インド紀行(後記)
現地の人から見れば、
高級ホテルに泊まって、高級レストランで食事をして、
わずか2週間程度の旅行に来ている外国人に、
インドの何が解るのかと言われるのは当然だ。
最初に書いたことの多くを修正しないといけない。
BRICsの4つの国を同列に論じたことは間違いだった。
インドの生活水準はあまりにも低い。
近代国家になるために、
教育、道路、港湾、電気などのインフラが充実していない。
インドと中国を比較するなどおこがましい。
伝統というか、古くからの因習というか、
5000年の歴史は重い。
近代化にふさわしい精神構造を
人々が持っていないのである。
路上のどこにでもゴミを捨て、そこら中でウンコや小便を平気でする。
それが当たり前だと思っている。
死体が流れ、汚染が進む母なるガンジス川の水を神の水とあがめ、
それを飲み、その水で沐浴することを一生の目的としている社会。
今でもカーストの身分によって、ほとんどの結婚は親が決める。
会ったこともない二人が初夜に顔を合わせるのだ。
お互いに気に入らず、二人が逃げたとしても、
娘は親に連れ戻され、木に縛り付けられる。
家名を重んじる親や親戚や町の人々によって
石を投げつけられ、殺される。
そんなことがいまだに地方の農村では時々おこっているらしい。
ツアー・コーディネーターの父親が
死ぬ前に彼にこう言ったそうだ。
「我々夫婦は一度も愛し合ったことはなかった」
子供にとってそれは
一番聞きたくない言葉だったに違いない。
しかし、父親は息子に同じことを
繰り返して欲しくないから遺言として言ったのだ。
ちょうどインド滞在中に、
23歳のソニアという女性がバスの中で
6名の男たちにレイプされ、死亡する事件がおこった。
このことによってインド各地で
何十万人ものデモが起こる大騒ぎになった。
しかし今までなら、
レイプされた女性に責任があるということで終わっていた。
悪いことはすべて女性のせいで、
例えば夫が病死しても、交通事故死しても、
責任はすべて妻にあるとされるらしい。
インド紀行(1)で
「すばらしいリーダーが現れれば、インドは変わる」
と言ったが、それも残念ながら修正しないといけない。
偉大なるマハトマ・ガンジーも、インディラ・ガンジーも、
暗殺されている。
彼らの宗教や伝統、因習に逆らえば、
誰だろうと殺されるかもしれない。
ムガル帝国やイギリスに合計800年もの間、支配されても、
インドは変わらなかった。
お釈迦様が現れ、仏教という素晴らしい教えをインドに広めた。
が、やがてそれも再びインド教というヒンズー教に戻っている。
自然崇拝、多神教など、日本の神教にも似たところはあるが。
さて、最終日はヒンズー教や仏教の聖地、バナーラシ市にて
インド人の博士によるセミナーがあった。
インドの宗教や社会を肯定する理論ばかりであった。
挙句の果てに、ガンジス川の水はきれいだ、と言った。
これに大いに不満を感じたアメリカ人側からは多くの質問が出た。
なにしろアメリカのツーリストの中には博士が2名もいた。
高度な教育を受け、社会経験も十分な年寄連中だ。
鋭い質問にインド人博士はタジタジだった。
私も調子にのって質問をした。
「ヨーロッパのような宗教革命を経ないと
インドは変わらないのではないか?」
彼はそれに対して不満そうに否定をしていた。
インドには良いところもたくさんあった。
不潔さや貧しさを除けば、一度も不愉快な思いはしなかった。
ムガル帝国という異民族が造った
ペルシャ建築のタージ・マハルも自国の宝としてしまう、
寛大さ、多様さは必ず将来の平和外交に役に立つ。
そこが、共産主義・民族主義・中華思想に
凝り固まった中国とは違うところだ。
デリーでたまたま会ったインドの元・国務長官と
2日間にわたって雑談をした。
「安倍首相は何度もインドに来てくれた。日本と仲良くしたい。
中国はいまでもインドの領地を占拠している」と言っていた。
彼は非常に温和なインド人政治家だった。
さて、最終日の朝、星占い学校の校長であるグルに運勢を占ってもらった。
私の星は、ジュピターとビーナスと太陽。
