スーパーマーケットのマーケティング Vol.37
37. 新プロセスモデルの妥当性
● 見切り発車の1年後
次は妥当性の検証である。
見切り発車後、1年もたてば、組織は、新戦略に基づく改革の仕事に慣れてくる。当初の戸惑いは暫時、薄れている。業績が5%も上がっていれば、この路線でいいんだというような機運が生まれていよう。逆に5%も下がっていれば、大幅な見直しが必要だとする者、路線そのものが誤りだとする者、路線は正しいがやり方に徹底が欠けていたという者など、いろいろな評価が入り乱れるであろう。10%もダウンしていると、全体で失敗を認め消沈することになる。
これが組織による妥当性の検証である。
この頃には、あいまいさを残しながら、共有化されたトータルイメージも明確化が進み、検証の議論もより具体的になっている。
そこで、指摘したい最も重要なポイントは、1年目に業績が悪化しても、前年を下回らないようにすることである。前向きの評価を行うためである。その後の議論が、前向きに進められ、より具体的に、より効率的な議論、討論になるからである。しかも結論をまとめるための時間も大幅に短縮することができる。
さて、初年に前向きな検証を行えるような業績をつくるためには、月次、半年目のフィードバックの精度を高めねばならない。
つまり、部門別、店別の予算達成のための調整を積み重ねなければならない。今日、成長期を乗り越えたスーパーマーケットは、高次な予算コントロールシステムをつくり上げ、運営している。
このシステムをさらに高次化すれば、年次予算の達成率は高くなる。したがって、月次予算をコントロールするための課題を順次、的確に把握して問題を解決する知恵を出さねばならない。
知恵を出せるような、知恵をつくらねばならない。
● 財務上の利益の概念
業績は通常、経常利益で評価される。経常利益が高ければ、再投資して、拡大再生産を行い、利益をさらに大きくするというのが、古典的経済学の考え方であった。
実際には、獲得した利益を再投資するだけでなく、銀行から借り入れしたり、増資をして、利益の数十倍、数百倍もの再投資を行っている。借り入れ、増資をしやすくするためには、経常利益が安定、上昇していることが肝要なのである。
以上は財務上の利益の概念である。財務上の概念とは、キャッシュフローを中核に広げられ、まとめられた概念であるということだ。
●組織のゆとり
利益には、別の側面からみた重要な概念がある。そのひとつが組織のゆとりである。
目標利益が実現していると、組織全体が、次のステップを打ち出すに当たって、意欲的な議論が展開されるようになる。
逆に赤字に転落すると、まずは赤字を解消しようと、議論が赤字解消策に集中する。この議論の中には、責任の追及が必ず表われる。追求される側は、言い訳、すり替えの発言をする。追求する側は、言い訳は聞きたくない、すり替えはやめろと、ますます責め立てる。よしんば、責められる側が非を認めて謝罪しても、誤って済む問題ではない、早く対策を立てて直ちに実行しろと責め立てられる。両者の溝はますます深くなる。なかなか赤字解消策も決められなくなっていく。議論が泥沼に落ち込んでいく。
利益が安定していれば、不毛な議論に費やすエネルギーも、時間も不要になる。前向きの課題を意欲的に話し合い、組織全体が前進する。
赤字決算が続いている企業では、起死回生のための経営計画をつくり、全従業員が一致団結して実施しなければならない。このような場合、「背水の陣を敷く」という。しかし現実には、一致団結できないばかりではなく、計画すらまとまらないことが多い。経営は背水の陣を敷かねばならないほど追い込められてはならないのである。
ドラッカーを始め、多くの学者、実務家が、利益を最終目標にしてはならないと説いている。私もこれらの説には賛成である。しかし、私は、ここで、「利益は、ゆとりをもって経営を進めるための絶対必要条件である」と言い返してみたい。
知識商人は、利益について、どこまでもストイックでなければならない。
続きます