ラテン系?
19歳になったばかりの夏休み前の出来事である。
頭は丸刈り、学ラン(学生服)をつけ、
とがった皮靴に金をつけ、歩くとカチーン、カチーンと周りに音が響き渡る。
ここは京都4条河原町、鴨川を越えるとやがて八坂神社が見える。
4、5人のニヤケた、か弱そうな若い男女が私に何かパンフレットを渡した。
同志社大学のダンス・パーティーの案内であった。
場所は八坂ホール、すぐそこにある。
体育会系の学生からみると、軟弱な大学生、
西洋かぶれをしたダンスなど、国辱ぐらいにしか考えてはいない。
しかし、知らないで判断をするのは危険だ。
若い時は何でも食ってみないといけない。これが先輩の教えであった。
中に入るとうるさい音楽がけたたましく聞こえてくる。
そこで見た光景は私の脳天をぶち抜いた。
何と口も聞いた事がない女子大生と、男子学生が仲良く会話どころか、
腰に手をあて、抱き合って、ダンスのステップを踏んでいるのだ。
10分前まで知らない同志が仲良く見つめあって、踊っているのである。
足はガタガタ震え、口の中は乾ききってネバネバしていた。
高校は男女席を同じにしない校長の方針でクラスは別であった。
大学は経済学部、660名にうち女子学生は6名、
この当時、経済を勉強する女子大生は女でなかった。
クラブはもちろん男しかいない。
知っている女性は、あの白梅町のパチンコ屋のネーチャンだけ。
(そう言えば彼女は若い時の都はるみだったかもしれない?)
これはたいへんだ。私の青春は何なのだ。
どつき、どつかれ、蹴り、蹴られ、手足の指は突き指だらけ、
ガニ股で時にはびっこで歩く日もある。これが青春の勲章と思っていた。
夏休みが終わり、故郷から帰って来たらダンスを習おうと固く心に決めた。
しかし、いつの間にか10月の終わりになっていた。
忘れかけていたが、ダンス講習2750円で
6つのステップを教えますというチラシを見た。
京都は岡崎会館、あの平安神宮の横である。
イチョウ並木、モミジや、プラタナスの紅葉の美しい街である。
曲が流れた、ブルースというステップを習う。
最初に手を握った女性はたぶん25歳ぐらい年上だ。
手が冷たく妙になめらかで、これが女性の手かと、なまめかしく感じられた。
音楽は盲目の黒人歌手、レイ・チャールズの
「愛さずにはいられない・I Can’t Stop Loving You」だった。
これが縁で四条大宮神埼ダンス・スタジオに4年通った。
ダンス音楽の多くはラテン系である。
タンゴ、チャチャチャ、マンボ、ルンバ、キューバン・ルンバなど。
これにワルツとジルバ、ブルースだった。
前置きが長くなった。このまま上記の話を継続したい気になる。
アメリカに来たらメキシコ系がたくさんいた。
ラテン音楽大好き人間の私は、メキシコ人とお友達なりたい。
寮生活3日目、私のルーム・メイトはメキシコ人になった。私は喜んだ。
次の日、このメキシコ野郎は、女を連れ込むから
この部屋をしばらく出てくれと言った。
2日目、この部屋でパーティーをするから、また出ていけという。
まあ、協力しましょう。
部屋に帰ると私の持ち物はすべて無くなっていた。
カメラ、カセット付きラジオ、ボールペンに至るまで、何から何まで無い。
完全に頭に来た。
彼らの文化を私は知らない。
首を絞め、「すべての仲間を呼び戻せ、盗んだものを返せ」
来たばかりの無知のせいで、戦闘意欲は満々である。
だが結果は半分ほど返ってきただけだった。
やがて、その後2年にわたって2つのアングロ・サクソン系の
アメリカン・ファミリーに住むが、鼻持ちならない。
プライドの高い人々であったが、尊敬できる部分はたくさんあった。
つくづく日本人はこの100年で西洋化したからか?
我々も価値観が元々彼らと近いからか?