「今までも素晴らしい人生だったが、これからはもっとよくなります。
世界中を旅行するでしょう。
会社で働けば30%の力しかでないが、
自営業をすれば87%の力が出るでしょう。
83歳から90歳まで生きるでしょう。
君にはインド最高の神、シバがついている。
あなたは肉体を使う仕事ではなく、頭脳を使う仕事をしている」
顔はともかく、この可愛い手を見ればわかるはずだ。
私は嬉しくなって合計20ドル、5ドルも余計に支払った。
ちなみに公務員、警察官などの月給は50ドル程度。
彼は2ページにわたって、言ったことを英文で書いてくれた。
あとで私の前に占ってもらったシェリー女史に聞いたら、
彼女は星こそ違うが、まったく同じようなことを言われたらしい。
つまり、誰にでも当てはまる事柄なのであった。
「宗教も占いも心理学である」と言った
インド人ガイドの言葉を思い出して、皆で大笑いをした。
インド旅行は思いがけない、楽しい思い出がたくさんできた。
気球で日の出を見たこと。
気球が地上に降りてきた時、たくさんの子供たちが
無邪気な好奇心をみせてくれたこと。
朧月夜の中、ラクダで農村を見て回ったこと。
ゲルに泊まり、インド音楽に合わせて踊ったこと。
翌朝、野球に似たクリケットをしたこと。
少額の融資で女性が起業した縫製工場や、
マザーテレサが作った施設を見学したこと。
バスの中から非食品のモールは何度か見えたが、
食品スーパーらしきものは一度も見えなかった。
道路のインフラが未整備なことを考えると、
外資系企業が将来、コンビニを展開するチャンスは
大型スーパーより早く来そうだ。
また、路上で買える青果物の安さなどは信じられない。
1日16時間も働き、わずかな利益で生きている行商人の価格と
大型スーパーが競争するのは難しい気がする。
もっと製造業で雇用を増やさないと、
アメリカや日本のようなスーパーマーケットが
活躍する時代はまだまだ来ない。
今年、ウォルマートが地元企業と共同で
プンジャビ地方に進出する。
ここはあの白いターバンを巻いた人々が住む地域。
海外で成功した移民を一番多く輩出した地方だ。
インドの小売業は42兆円程度(100円計算)。
ウォルマート1社の売上げ程度しかない。
インドは流通近代化を目指している。
政府は昨年、外資資本100%の会社の参入を認める決定をしたが、
住民の反対があり、現在は途中でとん挫している。
IKEAが25店舗を開店予定、
カルフールはすでに進出しているが、
小売業で外国資本100%の会社はいまだセロである。
今回のインド訪問でわかったこと。
それはBRICsの中では中国の国力がずば抜けている。
40年前、中国の発展は絶望的だった。
それを考えれば、インドも意外と早く発展するかもしれない。
少なくとも信じられない数の移民が
今後、インドから海外へ出るだろう。
それしか豊かな生活をする方法がない。
そんな気がする。
《クイズ》
Q. 世界で一番牛肉を輸出している国はどこでしょう?
A. 実は「牛を食べず、殺さず」のインドなのです。
なぜか?
「“水牛”は牛ではないから、水牛を輸出する」ということらしい。
水牛の肉は不味い。
それでもインドから東南アジア各地にたくさん輸出されているようです。
ちなみにこれは聖なる牛です。
水牛とは違います。
背中にこぶがあるのです。
<By 浅野秀二>
2 件のコメント
僕も、その星占い学校のグルに運勢を占ってもらいたいですね。仕事も占いも、相手を気持ち良くさせてこそ商売ですから、グルは上手な営業マンだと思いました。インドの貧困者のための銀行や、太陽パネル発電を、アフリカの女性達に普及する運動は、インドの人々の斬新な発想だと思います。釈迦が入滅後2961年たち、末法の世に突入して961年、悪がはびこる末法の世は万年続くとされているので、その後、どんな教えが待っているか楽しみですが、当然生きてませんし、グルにそこまで占ってもらいたいです。
私も近くにグルがいるなら何度でも会いたい。
それほど気持ちよくさせてくれます。
それより我々がグル(グル?)となって、身近な人を幸せにしませんか?
私はいつもそのつもりで人に会おうと思っています。