2009年秋の視察
夏休みも終わった。
多忙な日々が再び始まった。と言っても以前の勢いはない。
瞬間的な忙しさは、2ヶ月もすればまた秋休みに入り、
そのままクリスマス・正月休みとなる。
米国の失業率はまた上がり、9.8%。カリフォルニアは11.2%にもなった。
リーマン・ショックで大損し、絶対辞めようとした株式市場に、
わずかに残った年金資金で7月にまた足を突っ込んだ。
馬鹿は死ななきゃ治らないようだ。
ひと月で小売は5%、金融は10%、ハイテックは45%、
重電40%、航空会社30%の値上がり。
これをみても小売、金融が極端に弱い。
そして10月に入り、その利益もぶっ飛んだ。でも私は長期的には強気だ。
人間が生きている限り、経済活動は続く。
この乱世から抜けて出てくる国家、企業、業界、また人(英雄)もいる。
それを考えるだけでも興味は尽きない。
付き合いのある先生から夕べ電話があった。
知り合いの企業が2社も倒産したそうだ。
1社は100年も続いた企業である。大切な私のお客でもあった。
慰めの言葉もない。
会社は潰れたが、幸福な人生も可能だと思う。それを祈りたい。
私はどんな時でも、わずかでも、人と違う事(差別化)をしたいと思っている。
何十回も金門橋を見て来た人も、歩いた事はない方々ばかりであった。
金門橋を歩く事にする。
サンフランシスコ湾を吹き抜ける風、車の騒音。
277メートルの鉄の柱・塊を触ってみる。
奈落の底を思わせる橋の下まで66メートル。
サンフランシスコは絵にように美しい。
空も太平洋もどこまでも青い、みんな笑顔だ。
遊んでいる時が一番良い顔だ。
それにしても日本のスーパーで売られている稲荷寿司はどこも同じ味なのか?
そんな質問をしたいと考えて橋を歩いた。
さて、今は商人舎の結城先生とフィニックス、ダラス、に来ている。
目玉はもちろん結城先生の話だが、HEBの元副社長のフレミング女史のセミナー
「HEBのプライベート・ブランド戦略」と各店舗の店長アポである。
雑誌や新聞の情報も必要だが、
出来るだけ店長アポを取って直に話を聞く事を心がけている。
今回もTrader Joe’s, Marketside, Central Market, Walmart,
Market Street, Whole Foods, HEBとアポを取って質問をして来た。
それぞれの店長インタビューは印象深いものであったが、
圧巻はなんと言ってもプレノ市のWalmartであった。
ここは2006年3月22日、アメリカで初の中産階級以上を対象として開店した店舗である。
島陳列をやめ、大きな写真で商品の位置を明示し、
オーガニック(現在580種類)、1300書類のワイン、チーズを強化して、
カスタマー・サービスを重視した、実験店舗である。
リーマン・ショックの前は、この実験店舗が大成功であり、
600店舗同じような店舗をつくる計画もあったが、その後の不景気でその話は消えた。
現在は4店舗ほどあると聞いた。
圧巻は店の話ではない、実は人である。
毎回ここの店長や、アシスタント・マネジャーの話は印象的であるが、
今回のアシスタント・マネジャーは特に強烈なインパクトを我々に与えてくれた。
今、ウォル・マートはProject Impactと言って、売れ筋重視、快適な買い物体験、
そして今まで来なかった人々も取り込むために、すべてを大改革中である。
私たちがたくさんの買い物をしている事に気がついいた彼は、開口一番に
「客の期待以上の事をする。あなた達が望むことをしようと思う。
あなた達が小売業にたずさわっているなら、バック・ルームを見たいはずだ。
それなら案内をする。私はこのような事をしたことは一度もない。
Walmartの歴史でもないと思うが、今日は特別だ。」と発言したのである。
これには私も驚いた。大歓迎である。
バック・ルームはクリーンで整理整頓され、作業効率を考えた在庫管理の仕組み、
運機は利便性、安全を考えて工夫されていた。
創業者、サム・ウォールトンと奥さんの写真が飾られ、
社員が常に創業者に尊敬に念を持つように意識されていた。
また店長・マネジャー クラスの写真も壁に飾られていた。
これは店長のオフィス。
店内を案内中も、カスタマー・サービスが一番大切と繰り返し強調し、
カートが消えた客のために、我々を待たせ、走ってカートを取りに行った事もあった。
少しでも商品が整列されていないとそれを直し、前出しをするのである。
体は常に動き、目も心も100%客の方を向いていた。
また、一方では社員とすれ違う時、必ず声をかけ、笑顔を見せ、
褒め称え、冗談を言い、彼らにも心を向けているのがわかった。
信じられない動き、気配りである。
ウォル・マート恐るべし。
20名近い幹部は非常に優秀であるが、彼は特に優秀だ。
いつでも店長になる準備は出来ていると言っていた。
どこよりも効率化、低価格を実現した彼らがここまで意識改革を実現すると、
天下は当分揺るがない。
店内は2カ月前から棚を低く見やすいようになっており、
Project Impactは着々と進行中であった。
今後、今以上の成長を考えると、裕福な消費者を取り囲むしかない。
彼らはそこに照準を絞った。
他の小売業に与える影響は今までのレベルと違う、本当のサバイバルが始まる。
浅野秀二
10月06日