる。目で見た水準より客観するために、商品化した日から何日以内の商品に限定する、日付管理。2つの基準の併用法は?というようにイメージは順次具体的な課題となって展開される。
また、基準内のみの商品を陳列するためには前プロセスの品出しの仕方、さらに前プロセスの商品づくり、さらに保管のプロセス1つ1つ。そして基準を超えた商品の処理法、ロスの防止策、というように設計は進んでいく。
続きます