スーパーマーケットのマーケティング Vol.40
40. 組織の試行錯誤とそのメリット
● 試行錯誤による私自身の変化
私は、試行錯誤を続けているうちに、私自身が変わりだしているのではないかと思い始めた。一口でいえば、脳が活性を取り戻しているような気がした。テレビで、スポーツを見ても、ドラマを見ても、ニュースを見ても、みんな面白くなかったのである。どの番組も試行錯誤を繰り返している。スポーツの選手も、コーチも、監督も、アナウンサーも、全て試行錯誤を続けている。
サッカーのアジアカップでは、毎試合苦戦をしながら何とか勝ち残り、最後に優勝を勝ち取った。勝つことはもちろん、うれしかった。しかし、それと同じぐらいに、プレーぶりを見ているのが楽しかった。ゴールキーパーがレッドカードで退場させられた後、1点のビハインドを、1人欠いたままで、逆転したときには本当に感激した。キーパーが退場させられた時、これまでだったら、がっかりしてスイッチを切りたくなるような場面で、何とかしてくれ、何とかしてくれるだろうという気持ちで、ゲームを見続けた。苦渋にゆがんだ監督の顔が映像に浮かんだ。
苦渋の中にも、何とかなる、何とかするという期待と、自信が読み取れる、素晴らしい顔であった。1点取り返した時、逆転した時にも、監督が映し出された。順次、監督の顔は自信にみなぎり、喜びにおおわれるように変わっていった。表情の変化がおもしろかった。これを映し出すカメラワークも面白かった。
私の試行錯誤は、高齢化に伴いしぼんでいた脳に活性をもたらした。少し活性を取り戻した脳で、組織の試行錯誤を見直してみた。見直しに当たっては、少し工夫をした。
これまでは、組織で試行錯誤を進める難しさに焦点を当て、その克服の仕方を考えていたが、これからは、組織の試行錯誤のメリットを考えることにしよう、そう思った。(こんな知恵がどこからわいてきたのかは分からない。脳の活性化の賜物であろう)
組織のメリットを考えだしたら、すぐに、いくつものメリットが浮かび上がった。効果が大きい、時間が短くて済む、力強い、などなどである。組織で問題解決を続けてきたからこそ、今日のスーパーマーケット各社が存在しているのだ。50年前の食品スーパーと、今日のスーパーマーケットではどこが違う、なぜ違うのだと問われて、ただちに、的確に答えられる人はほとんどいないだろう。それほど、素晴らしい変化を遂げてきた。
●2つの側面から見たスーパーマーケットの変化
この素晴らしさを、次の2つの側面から掘り下げてみよう。
その1つは、知識と知恵の側面である。
知識は、個人とは比較にならないほど、組織には50年の間に豊富に蓄えられている。また知恵の出し方も、組織だからこそ巧みになっている。各人が持ち寄る知恵を調整し、組織の知恵とする方策も、組織が自然に身につけている。だからこそ、今日の企業組織ができ上がっているのである。
現在の企業システムは、これからの難題を乗り越えるための基礎である。この基礎を修正、調整すれば難関は克服できる。そして組織はより成熟する。ただ、企業によっては、修正、調整するためのコンセプショナル・スキルが不足しているかもしれない。コンセプショナル・スキル不足の企業は、その補充策を考えればよい。
そのくらいの知恵は出せる基礎はできているはずである。後は自信をもって実行するのみ。「案ずるより、産むが易し」である。
2つ目の側面は、具体化と抽象化という思考法の側面である。
結論から先に述べると、実在の企業が当面する問題と、社内で計画をつくり実施すれば、学者や研究者が計画をつくり、企業が計画を検討してから実施するより、はるかに大きな実績を、はるかに短い時間で上げられるということである。
実務家は日ごろから、現にある組織の中で、具体的な目標を設定し、その目標に向かって具体的な行動計画を作成し、実践している。つまり、思考法は具体化である。学者、研究者の思考方向は抽象化である。研究目的も抽象的にしか表現できないことが多く、目標足りえない。社会事象の研究者はしばしば具体的方向の思考も交えるが、思考の主流は抽象化の方向である。
実務家も時には抽象化思考をする。年度末の統括的レビューを行う時などが好例であろう。
コンセプショナル・スキルが必要なことを痛感する時がある。コンセプショナル・スキルの優れた人材は通常、スタッフなどと呼ばれる職位に配属されている。スタッフたちも常に抽象化思考をしているわけではない。逆に、具体化思考が主流で、主流の流れをよりよくするために、必要に応じ抽象化思考を取り入れるのである。
主流をせき止めたり、逆流させようとするスタッフは、社内評論家として排斥される。
以上が、実務の思考パターンのあらましである。
続きます