ウォルマートとアメリカ経済
アメリカの片田舎、アーカンソー州のベントンヴィルに
本社を置くウォルマート。
2012年7月に創業50周年を迎えた。
売上げ44兆7000億円。(100円計算、2012年1月末)
アメリカ国内の労働者は220万人。
世界一の小売業である。
はたしてウォルマート成功は
世の中にとって良いことばかりなのか、
単純に喜べないと日ごろから思っていた。
ウォルマートは現在の中国のような存在に
なっているような気がする。
個人消費がGDPの70%のアメリカでは、
消費者がアメリカ小売業者の運命を決め、
間接的には彼らがアメリカの経済を左右することになる。
同時に彼らは働き手でもある。
50年前に最大の雇用者であった
ジェネラル・モーターズの賃金は、
今の時給に直せば、年金、福利厚生を含めて
約$50と計算される。
ところが、現在アメリカの最大の雇用者である
ウォルマートの平均時給は$8.81しかない。
その上、ウォルマートの従業員の3分の2は、
1週間28時間以内の勤務時間しかなく、
保険などの福利厚生は適応されていない。
もちろん、多くのことが当時とは違っている。
グローバリゼーション、テクノロジーの変化。
アメリカでは製造業が衰退し、
小売業のようなサービス産業が拡大をした。
もうひとつ大きな要因は労働組合の退潮である。
1950年代は民間労働者の3分の1が労働組合に属していたが、
現在は7%以下に落ち込んでいる。
かつての自動車総連のような労働組合はなく、
経営者側と対等に団体交渉する力はない。
昨年のウォルマートの利益は1兆6000億円(100円計算)。
実はこれら利益のほとんどは株主配当されている。
もちろん、創業者であるサム・ウォルトンの家族に流れ、
現在彼らの富はアメリカの40%の労働者すべての富を
上回っているのである。
ウォルマートの労働者の組織化は可能か?
先月ウォルマートの集会があり、働く労働の経済的困難、
不健康で安全でない労働環境、労働時間超過、
セクシャル・ハラスメントなどの問題点を世間に知らせた。
ウォルマートの動きはすべての小売業に影響を及ぼしている。
彼らの基準が、この業界のスタンダートになっている。
広く言えば、ウォルマートの賃金などが、
アメリカの消費者の消費動向に大きく影響しているのである。
アメリカの中間所得は毎年下がり続けており、
2000年当時と比較しても8%も減っているのである。
アメリカの中産階級が復活しなければ、消費は回復しない。
小売業などのサービス産業に従事している人々の年収は
わずか$18,000~$21,000しかない。
もし、彼らの年収が$25000(フルタイム)まで上がれば、
70万人の人々が貧困家計から救われる。
そのためには小売業の価格を1%上げさえすればよいのである。
そのことで多くの小売業者が恩恵を受ける。
そのことで小売業者の賃金は2兆8000円負担が増えるが、
それは小売業全体の売上げ217兆円の1%にしかならない。
その上、彼らの賃金の売上げにより、
小売業全体の売上げ自体も4000億円から5000億円も
売上げがあがる計算になる。
ウォルマートの賃上げは世の中にとって悪いことではない。
ウォルマートが競合他社からシェアを奪う方針をやめ、
価格を1%上げれば、社会が変わる。
弱肉強食の覇権争いは社会にためになるか?
ウォルマートの成功は疑問を投げかけている。
浅野秀二
12月10日