スーパーマーケットのマーケティング Vol.39
39. 「ときどきエッセイ」の執筆を振り返る
● なぜ「ときどきエッセイ」を書き始めたのか
ここまで「マス・カスタマイゼーション」というコンセプトに基づく、「おいしさに焦点をおいた新戦略の仕方」を概説してきた。
なお、拙稿の前半には、「マス・カスタマイゼーション」が生まれるまでの蓋然性を概説するために、相当量の紙数(時間も)を費やした。後半にも、組織の知恵とか組織のリーダーシップなどの解説に必要以上の紙数を費やし、読んでいる人は、拙稿の論旨に戸惑うことも少なくなかったであろう。
実は私自身、長々と書き続けている間に、論旨が分からなくなって困却したことが多々あった。筆者が、論旨が分からなくなった論述を、読者が読んで戸惑うのは当然すぎるくらい当然である。大変なご迷惑をかけたことを、心からお詫びする次第である。
しかし困却を繰り返すうちに、雑文を書き始めた動機をはっきり思いだした。その動機とは、引退時に残っていた思い、ばらばらな知識を整理することであった。マネジメントのコンセプト、理論、エピソードは、長い間に、不勉強な私でも相当、頭の中に溜まっていた。私なりに整理はしていたつもりでも、整理が不十分なので、それが、もやもやした思いとなっていたのである。
結城さんから、雑文(ときどきエッセイ)の申し出があった時、死ぬまでには整理したいと思っていたので、良い機会とばかりに申し出を受け入れた。
整理枠組みも考えずに書き始めた。枠組みは、書いているうちに決まってくるであろう、くらいに考えて書いていた。そのうちに、「このパートは、元クライアントAにはこのように、Bにはこのように話せばよかったな」というような気持ちがわいてきて、それなりに叙述法を少しずつ変えた。
書き進むうちに、私の知らない読者、実務家、研究者の思惑も気になりだした。そして最後には、この拙稿は、私のもやもやを整理するために書いているのだから、読者の思惑は気にしない方がよい、と考えられるようになった。その時には、まとめ方の枠組みもおおよそ出来上がっていた。いずれ再整理したくなるという予感もあった。再整理に当たっては、読者から見て分かりやすさを主眼に、なるべくコンパクトにまとめよう。そしてコンパクトにまとめれば、私自身も、よりすっきりした感じがつかめるはず、という思いも浮かび上がっていた。
● 執筆の楽しさ
一方、執筆を進めるうちに、いろいろな面白さ、楽しさを味わうことができた。
一番面白かったことは、マーケティングの叙述の中で、スーパーマーケットのマーケティングとは食生活の向上に貢献すること(これは20年来言い続けてきた)と書きながら、日本の普通の家庭の食生活はおろか、私自身の家庭の食生活、子供の好みすら知らないことを発見したことであった。
一瞬、頭が真っ白になるような驚きであった。筆が先に進まないどころか、何を考えているのか、何も考えていないのかも分からなくなってしまっていた。
少し落ち着いてくると、面白くなり、おかしくなっていた。こんなことも知らなかったのか。知らないことにも気づいていなかったのか、というような心理である。なにしろ、面白くもあり、おかしくもあり、楽しくなっていた。
このような楽しさは、書いているうちにたびたび経験した。執筆を続けていなければ味わえない楽しさである、その1つが、組織の知恵であった。
難しさを乗り越えるための知恵を考えているうちに、ひょっと、「組織の知恵」という言葉が浮かんだ。個人の知恵と組織の知恵ではどこか違うんだろうと考えているうちに、私なりの組織の知恵のコンセプトが回りだしていた。コンセプトのまわりだす過程は本当に面白かった。
こんな楽しさを継続的に味わうチャンスを与えてくれた結城さんに改めて、感謝の意を表したい。
続きます