スーパーマーケットのマーケティング Vol.34
34. 新プロセスモデルの見切り発車
■忍耐力持続のむずかしさ
業務システムの改革は、目標コンセプトを明確にしてから出発する。
戦略システムの改革は、目標コンセプトにあいまいさを残していても、見切り発車し、フィードバックを繰り返しながら妥当性を確認し、コンセプトの表現を操作的に明確化する。
ここまで記述を進めてきて思うことは、「言うは易くして、行うは難し」である。このケースのむずかしさは、行うための忍耐力と知恵の出し方、しぼり方である。
このシステムで成果を上げるには、長い時間を要する。長い経過の途中では、挫折することもある。挫折感に打ちのめされて途中で中止すれば、それまでの苦労が水の泡と消える。水の泡になるばかりでなく、企業の存亡が危うくなる。したがって、中止してはならない。挫折を乗り越えなければならない。挫折を乗り越える忍耐が必要である。長い道のりを通り抜ける忍耐力が必要なのである。そんな忍耐力をつくれるか、持続させられるか。むずかしい問題である。
忍耐力持続のむずかしさを克服するためのキーワードは「組織の知恵」である。
試行錯誤的問題解決を進めるためには、トータルイメージを共有化し、目標を設定し、スタート時の実施計画を作成し、それぞれの段階であいまいさが残っていても、見切り発車すればよいことを記述してきた。あいまいさは実施過程でフィードバックを繰り返し、実施計画を順次調整し、所期の成果を生み出すプロセスで是正しながら、妥当性を確認し、明確化すればよいということだ。
■組織的知恵
以上を要約すれば、試行錯誤的問題解決とは、先例モデルのないケースで、あいまいさを残したまま見切り発車し、実施段階の各プロセスで調整しながら、所期の目的を実現することであるが、プロセスの各段階でさまざまなむずかしい問題に遭遇する。これらのむずかしい問題は先例モデルがないので、乗り越えるのがむずかしい。そんなむずかしさを克服するためには根気強く、忍耐力をもって、新しいオリジナルな解決方策を打ち出していかねばならない。オリジナルな方策をつくり出すのは、新しい知恵である。新しい、オリジナルな知恵を次々と打ち出して、障害を克服すれば、所期の目的は実現する。つまり、競争に勝ち残れる。
オリジナルな知恵を打ち出すことによって、組織の忍耐力は持続し、強化される。忍耐力の強化とは、むずかしさに取り組む時の「またか」とため息をつくようなネガティブな姿勢を、「今度はオレが」というようなポジティブな意欲に変えることである。
忍耐力の強化とオリジナルな知識開発の関係は、成熟期における組織の成熟に重要な一側面である。
成熟期の企業間競争は、企業の組織的知恵くらべと言い直すこともできよう。
なお、組織的知恵とは、ここまでもたびたびふれてきた通り、事にあたった時、個々人が集まり、問題解決のための知恵を出して話し合い、イメージを共有化し、さらに個々人の知恵を共有化されたイメージ実現のために修正、洗練し、組織としての知恵として結集した知恵である。
■“知識と知恵”
この記述を進めているうちに思いだした小さなエピソードを紹介して、組織的知恵説を補完したい。
マネジメントブーム花盛りの昭和40年前半の頃のことである。長年の実務生活を定年退職して、大学教授に転出していた大学校の大先輩と雑談していた時、「学生たちが集まっているところで、“知識をいくら集めても、何の役にも立たない。大事なことは、知恵を出すこと”と言うと、学生たちは一様にほっとした顔をする。だがその後、“広範にわたって掘り下げられた理論的知識を持たないと、よい知恵は出てこない”と付け加えると、一度輝いた顔も落胆の色に変わる」と、学生の不勉強ぶりを揶揄した。私はこの揶揄に同感して、声をあげて笑った。笑いながらも、“これはオレのことを皮肉っているのかな”と気がついて、顔がゆがんだ。
組織のオリジナルな知恵を出すには、組織で知識を集蓄するステップづくりが決め手になる。
さて、論述の局面を少し切り替えるが、商人舎の社長である結城さんはかねてより、「現代化の進む日本の小売産業では、『知識商人』が必要である」ことを強調している。結城さんが提唱する『知識商人』 とは、組織的知識を集蓄し、次々に遭遇する新しい事態にチャレンジして1つ1つ解決する組織的知恵をつくり出し、使いこなすことのできる人材、および人材グループをコンセプトとする熟語ではないか。
ご意見、ご批判をいただければ幸甚である。
続きます