わかりあえる事が多いというのが私の生活体験から来る印象である。
昔住んでいた家をメキシコ系の2名の若者に貸した。
3ヶ月後には家賃の滞納、いくら話してもラチはあかない。
弁護士を使って法的に退居させた。
室内はボロボロ、出て行く時に捨て台詞を吐いていった。
「ここは良かった。庭が広いのでマリワナの栽培に適していた。」
もちろん、一年以上家賃は取れなかった。
その20年後、一見人の良さそうな人なエルサルバドル人を入れた。
やはり一年後には家賃は滞納。
しかしバケーションには行く金はあるようだ。
やがてヒスパニック(スペイン語を話す人々)を助けるNPOから手紙が来た。
『貴方の借家の風呂場にはカビが生えている。
これは法律違反だ。家賃の滞納など関係ない、賠償しろ』と。
弁護士に相談し、訴訟するよう行動をとった。
NPOから呼び出しがあった。
「彼らに手切れ金を1万ドルほど出して、出て行ってもらった方が得だよ。」
そんな馬鹿な?正義感が許さない。弁護士はどこまでもやれと言う。
ところが、彼らは市にカビが生えている事を訴え出たのである。
100年以上の物件、新しい建築基準法に違反している所もあった。
修理、改造が必要と言うのである。
市の役人はカビが生えている限り、家主は訴訟には勝てないという。
弁護士は家賃の訴訟に勝っても、他の件で負ける可能性ありと、
結局彼らの悪知恵に負けた。
弁護士代金と家の修復、彼らの引っ越し代金や、
移動先家賃の肩代わり、3年間の家賃はぶっ飛んだ。
テナントの息子たちと話す機会があった。
「お父さんはいつもこのような事をして家賃を払わないでいる。
これが初めてではない。僕たちはこのような大人にはなりたくない。」
この言葉には救われた。
シャワーを使った後、何カ月も窓を開けないで
人工的にカビを増殖させ、掃除もしない。これでも我々は負けるのだ。
今、また問題を抱えている。
家の改装をしているが、労働賃金の前払いもした。
しかしキャビネットのドアを持って行ったまま、もう4ヶ月も来ない。
何十回も電話した。明日は必ず来るという。でも必ず来ない。
どうするか。 怒鳴る?訴訟する? どれも有効な手段とは思えない。
宮沢賢治を読むと、訴えるなど愚かな事はするなと彼は言っている。
もう訴訟はやめよう。
勝っても、家の前に泊めている車が壊されるか、
家の窓ガラスが割られるか、タイヤが引き裂かれるだろう。
彼らをクビにして殺された日本人農場主もいる。
お人好しの我々はなめられるとつくづく感じている。
正直どのように彼らと付き合って行くか?分からない。
アメリカ人なら法と金と暴力で解決するだろう。
価値観の違う外人とうまく付き合うノウハウは何だ。
アメリカには5500万人のヒスパニック系がいる。
特にカリフォルニアは、農業でも、寿司屋でも、
ホテルでも、小売業でも、労働力は、ほとんど彼らである。
アメリカ進出を目指す企業は、アメリカ人というより、
このヒスパニック系とどうして付き合うか、考えないといけない。
貧困の解決が一番だが、教育、宗教も絡んで難しい。
もう昔のアメリカではなくなった。
後20年で白人・ヨーロッパ系が50%を切る。
(一応、メキシコ系は白人種と見なされているが、この場合は非白人)
間違いなくそのころのアメリカは今の力を持ちえない。
その前に我々が国際化する社会で、
台頭する新しい人口とどのように付き合うか?
日本人には体験から来るノウハウが必要だ。
人は皆同じと観念的に考えたら間違いだ。
体験が必要だ。本を読んだ知識ではない。
中南米、中近東、中国と、偶然に中がつく国の人とは、
日本人と大きく価値観を異にすると思った。
どうもそれも序の口だった。
インドもアフリカもロシアも手ごわい。
暴力装置を持たない我々は、
万国共通の、友愛・アミーゴ精神しかない。
鳩山首相の言わんとする事も、わからないわけではない。
浅野秀二
10月28日